医師インタビュー企画 Vol.17 山本雄士
行政や日本の文化、教育を悪者にして医療業界の現状を嘆いてばかりいるのではなく、『患者にとって必要な医療』をゼロベースで自分なりに考えて、実現させてみたい。重要な意思決定の時にはいつも、そんな思いが勝っていました。

山本雄士 Yuji Yamamoto
株式会社ミナケア 代表取締役

病院の外から医療を開拓する山本雄士

臨床の第一線を離れ、起業家として医療への貢献の道を探る医師がいる。山本雄士、日本人医師として初めてハーバード・ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得し、2011年に予防医療ビジネスを展開する株式会社ミナケアを創業した人物だ。日本ではまだ発展途上とも言える予防医療の領域に力を入れる山本。そのルーツは、臨床現場で感じた素朴な思いなのだという。

患者さんにとってうれしいのは、「病気にならないこと」

vol17_1事業コンセプトは、「ヘルスケアを『コスト』から『投資』へ」。

山本が創業した株式会社ミナケアは、健康保険組合(健保組合)などが保有する健康診断・レセプトデータを解析し、保険加入者の健康向上戦略を提案する。病気を未然に防げば、医療費支出の削減にもつながる。従業員はわずか10余名だが、サービス対象者となる保険加入者は、200万人以上。多いようにも見えるが、全人口に換算すると、まだ数パーセント。今後の成長の余地は大きいと見ている。

「患者さんだって、病気を治されるよりも、病気にならない方がうれしいはず」―取り組みの意義を端的に語る一方、山本は、予防医療ビジネスを日本で進める難しさについて、次のように指摘する。

「国民皆保険制度の日本では、病気になっても3割の支払いで済む。そういう状況下で、予防医療のサービスを満額自己負担で利用してもらうのは、簡単ではありません。サービスを広めるには、医療に対する日本人の意識を根本から変えなければなりません。

予防医療ビジネスのファーストプレーヤーとしての重責は感じます。反対の声を押しのけて起業したミナケアが仮に潰れると、『やはり予防はダメだったか』と周囲から言われ、日本では予防医療が根付かないと思われてしまい、予防医療ビジネス全体への評価を下げることにもなりかねない。予防医療がビジネス・政策上のトラウマになってしまうことだけは避けたいと思っています」

きっかけは、研修医時代の疑問

なぜ山本は、予防医療にのめり込むようになったのか。そのきっかけは、研修医時代にさかのぼる。

好奇心旺盛だった山本は、東京大学医学部卒業後、4年で6つもの病院を渡り歩いた。当時は起業するつもりなど全くなく、臨床医としての修練の一環として、とにかくいろいろな病院で経験を積んでみたかったのだという。数々の病院の臨床現場を眺めるうちに、山本の中にある問題意識が膨れ上がっていった。

「いろいろな病院で患者さんと接していて気になったのは、『そもそもなぜ患者さんは、症状が重くなってから病院に来るのか』ということです。

vol17_2なぜ、もっと早い段階で来院してもらえないのか。一方で、医療機関はまるで『重病になったらいらっしゃい』と言わんばかりで後手に回っているようにも見え、危機感がつのりました」

医療機関では病気の診断と治療が中心。しかし、病気になる手前から医学的な介入があれば、個人にとっても、社会にとっても、メリットが大きいのではないか―日本の医療のあり方に対するこうした疑問は、山本の中で次第に大きくなっていった。

「日本の医療はこのままで大丈夫なのか」。その思いを東大病院在籍時の上司に打ち明けたところ、「医療体制そのものに問題意識があるなら、アメリカのビジネススクールでマネジメントを学び、MBAを取得してはどうか」と勧められた。それまで考えもしなかったことだったが、山本は躊躇なく渡米を決め、ハーバード・ビジネススクールへと進んだ。臨床には充実感も感じていたが、「問題意識をもやもやと抱き続けながら働くのは嫌だ」という思いが、山本を動かした。

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