高齢者への予防医学、看取りのために必要なこと―佐々木淳氏(悠翔会理事長)Vol.2

高齢患者への予防的介入、求められるスキルは?

―悠翔会で現在、中心的に取り組んでいることはありますか。

interview_vol4現在は、高齢患者の予防医学に力を入れています。亡くなるまでの最後の数年間、多くの高齢者は入退院を繰り返すのですが、この入院回数を減らすことができれば、患者さんのQOLも上がりますし、医療費を減らすことにもなります。そのためには、「高齢者は弱っていく」という前提に立って、「この人はどこから弱るのだろう」「いつまで口で食べられるのだろう」「転倒のリスクはどのくらいだろう」などと考え、予測されるリスクをできるだけ回避できるように、多角的なアプローチを行うことが必要です。

―患者に多角的なアプローチするためにどんな知識や経験が必要ですか。

「在宅医療には内科の知識が必要では」と言われることもありますが、個人的には、高血圧の薬について知っているより、栄養学と歯科衛生、リハビリテーション、メンタルケアの4つは入職後でもいいので勉強してもらわないと、患者に対してベストのケアはできないと思っています。
在宅医は自宅に入り込んで、「その人にとって何が一番か」を、患者や家族と一緒に考え、残された時間を一番価値のある形にするために、医師としてどう関わるかを考えないといけない。そのためには単に薬を出すだけではダメで、患者さんの口内の状況を把握することも、冷蔵庫を見て食事をとっているかチェックすることも必要だからです。
自宅という密室で行われる在宅医療は、他人の目が入りづらいため、誰が主治医になるかで、患者の運命が決まってしまう側面があります。「僕のことを信じて」とだけ言って何もしないこともできれば、きちんと予防的介入をして、入院回避、長生きさせることもできてしまう。広くアンテナを張って、対応できる医師が求められます。

看取り対応「亡くなるまでのプロセス共有を」

予防医学とともに大きな柱として進めているのが、看取りへの対応ですね。2011年4月~2013年3月の2年間での看取り数は416人、うち自宅(入居施設を含む)で看取った患者さんは286人(在宅看取り率68.75%)となっています。
「看取りは在宅ですべき」というのが当会の信念です。在宅医療を展開する医療機関が現在、診療報酬で優遇されているのは、「入院を減らして自宅で看取りができないと、医療費が抑えられないから」ですよね。自宅での看取りが支援できないと高いお金をもらっている理由がないし、何より患者さんにも、最後まで自宅にいたいという強い思いがあるので、わたしたちの仕事は国家の要請にも、患者さんの希望にも答えられるものと思っています。

看取りの支援というのは決して、「いつ呼ばれても死亡診断書が書ける」という単純なことではありません。自宅での自然な暮らしの延長線上に看取りを持っていけるように支援することが、わたしたちの仕事だと思うんです。そのためには、死が近づいて弱っていく患者さんを、家族や周囲の人たちが落ち着いて見守れる環境をつくらないといけません。

―看取りについては特に、患者や家族とのやりとりが難しいかと思いますが、何か意識されていることはありますか。

特にご家族にとって、終末期や老衰はなかなか受け入れづらいものです。大事なのは、死に至るまでのプロセスの見通しを立てて、それを受容できる形で伝えて、心の準備をしてもらうことだと思っています。
亡くなる数日前に「これは老衰です」と言われても、ご家族は受け入れられませんよね。「今は元気だけど、1年後は難しいかもしれない」「夏には、ご飯が食べられなくなるかもしれない」「半年後のイメージは持てなくて、あと3か月から半年の間かもしれない」―。伝え方はさまざまですし、死を受容させることはとても難しく、苦手な医師も多いのは事実です。でも、無理やり家で看取って「病院に連れて行った方が良かったのでは」「最期にかわいそうなことをしたかも」と、家族に後悔の念を残さないためにも、終末期を「生き物としての自然な経過」と受容できるように、根気強いサポートが大事だと考えています。

―在宅医療に携わる医師に求められることは、どんなことでしょうか。

在宅医療は、病院の医療とは畑が違います。大前提として、サービスを受ける患者さんは、必ずしも医療を求めていません。最終的な結果に対する安心感や、納得感を求めているということを、強く認識しなければなりません。
患者さん自身、終末期の自分の状況を是として受け入れたいし、「自宅で見守られて死ぬことが、残された人生の中で一番幸せな選択肢なのだ」とご家族も信じたい。そのためのサポートをするのが在宅医の役割なのだと思います。

interview_vol5看取りに向かうまで、患者さんの状態には段階があります。「脳梗塞を起こしたばかりで麻痺が残っていても本人にはやる気がある」と言う場合、我々はADL(日常生活動作)を高めるために関わりますが、その患者さんが、「リハビリを頑張ってきたけどそろそろ弱ってきた」となると、そのとき持っている機能やQOLをできるだけ守るための支援をしようと方向を変えます。そして、それもままならなくなって、寝たきりで意思表示も難しくなってきたら、どうやったら最後まで、その人の尊厳を守ることができるかと考える。段階によって、関わり方や目標は刻々と変わりますから、それを絶えずキャッチアップして、患者さんの幸せを実現させるのが、わたしたちの最終的なゴールだと思います。

患者さんの療養を支援する上では、在宅医自身が、80-90歳という人生の先輩である患者さんに、尊敬の念を持って対応が取れるかどうかが大切だと思います。昔話や自慢話を延々と聞かなければいけないこともありますが、それも彼らの人生です。それを踏まえて、「この人はこういうことを望んでいるのでは」「こう言っているけれど、本当は違うのでは」などと、その人の物語(Narrative)から意思をくみ取っていくことが大切だと思っています。介入内容はもちろんエビデンスに基づいて行いながら、一方でその人の人生の物語をどこまで理解できるか。EBM(Evidence Based Medicine)とNBM(Narrative Based Medicine)のバランス感覚が求められます。そうした点で、柔軟な思考を持っている若い医師が、多く活躍しています。

―病院で提供している医療に比べ、「在宅医療は質の評価がしづらい」とも言われますが、悠翔会では、提供するサービスの質をどのように評価していますか。

当会では年に一度、患者さんやその家族を対象に、医師の身だしなみから診療態度、説明の分かりやすさなど、11項目を5段階で評価、各医師にフィードバックしています。その結果によって、年俸が変わりますし、場合によっては、翌年度、雇用契約が更新されないこともあり得ます。前述の通り、在宅医療の質を測る唯一の尺度は、患者さんの幸せにどれだけ貢献したか、だと思っています。

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