「患者さんを否定しない」傷ついた経験を糧に ―病とキャリアvol.6(後編)

医師であり、線維筋痛症の患者でもある原田樹先生。自分や周囲にとって最善の働き方を模索しながら、3次救急病院の救急科で働き続けています。後編では、病に対する考え方の変化と、新たなキャリアについてお聞きしました。(取材日:2019年11月25日)※中編はこちら

患者さんの声を否定せず、認めてあげたい

──患者として医療者の対応を見てきたことが、現在働くうえで活かされていますか。

病名が発覚するまでに受けた対応が、少なからずあると思います。突然の激しい痛みに襲われた私は、原因もわからず、不安で一杯になりながら、様々な医療機関を受診しました。その時にかけられた言葉の多くは、とても傷つくものでした。「異常ではない」「気のせいでは」「筋肉痛ではないか」「精神的な病が原因ではないか」──。私の訴えが「ないもの」とされたことで、医師の言葉を素直に受け入れられなくなってしまいました。以来、別の医師がかけてくれた共感の言葉にも懐疑的になり、親切心も裏返して見るようになったのです。
その経験から、患者さんとお話しする時には、痛みなどの訴えを否定せず、認めるようにしています。救急外来での検査で異常が認められなくても、「痛いというのはわかります、ただ、私が行った検査では異常はありませんでした」「病気がないとは言いませんが、この場では見つかりませんでした」と言うようにしています。

──患者さんが訴えるなら何かあるはずだ、という考えですね。

治療を進める上で、患者さんと医師との関係性はとても重要です。この場合、「医師個人」ではなく、「医師というカテゴリー」との関係において、です。
私が今勤務している救急外来は、継続的な関係を築く場ではありません。しかし、患者さんにとっては、医師と接触する最初のタイミングです。自分の対応が、その後に関わる医師との関係構築にマイナスに働かないよう、気を配るようにしていますね。

ブログのアクセス数で気付かされたこと

──先生は、同じ病を持つ患者さんに対して啓発活動を行われていますか。

病気を発症した当初は、ブログを通して積極的に情報を発信したり、啓蒙活動を行ったりしていました。ただ、ある時期から、そうした活動を一切やめてしまって──。ブログを通じて知り合った一部の患者さんの、“できない言い訳”を重ねる後ろ向きな姿勢や甘えに、次第に苛立つようになってしまったのです。線維筋痛症の治療にはセルフケアも重要なので、ブログを続けることが自分に悪影響を及ぼすと考えたうえでの結果でした。同時に、医師として、痛みを抱えた患者さんに関わっていく自信も失いました。目標としていたペインの道へ進まず、救急を選んだのは、実はそういった理由もあります。

それから3年後、放置していたブログをふと見ると、1日1,000件ものアクセスがあったのです。線維筋痛症が少しずつ認知され、診断されやすくなっていても、まだまだ困っている患者さん、情報を求めている患者さんがいる──。今までインターネットで患者さんの嫌な部分だけをクローズアップして見ていたけれども、実は大多数の人が真面目に治療に取り組み、何とかしたいと思っていることに気づかされました。
私は恵まれた環境で療養できたけれど、必ずしも全ての患者さんが恵まれた環境にはいるわけではない。一人一人の患者さんにはそれぞれの言い分があって、一方で医師には医師の言い分もある──。その違いが認められるようになったんです。3年の間にさまざまな経験をして、私も大人になったのでしょうね。

発症から約10年、ようやく受容できるように

──先生が病気を受容できたのはいつですか。

正直、ここ1、2年だと思います。それまでは、表面上は病気を受け入れているように見えても、元気な頃の自分や同僚、周囲と比べて落ち込むことがありました。それが「線維筋痛症患者さんのモデルケースにならなければ」という気負いとなり、救急現場でのハードワークに繋がっていたのだと思います。
病気を発症して約10年。学生から研修医、出産、復職して勤務するなどさまざまな経験や変化を積み重ねる中で、ようやく、自分自身に対して労いの気持ちが生まれてきて、これまでの頑張りを認めてあげられるようになったんです。現役医師として活躍する姿を見せることは大切だけれど、何も三次救急の忙しい現場で身を削る必要はない、と思えるようになりました。

──自分を大切にすることが、先生にとっての病気の受容だったのですね。

そうですね。そして、医師としてもペインに関わりたいと思えるようになりました。一番の後押しとなったのは、線維筋痛症の患者さんの声です。「診察を受けるなら、痛みの経験を持つ先生がいい。原田先生だったら、どんなにきつい言葉も受け入れられる」と言われました。私は線維筋痛症治療の専門ではないのに、一緒に治療していきたいと望んでくれる患者さんがいる。それならば、丁寧に寄り添い、信頼関係を築き、その人本来の姿を取り戻せるよう、お手伝いをしていきたいと思ったのです。

来年春には今の職場を退職して、自宅近くの100床ほどの病院で働く予定です。麻酔科に所属しながら、主治医にペインのことを学び、いずれ自由診療で徒手療法を行えればと考えています。
実は今、本を書いていて、来年秋に出版を予定しています。自身の闘病のことや、病との向き合い方などを書き記すつもりです。患者さんには治療を進める上での参考にしていただきたいですし、一般の人には線維筋痛症を通して「見えない障害」の存在を知るきっかけになると嬉しいですね。


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