業務は多様 ALS医師のセカンドキャリアとは―病とキャリアvol.3(後編)

2012年にALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、現在は、目や首の動きで意思疎通を図っている竹田主子先生。臨床現場を離れてからは、医師と患者双方の経験を活かし、医療コンサルティングや講演活動などに注力されています。後編では、その取り組みについてお話を伺いました。(取材日:2019年6月3日)

医療コンサルティング、講演、モデル… 多様な働き方

四谷保健センターにて、医療従事者向けに講演する竹田先生

――現在の仕事内容について、お聞かせください。

現在の仕事内容は多岐にわたりますが、主軸は2つあります。1つ目は、医療コンサルティングです。具体的には、医療過誤、医療事故、死因調査などの弁護をサポートしたり、カルテ翻訳をしたりしています。もともと母と祖父が弁護士なので、医療関連の相談事を受けることはありました。ALSを発症してからは、医師や患者という立場から私にできることが多くあるのではないかと思い、「東京メディカルラボ」を立ち上げたのです。
2つ目は、講演活動。医療介護従事者、医学生、看護学生、福祉関係の学生に向けて講演することが多いです。テーマはALSの啓蒙が多いですが、尊厳死についての意見を求められることもあります。講演活動をするのは体力的に月2回が限度ですが、聴講者からいただいた感想はどれも励みになるものばかりで、やりがいを感じています。

ある看護大学で講演を行ったときに、学生から寄せられた感想

これ以外の仕事や取り組みとしては、介護職の資格の問題作成をしたり、看護学生をアルバイトとして自宅に受け入れて、ケアの方法や声が出ない人とのコミュニケーション方法を教えたりしています。同じ病気で苦しんでいる患者さんを自宅に招いて悩みを聞いたり、生活の様子を見せたりする「ピアカウンセリング」にも取り組んでいます。あとは、時々モデルをすることもあります。

――モデルですか?

「寝たきりの人の気持ちをファッションで盛り上げよう!」というプロジェクトがあり、そのモデルをしています。うちにアルバイトに来てくれていたデザイン系の専門学生が、福祉とファッションをつなげる野望を持っている子でした。アルバイトのわずかな合間に、メイク、ネイル、ファッションと私のことをトータルコーディネイトしてくれて――それをSNSにアップして活動したのが始まりです。呼吸器のホースを装飾してくれたこともありました。私は美容やファッションが大好きなのでとても楽しかったですし、プロジェクトの狙い通り、気持ちが上がりましたね。その子は今春から海外留学をしているので、現在プロジェクトは休止状態ですが、海外でも才能を開花させてほしいと思います。
現在の活動内容は、いずれも自分を必要としてくれていることが実感できて、勤務医時代とはまた違うやりがいと楽しみがあります。今では病気であることを忘れて――というよりも、この生活が当たり前になり、日々普通に生活をしているという感覚です。

いつか、診療に挑戦したい

――1日のスケジュールについて、具体的に教えてください。

前提として、介護保険が適用される年配の方は、身体介護、身体援助などヘルパーさんが訪問時にやることが決まっています。私のように比較的若い重度訪問介護者の場合は、ヘルパーさんが要介護者の希望することに臨機応変に対応してくださいます。講演活動で外出する場合などは変動しますが、だいたいは次のような流れです。
まず朝9時に日勤のヘルパーさんがいらっしゃるので、お手洗いを済ませたり、食事をしたり薬を飲んだりします。私は疲れやすいので、午前中~正午にかけて昼寝をします。午後3時半頃には、訪問看護師さんがALS治療に効果的とされる点滴をしてくれたり、身体の拘縮を防ぐためにマッサージやストレッチをしてくれます。夕方になると、夜勤のヘルパーさんにバトンタッチをして、食事をとったりしています。この合間の時間に、視線入力装置を使って仕事やインターネットをしています。いろいろなことを助けてくれるヘルパーさんには、常に感謝の気持ちでいっぱいです。心身ともに支えてくださる、なくてはならない存在。付き合いが長いヘルパーさんは気が合う人が多いので、いてくれるだけで楽しい気持ちになりますね。

看護大学で生徒とコミュニケーションを図る竹田先生

――ヘルパーさんのほかに、先生の精神的な支えとなる存在について教えてください。

家族ですね。ある時、成長した子どもたちに「ママが病気になって、いろんなつらい思いをさせてきてごめんね」と言ったことがありました。すると、「そんな自己満足のお涙頂戴話はやめてくれよ」と言われたんです。「それもそうだな」と思い、それ以来、子どもたちが私の背中を見て育つように、自分の人生を力強く、かっこよく生き抜くことを決意しました。私は寝たきりで全身麻痺の状態ですし、声を出すこともできません。健康な人からすると、自分がこのような状況になったら「気が狂いそう!」と思うのではないでしょうか。でも、強がりでもなんでもなく、今の私はさまざまな生きがいを持って楽しく毎日を過ごしているんです。周りの人たちとおしゃべりをして、ゲラゲラと笑いながら!


――今後、挑戦したいことについて教えてください。

診療です。これを読まれている先生方の「そんなことできるはずないでしょ」というツッコミの声が聞こえてきそうですが(笑)。神経科学者であるエイドリアン・オーウェンの『生存する意識 植物状態の患者と対話する』という本に“人間の脳は、自らを癒す驚異的な力を持っている”という一節があります。これは、植物状態にあった患者が意識を取り戻した時に、筆者が患者に対して持つ感想です。私がALSになって思うのは、「脳は困難を乗り越え、環境に適応する驚異的な力を持っている」ということ。なので、今すぐは難しいかもしれないけれど、科学が進化すれば、いつか診療に挑戦できるかもしれません。その日を心待ちにしながら、今の私にできること、求められていることに取り組みたいと思います。


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