医師で声優 異例のキャリアで医療に貢献―医師と2足のわらじvol.1

アニメ好きが高じ、診療のかたわら声優活動にも取り組む村本耀一先生。「夢はアニメのメインキャラクターのアフレコをすること」と語る村本先生ですが、医師と声優、全くの畑違いとも思われる職業での”2足のわらじ”を履いているからこそ、目指す医師像があるそうです。

声優と医師 畑違いの領域で一歩踏み出したわけ

―現在、声優の専門学校に通いながら、ナレーションなどの依頼にも応じていると伺いました。まず、診療の傍らで専門学校に通い始めたきっかけについて教えてください。

もともとアニメが好きで、医学生時代から漠然と、「声優にチャレンジしたい」と思っていたんです。尊敬する声優が30代からデビューしたというのもあって「医師になった今からでもまだ遅くない」と思えたのも大きいですね。
医師という職業では、患者さんの気持ちを受け止めながらも取り乱さず、冷静に対応することが求められるのに対し、声優の仕事には、与えられた役柄を理解し、自分の中にある感情を増幅させたうえで表現することが求められます。僕はもともと、感情表出が得意なタイプではなかったからこそ、そんな声優という職業に対する憧れが大きくって――それで思い切って、2017年5月から声優の専門学校に通い始めました。

正直なところ、小さい頃から自分の声にはコンプレックスがありましたし、自分よりもはるかに年下の人たちの中に紛れてゼロから訓練を積むことに、ためらいはありました。「声の力で人の心を動かす」という難しさとは今も格闘中ですが、ただ最近は、役になり切る面白さを感じられるようにもなってきました。平日は病院で診療に携わりつつ、お休みの日や空いた時間を利用して、声優としても指導を受けたり少しずつ、実際に活動させていただいたりしています。

―現在、声優としてはどんな活動をされているのですか。

学校で公募されている案件で面白そうなものを探して、応じています。ドラマCDの脇役を担当したり、ナレーションの仕事を引き受けたりすることが多いですね。
並行して力を入れているのが、友人と始めたオンラインでのラジオ番組のMC活動です。この番組の主眼は、医療とITをめぐる最近のトピックについて医師の目線でざっくばらんに取り上げて、リスナーの方々に医療業界への理解を深めてもらうこと。このほか、舞台演出家の友人とも企画を練っているところなのですが、いろんな診療科の「あるある」をまとめた音声コンテンツをつくれないかとも考えています。そういうコンテンツがきっかけになって医師を身近に感じてもらえたら、一般の方の医療に対する心理的なハードルも下げられるのではないか、と。


―「一般の方の医療へのハードルを下げる」のも、先生にとっては一つのテーマなのでしょうか。

はい。臨床現場でたくさんの患者さんに出会う中で、「病気になる手前の方々にもっと多角的にアプローチできないか」と思ったんです。その問題意識に、声優活動にも手を出そうとしている自分だからこそできる方法で向き合えたら面白いんじゃないかと考えまして。

一般的な声優は、何かアニメ作品がないと仕事がない。つまり自分一人の力では、なかなか仕事をつくりだせないんです。しかし自分には医師というバックグラウンドもあるし、日常の臨床で思うこともある。2足のわらじを履いている強みを生かして、自分なりのスタイルで社会に貢献できたら良いなと思っています。最近では自分と同じように情報発信に意欲的な医療者を巻き込んで、「どうしたら自分たちの思いを、コンテンツという形にできるのか」を考えるオンラインのコミュニティも主催するようになりました。

病院の外に出て、気づいたこと

―医師と声優、2足のわらじを履いていることをうまくご自身の活動につなげていらっしゃるのですね。

そうできたら理想的だなと思っています。やはりせっかくなら、自分でなければできないことに挑戦したい。
病院を飛び出して医療業界の外にいる方々と話すようになったことで、「一個人として自分が社会に対して何ができるんだろうか」と強く考えるようになったんです。病院の中では「数ある医師の1人」ですが、病院の外に出ると医学的な知識を持ったスペシャリストとして、いろいろな期待もされますし、逆に、医療業界にない知見を他の業界の方から教えていただける。院外との節点を持つことで、「自分が社会の中でどうありたいのか」をすごく意識するようになったと思います。
2018年夏にはヘルスケアハッカソンという、制限期間内にITサービスを開発する大会にも参加し、どんなプロダクトがあればよさそうか、医師としての知見を発表させてもらったのですが、それが最優秀賞をいただけて――自分の知見には、対外的に発信する価値があるんだと、一定の自信にもつながりました。

軸は医師。優しい視点で一貫して人に寄り添える存在でありたい

―臨床に声優にアプリの開発に…と、非常に精力的に活躍されているご様子ですが、今後の目標についても教えていただけますか。

いろいろ手を出している状況ではある一方で、正直なところ、医師としても声優としても、僕は本当にまだまだこれからなんです。他の先生方からも認めてもらえるよう、臨床スキルも向上させなければなりませんし、声優の専門学校で学んだことも生かしつつ、一般の方に医療をもっと身近に感じてもらえるよう、作品づくりやサービスの開発にも携わりたい。何だか欲張りすぎかもしれないですが、自分にしかできない形で社会に貢献する方法を、模索し続けたいというのが根底にある思いです。

ただ、いろんなわらじを履いてしまっている状態ではあるのですが、自分の主軸は医師業だと思っていて。本来的には放射線治療医として、不安を抱えるがんの患者さんを支えられる存在になりたい。病気になる手前の「健康」の支援から、終末期のサポートまで。優しい視点をもって、一気通貫で人に寄り添えるような医療者になることが、僕にとっての究極的な目標なんです。


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