医師インタビュー企画 Vol.9 林寛之
私たちは、いい教育を提供しなければならない。良質な教育を提供できなければ地方の病院は優秀な医師を確保できず、生き残っていけないのではないかとも思います

林寛之 Hiroyuki Hayashi
福井大学医学部附属病院総合診療部教授

草食系の悪の軍団の結成を目論む林寛之。

vol9_1医療者が皆、笑顔で機敏に立ち働く。これが救急医療の現場だと、にわかには信じられなかった。救急と言ってすぐに連想される言葉は「疲弊」に違いない。しかし、ここ福井大学医学部附属病院の救急の現場では無縁のもののように思われた。人口80万人の福井県で、同院が受け入れている救急患者数は年間約2万人以上。全国の国立大学病院では3位の実績で、受け入れ率も98%ときわめて高い。医療者が疲れきっていても当たり前な状況にもかかわらず、そうした様子が見えないのは、ひとえに2011年、総合診療部の教授に就任した林寛之の力によるところが大きい。撮影のためにカメラを向けると、研修医と肩を組み、舌を出してコミカルなポーズをとる。医学部の教授のイメージも見事に覆してくれた林に、日本の医療界の新しいリーダー像を見た。

一握りの重症患者を見逃さないためにすべての患者を笑顔で診察

vol9_2福井大学医学部附属病院は、全国初の試みとして総合診療部と救急部を一体化し、大学病院では稀な北米型ER(Emergency Room)を展開している。

24時間365日、1次から3次救急の区別なく、すべての患者を同一窓口で受け入れ、総合診療部の救急医による診察を実施。1次から2次相当の患者は救急医が初期治療を行い、重症患者については救急医から各専門医へコンサルトする。しばしば聞かれる“たらいまわし”は存在しない。林は日夜、その最前線に立つ。

「北米型ERは患者のコンビニ受診を促進させるとか、医療者を疲弊させるなどの批判があります。確かに、『この時間帯なら空いているだろう』と来院する確信犯の存在も認めますが、それでも私は、患者さんの救急への受診を歓迎します」

患者や家族は症状が軽症か重症かなど知る由もなく、漠然とした不安を抱えて来院してくる。医療者はこの大前提を忘れていると話す。彼によると、救急患者のうち専門医の治療が必要な患者は約1割、小児であれば数はさらに減り1%ほど。一握りとはいえ、重症患者は確実に存在する。

「一見軽症に見える人の中にも重症者は必ず紛れています。たったひとりの重症者を発見するには、残りの 99人をニコニコと診つづけていなければ見逃してしまう。
夜中に来た患者さんに不機嫌な顔で対応すれば、患者さんは途端に萎縮してしまい、主訴を言うのもためらうでしょう。だから、ニコニコが必要。そして、軽症だとわかっても怒るのではなく、『軽症で良かったね』と笑顔を返せば、患者さんは身も心も救われ、何かあったときはまたすぐ来院してくれるはずです。夜中に運ばれてきた酔っ払いの患者さんを相手に、にこやかに話ができて、初めて一人前のER医だと後進を指導しています」

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