医師インタビュー企画 Vol.4 武藤 真祐
僕は、『こうありたい』と思うものを既成概念にとらわれずに大胆に構想したい。そして、これまでできなかったこと、なかったものを自らの手で創造したいのです。

武藤真祐 Shinsuke Muto
医療法人社団鉄祐会祐ホームクリニック 理事長
一般社団法人高齢先進国モデル構想会議 理事長

武藤真祐の無謀なまでの純粋。

医師インタビュー企画 Vol.4 武藤 真祐

世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本で「高齢先進国モデル構想」を掲げ、 在宅医療を基点とした高齢者をトータルで支える社会システムの構築に向け邁進する 医療法人社団鉄祐会祐ホームクリニック(以下、祐ホームクリニック)理事長の武藤真祐。
東京大学医学部を卒業、循環器内科医として充実した日々を送るも、 疲弊する医療現場にいて構造的な問題があるのではないかと2年と期限を定め、マネジメントの世界へ。 勤務の傍ら、MBA資格、米国公認会計士資格を取得後、超高齢社会における新たな社会システム構築に乗り出した。 多くの人が、エリート医師が緻密な計算のもとに社会問題に挑む姿を想像するかもしれない。 しかし、質問を重ねた取材でわかったのは、武藤の無謀なまでの純粋さだった。

医師が総合力を身につければもっと社会貢献できる

まず、前提としての事実関係を記述する。武藤は東京大学医学部を卒業後、循環器内科を専門に選び、恩師にも恵まれ充実した日々を送っていた。だが、充実はしていたものの、疲弊して構造的な問題も露呈していた医療現場の改革の必要性への思いを強くしていた。そこで、いったん医療から離れ期間を定めてマネジメントを学ぶことを決める。

「医師の潜在能力を専門職の枠にとどめておくのは、もったいない。専門知識に加えて総合力を高めるトレーニングをすれば、医療現場の構造的問題の解決も含めて、もっと社会に貢献できるのではと思ったのです」

選択した鍛錬の場は、世界のトップコンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニー(以下、マッキンゼー)。そこで日本内外の様々な問題解決に取り組んだ。そして2年後に医療界へ戻る際、自らに課した使命が3つある。

(1)未曾有の高齢社会を迎える日本の問題を医療者の立場から解決すること
(2)その過程では地域の患者、家族と心からの信頼関係を構築しヒューマンケアを実践すること
(3)結果、現在及び次世代に希望ある社会を創造すること

総合力を携えた医師が、社会に貢献するためにテーマにすべきは、喫緊の課題の超高齢社会における高齢者の幸福だった。

使命実現の端緒として2010年、東京都文京区に在宅医療専門の祐ホームクリニックを開院した。都営地下鉄三田線千石駅にほど近い閑静な住宅街の一角のマンションの一室に同クリニックはある。30前後のデスクが並び、医師、看護師、事務スタッフ等が、職種に垣根なく打ち合わせを展開していた。筆者が持つ医療機関のイメージとはかけ離れた様相だ。

軽率か、迅速かは結果が決める大義があれば失敗はない

医師インタビュー企画 Vol.4 武藤 真祐前述の事実関係を知れば、誰もが、祐ホームクリニックは用意周到な準備のもとで順風満帆の滑り出しをしたと思うはず。しかし実際は、構想してから半年、具体的な開設への準備は3ヵ月程度という駆け足での開院。ひと通りの準備は行ったが、きめ細かなマーケティングや緻密な市場分析などは行わなかったという。

「『とりあえず始めてみるか』とつぶやいた記憶があります。

潜在需要が見込めるのはどこか、競合はどこにいるか、優位性の高い立地はどこかなどを仲間が調べてくれましたが、だからといって患者さんが来てくれるかどうかは、また別の話です。確かな成功を指し示す計画書のようなものはいっさいありませんでした」

本人も認めているが、思いつくとやってしまう性格である。

「思い立ってから準備に時間をかけないのは、僕の中には『絶対的な意義、つまり大義がある行為は失敗しない』と楽観している部分があるからです。これは、幼少期に確立した考えで、6歳で野口英世に感銘を受け、医師になって人を助けたいと胸に誓った瞬間からずっと、信じて疑わずに行動してきました」

曰く、自分の想いに従ったこれまでの人生で大きな失敗をした記憶がないそうだ。

「祐ホームクリニックでは、通院できない高齢者の方や終末期に近いがん患者さんを診ます。

そういった方々に対して医療を提供することには絶対的な大義がある。すなわち、失敗しない。実行の決定に時間は要しませんでした。

もちろん、患者さん集めは重要ですが、比較的、技術的な話です。大義さえあれば、技術的な部分はあとからでもなんとかなるものです」

最初の月の患者数は9名。開業後すぐに、患者を増やすには「B to C」ではなく「B to B」だと見抜き、「技術的な」対策が即座に実行された。訪問看護師やケアマネジャーのリストを作成し、訪問やFAXで存在をアピール。さらに、積極的なカンファレンスや在宅医療をテーマにした勉強会・実習を開催するなどして、徐々に認知度を上げていった。結果、開院以来1年で、延べ500名の患者を診るようになっていく。

「マッキンゼーにいて得た学びのひとつは、事前のプランの周到さよりも、実行段階で予想しない課題が発生したときへの対処が大事だということでした。

コンサルタントは、緻密なリサーチをもとにプロジェクトを成功に導くプランを立て、クライアントに提供するのが仕事。その先、本当に成功するか否かはコンサルタントの範疇外です。そして、プロジェクトが暗礁に乗り上げるさまを数多く見ました。

クリニック設立において準備に注力しなかったのは、コンサルタント業の専門家集団の中に身を置いた実体験を通して、『大義にもとづいていれば、必ず最後には成功する』との自分の信念に確信を持ったからでもあります」

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