医師インタビュー企画 Vol.4 武藤 真祐
僕は、『こうありたい』と思うものを既成概念にとらわれずに大胆に構想したい。そして、これまでできなかったこと、なかったものを自らの手で創造したいのです。

記憶の棚卸しに興味を持たない苦労話はしたくてもできない

医師インタビュー企画 Vol.4 武藤 真祐

今回の取材での最大の難関、それは「彼から苦労話は聞き出せない」ということだった。

「朝起きると、今日やることや明日やるべきことについては、ピコンと明確に見えます。でも、昨日こうしたから今日はこうしなければといった発想はない。

昨日の出来事を若干は覚えていますが(笑)、今日の自分にほとんど影響は与えませんね。あまつさえ、それ以上の過去について全体を振り返っての『棚卸し』のような作業は、僕の中ではまったく行われません」

唖然とする取材陣に、詳しい解説が提供される。

「正確に申し上げれば、事実関係は覚えていますが、事実にまつわる心象風景が思い出せない。もちろん、何かする都度、なんらかの苦労、あるいは努力をしているのは確実ですが、けっこうすぐ忘れちゃいます。意識して辛い事象を自分の中にとどめないようにしているからでしょう。

著書にも書いたのですが、今日の自分が昨日の自分よりも良いというか、高いところにいるようにするには、『あのとき成功したな』とか、『努力してがんばったな』といった記憶が、けっこうマイナスに働きます。

『あのとき、がんばって良かった。成功したな』と振り返ると、ついそれに頼りたくなる。

過去の達成感は、プライドや自信につながりますが、『一度、感じられたのだからもういいじゃないか』ともなりがち。だから、成功体験をともなう苦労や辛さは、あえて自分の意識の中から消してしまうので、聞かれても、たいていは答えられません(笑)」

パラダイム・シフトに合わせ社会的システムの創出をめざす

医師インタビュー企画 Vol.4 武藤 真祐

推し進めるのは、単なる在宅医療ではなく、高齢者をトータルに支える社会システム。所信は祐ホームクリニック公式ホームページ上に、「高齢先進国モデル構想趣意書」として開示されているので参照されたい。構想を実現するための組織、一般社団法人高齢先進国モデル構想会議(以下、高齢先進国モデル構想会議)は、クリニックを開設して1年後の2011年に立ち上げた。

要約すれば彼は、今後高齢化が進む日本や世界において、人々がそれぞれに必要なサービスを享受しながら、幸せに生活し、孤独でない環境で人生の最期の時間をすごせる仕組みを構築しようとしている。人類が経験したことのない超高齢社会で、もし、そんなモデルができれば、世界が目を見張るだろう。

「僕らが今やろうとしているのは、地域包括ケアの実現と思われがちですが少し違います。現在、各地で芽生えている地域包括ケアのモデルに、技術的にもスキーム的にも、さらなる進化をもたらしたいのです。これまで世界は健常者を中心として技術やサービスを進化させてきました。けれども、今後はそうはいかない。

世界的な超高齢社会へのパラダイム・シフトに際し、社会システムを劇的に進化させるべく、世の中にある最先端の技術を取り入れること、これまでなかったような組み合わせでシナジーを図ること、そしてかかるコストは公に依存しすぎず民間の経済循環性を持たせること――こういった視点を取り入れ、社会システムにイノベーションを起こしたいと思っています。

技術的なイノベーションでの例を挙げれば、今や誰もが持つようになったスマートフォンやタブレット。世界中の人々が見て、『いいね!』と思っている。あっという間に、人々の生活に入り込んで社会構造まで変えてしまいました。僕たちは驚きましたが、スティーブ・ジョブズには見えていた世界に違いありません。

僕は、『こうありたい』と思うものを既成概念にとらわれずに大胆に構想したい。そして、これまでできなかったこと、なかったものを自らの手で創造したいのです。『たいへんでしょう』と言う人もいます。ですが、僕はむしろ楽しんでいる。この変革期に生きてチャレンジができるエキサイティングな人生を楽しんでいます」

「医療」や「福祉」といった既成のプラットフォームが念頭にあっては、結局その枠を超えられない。「高齢化した社会で、社会資本として人々の幸せに資するような何か」というくらい漠然としたイメージで医療を真剣に追求することで、皆が驚き、喜ぶような仕組みが生み出せる。それは日本の社会構造や産業構造にまで影響を与えるものになるだろう。手がける挑戦は、とてつもないスケールだ。

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