がん経験した今も「患者の気持ち分からない」―病とキャリアvol.5(後編)

縦隔原発混合性胚細胞腫瘍という、数万人に1人が発症する稀ながんに罹患した清水秀文先生。後編では、医師という仕事に対する思いや、がん患者さんとの向き合い方、今後の展望についてお聞きしました。(取材日:2019年8月6日)※前編はこちら

治療に悩む必要がなかった

——お話をお聞きしていると、病気の発覚から現在まで、一貫して落ち着いて対応されてきたように感じられます。

私が落ち着いていられた大きな理由は、この病気自体の治療の選択肢が限られていたからだと思います。どの抗がん剤を選べばよいのか、どんな治療方法を行えばよいのかなど、治療を進める中で迷いや悩みが生じる余地がないことが、かえって良かったのかも知れません。とにかくやるべきことをやるだけ、という思いでした。

——職場復帰は、手術から2ヶ月も経たないうちに果たされたそうですね。

おかげさまで術後の状態も良好でしたので、週5日、フルタイムで復帰できました。ただ、最初の数ヶ月間は夜勤には入りませんでしたし、髪が生え揃っていなかったこともあり、入院患者さんは受け持たず、後方支援で同僚の相談を受ける働き方をさせてもらっていました。自分の担当患者さんも、他の先生との2人主治医体制にしてもらいました。休職中も含めて、同じ科の先生方やスタッフには、本当にたくさんの配慮をしてもらい、大変ありがたかったです。

医師としてなるべく早く現場に戻りたいという思いがあっても、これまでのように働くには、周りの理解や協力なしには難しいでしょう。特に病気を経験してから、そのありがたさを感じるようになりました。もし自分が開業していたら、術後2ヶ月での復帰は難しかったと思います。経営的にも相当厳しかったでしょう。病気になっても休職、復帰の道が用意されているという意味では、勤務医という働き方は恵まれていると実感しました。

がんになっても、がん患者さんの気持ちはわからない

——患者としての立場を経験され、診察において心境の変化はありましたか。

よく「患者さんの目線に立てるようになる」といわれますが、根本的には、患者さんの気持ちというのはわからないものだ、と私は思っています。
患者さん自身が病気をどのように捉え、受け止めるかは、その人の生活基盤や生活のディテールによって変わります。病気の種類で簡単にくくれる話ではありません。だからこそ、できるだけ生活のディテールを知ることが大切だと思いますし、そうしていきたいと改めて思いましたね。
入院期間が月単位であった時代は、患者さんと距離が縮まるにつれ、プライベートの話をしたり、家族と顔を合わせる機会も生まれたりして、生活の一端を知ることができました。ですが今は、外来化学療法が中心のため、生活のディテールを知るようなきっかけが生まれにくいんです。こちらから積極的に聞きださない限りは、なかなかその人の生活は見えません。

——生活のディテールを知るために、どのような方法を取られていますか。

最初の診断時に、できるだけ生活面について触れるように心がけています。例えば、仕事をしている人であれば、「仕事を継続できる方法で治療していきましょう」と伝える。すると、生活のことを話してくれたり、相談してくれたりする人もいます。その際に、“理解したつもり”にならないよう気を付けています。

——他に心がけていることはありますか。

患者さんに情報を伝えることです。私は医師という立場だったから、自分の病気や治療に関する確かな情報を得られた。しかしながら、一般の患者さんはそこが欠けがちです。
私が提供できる情報には限界がありますので、できるだけ適切な窓口を紹介するように心がけています。例えば、生活支援のことであれば、ソーシャルワーカーに繋いだり、がん患者さん向けの公的・民間医療保険制度検索サイトである「がん制度ドック(※)」を紹介したりしています。
また、私が病気になってよかったと思ったのは、他の患者さんと交流の機会を持てたことです。講演の機会をいただき、様々な方と知り合うことができました。そうした経験もあり、患者さんには、患者会や患者向けイベントも案内するようにしていますね。

——治療から8年が経過しましたが、転移や再発の不安はありますか。

同じ症例の中には、数十年後に転移したケースもあるようですが、現時点では転移や再発の不安はありません。念のため、今でも年に1回はCTを撮っています。この歳になると、他のがんに罹患する可能性も出てきますから、検査の時はやはり多少緊張しますね。

——今後、やりたいことはありますか。

がん患者と医師の立場を生かして、もっと様々な形で情報発信をしていきたいと考えています。2021年度からは中学校の新学習指導要領にがん教育が組み込まれるなど、学校教育の現場でも、がん教育が推進されています。私もこれまでに3回ほど、外部講師として東京都内の小学校や中学校に行かせていただきました。外部講師は医療関係者でも患者でもよいのですが、私の場合は一石二鳥(笑)。自身の経験を交えながら、疾患の解説、予防や検診の重要性を子供たちに伝えるようにしています。必要な人に必要な情報を届けられるよう、今後も努めていきたいですね。

※がん制度ドック http://www.ganseido.com/


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