医師インタビュー企画 Vol.3 近藤達也
僕は若い医師に『患者さんをよく観察しなさい』と言います。発明、発見のシーズなんて日常的に目の前に転がっているのだから、必ず何か宝物が見つかるはずです。

近藤達也 Tatsuya Kondo
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長

近藤達也が強い理由。

医師インタビュー企画 Vol.3 近藤達也

PMDA――独立行政法人医薬品医療機器総合機構。今でこそ、英語表記のPharmaceuticals and Medical Devices Agencyの頭文字をとった略称で呼ばれ、医療界ではもちろん一般社会でも認知されつつあるが、以前は「機構」と、まるで隠語のような呼称を使われ、長々とした組織名を口にする者もなく、何をするところなのかもあまり知られていなかったという。しかし、一方でドラッグラグ、デバイスラグの解消、薬害肝炎を契機とした安全対策の強化・充実など、抱える課題はきわめて重く、十分に機能することが待たれていた組織だった。
そんな「以前」を吹き飛ばし、状況を一変させ、日本はもちろん世界においてもPMDAの存在価値を高めようと挑み、早くもドラッグラグの顕著な短縮を可能にするなど、実現のハードルを越えようとしているのが近藤達也だ。
厚生労働省の役人の天下り先の筆頭に挙げられることもある同組織を、役人の個人的な“裁量”ではなく、種々の研究の成果としての知識に裏打ちされた科学者の“サイエンス”を根拠に機能するようにした手腕には敬服するばかり。彼の底なしの強さが成せる業である。

噂にのぼりもせずまったく予測されなかった人事

医師インタビュー企画 Vol.3 近藤達也

2008年初春、空席になっていたPMDAの理事長職に近藤が内定した報を聞き、思わず声をあげた医療関係者は少なくなかったはずだ。噂にのぼりもせず、まったく予測されていない人事であった。驚いたのは周囲だけではない。当の本人もまた仰天したそうだ。国立国際医療センター(現独立行政法人国立国際医療研究センター)の院長の定年を目前に、次の勤務先も決まって4月から新天地へと思っていた2月に降って湧いたように打診がきた。

「独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)と言われても、すぐにはピンときませんでした。少し調べて、打診の受諾を即決しました」

PMDAは2001年に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画を受け、国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターと医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構及び財団法人医療機器センターの一部の業務を統合し、2004年4月1日に設立された。主な業務は、医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して迅速な救済を図り(健康被害救済)、医薬品や医療機器などの品質、有効性及び安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査(承認審査)する一方で、市販後における安全性に関する情報の収集、分析、提供(安全対策)も行う。

たいへん重要な機関であるにもかかわらず、前述のとおり、当時、存在を知っている者は決して多いとは言えなかった。メディアからはドラッグラグ、デバイスラグの解消を迫られるに加え、薬害肝炎を契機とした安全対策の強化・充実も求められ、国民からの信頼は失墜していた。そんな組織の長になど誰がなりたいものか。一歩間違えば、積んできたキャリアに傷もつきかねない。

グチャグチャな組織だから理事長を引き受けた

医師インタビュー企画 Vol.3 近藤達也

「グチャグチャな組織だから引き受けたのです」

近藤は「少し調べて、即決した」と言った。PMDAの状況を把握してもなお、いや、把握したからこそ即決したのだ。いったいなぜ?彼は楽しい出来事を思い出すように笑って話を続ける。

「強い野球チームの監督より、最下位チームの監督のほうが、断然面白いでしょう。しかも、国内はもちろん世界にも影響を与えられる可能性を持つ組織の立て直しがミッションだと知って、血が騒ぎました(笑)。マイナスからのスタートだから気も楽です。だから、むしろ打診はグッドニュースでした。

PMDAの課題は、ドラックラグ、デバイスラグ、医薬品、医療機器等の安全対策の強化・充実とはっきりしており、目指すべきゴールを想像できた。医薬品や医療機器の開発を手がけた経験もありますから、ゴールにいたる過程を頭の中でしっかり組み立てられる。断る理由は何もありませんでした」
当時、時の厚生労働大臣の舛添要一氏は、「次のPMDAの理事長には医師を据える」と言い放ったと聞く。恐らく、官僚による支配を解消し、患者・国民の期待に応えられる組織のトップには、患者を第一に考える医師という職を選んだ者こそ、適任との思いが根底にあったのではなかったか。そして、医療界を見渡し、「真の医師」を任命した点で、彼の直感は実に鋭く働いたと言えるだろう。

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