医師インタビュー企画 Vol.19 髙橋昭彦
わたしが大切にしたいのは、ソーシャル・インクルージョンという考え方です。それは貧困や障がいといった境遇にある人たちを排除するではなく、彼らと助け合う方法を追求すること。わたしが診療にとどまらずに地域活動にも力を入れるのは、一人の人間として、この考えを実現したいからです。

髙橋昭彦 Akihiko Takahashi
ひばりクリニック 院長/認定特定非営利活動法人うりずん 理事長 

誰ひとりとして見捨てない、栃木の赤ひげ・髙橋昭彦

障がいを持つかどうかは確率の問題。たまたま障がいを持つ人とその家族が、なぜこんなにも苦しまなければならないのか――。この思いを出発点に2002年から栃木県宇都宮市で「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちを対象にした在宅医療、家族支援をしているのが髙橋昭彦だ。その取り組みが認められ、2016年には日本医師会「赤ひげ大賞」を受賞。採算度外視で我が道を行く髙橋だが、40歳を迎えるまでは自身の生き方に悩んでいたという。髙橋のキャリアを突き動かした出来事とは。

【目次】
・すべての人に、当たり前の暮らしを
揺り動かしたのは、シスターの言葉と九死に一生の経験
「ないないづくし」のクリニック運営で得た手ごたえ/民間の小さな診療所の挑戦
排除ではなく、助け合う方法を考えたい

すべての人に、当たり前の暮らしを

宇都宮駅から車で30分、視界が少し開けたところにあるヒノキや杉をふんだんに使った建物が髙橋の本拠地・ひばりクリニック。一歩足を踏み入れると、木のぬくもりを感じる空間にスタッフの笑顔が映える。子ども好きが高じて小児科医を志した髙橋は、その言葉の通り、子どもたちを目にすると思わず顔がほころぶ。診察の始まりと終わりは立ってあいさつをするという、親しみある診療スタイルも好評だ。

外来業務に加えて力を入れているのが、人工呼吸器や経管栄養といった医療デバイスで命をつなぐ子どもたちを対象にした在宅医療。医療技術の向上とともに救われる命が増えた結果、医療的なケアを受けながら自宅で暮らす子どもたちは現在増加傾向にある。2016年の障害者総合支援法改正によって「医療的ケア児」と呼ばれるようになり、ようやく法制度のセーフティネットに含まれるようになった。とはいえ、今なお両親の負担は重く、本人の教育や社会参加がままならない状況が続いている。

「医療的ケア児は2015年時点で約1万7000人にも上りますが、高齢者は全国に340万人。この数字からも分かる通り、高齢者支援は誰にとっても身近なものであり、問題意識をもってもらいやすい一方、障がい者は自分の身近にいない限り、なかなか理解されません。

正直なところ、障がいを持つかどうかは確率の問題で、誰にだって障がい者になる可能性がある。だからこそ、社会全体で当事者を支えていけるような体制をつくらなければならないと思っています。当院の活動を通じて、医療的ケア児やそのご家族が当たり前の暮らしを送れるようなサポートをしたい。そしてその過程で、当事者たちの思いや環境について発信して、社会的な認知を高めていきたいと考えています」

現在は外来・在宅医療だけでなく、医療的ケア児の預かり事業や病児保育にまで守備範囲を広げている髙橋。ただでさえ採算がとりづらい小児領域で開業に踏み切る契機となったのは、2001年9月11日、同時多発テロに揺れるアメリカでの体験だった。

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