「外科医に未練なし」バーテン医師の決意――医師と2足のわらじvol.17(後編)

外科医兼バーテンダーの江原悠先生。医師としてのキャリア観に加えて、お店に来るお客さん、診療する患者さんに向き合う際に気を配っていることについても伺いました。(取材日:2019年7月1日)※前編はこちら

外科医のキャリアに未練なし

―河北総合病院で多くの手術を経験し、外科専門医も取得したタイミングで常勤を離れることに不安などはなかったのでしょうか。

外科医というキャリアに固執していないんです。オペは好きですが、一生やっていたいかというとそうではない。外科医のキャリアの王道だと、専門医を取ったら大学の医局に入ったり大学院で研究したりしますよね。そのときに第○外科、上部消化管外科などを選んで、その分野を研究して、学位を取ってその道を進んでいくわけですが、私はそれを選べませんでした。胃も大腸も肝胆膵もどれも面白いし、面白くない部分もある。でも決めないと、そこにキャリアはない。結果的に、外科医としてキャリアを積み重ねていくことへの興味が薄れていってしまったんです。


―医師とバーテンダー、2つの仕事に共通点や違いはありますか。

接客業であるということですね。医療は、究極のサービス業だと思っています。
目の前の人の満足度を上げるためにどうするかは、医師の時もバーテンダーの時も常に考えています。
一方で、違いはかなりありますよね。まずバーの仕事は個人事業で、何でも自分で決められて、自分のタイミングでできるので楽しいし、充実しています。逆に言うと、自分が動かないと物事は何ひとつ動きません。自分の裁量で全てできるところが私には向いているんだと思います。つぶれても自分の責任ですし(笑)。
医師も「決めなければいけない仕事」ですが、決定したことを指示するだけで、自分が患者さんを運んで検査するわけではありません。オーダーした検査が、実際どのように行われているのかよく知らないこともあります。特に専門外だと、どういう流れで、何分くらい待つ必要があって、どれくらいつらい検査なのか、その全容までわからないこともあります。
医師が処方・指示しないと動かない現場ではありますが、偉そうにならないように、受け手側の気持ちを考えるように、常に気を付けていましたね。これは、接客業のアルバイト経験に助けられている部分だとも思います。

お店に来てくれる患者さんも

サクラのカクテル

―お店に来るお客さんは、どのような方が多いのでしょうか。

あくまで感覚値ですが、30%が前職の関係者、35%が近隣のお店からの紹介などで来てくださる方、残りの35%がSNSなどでたまたま知って来てくださった新規のお客さんです。年代は20~40代が中心ですね。
SNSで情報発信する以外の営業は一切していないし、通り沿いに看板もつけていません。ビジネスなのでたくさんのお客さんに来てほしいとは思いますが、いつも満席のバーは居心地が悪いじゃないですか。レストランとは違って、バーはお客さんがくつろげないと意味がないですから。だから、半年くらいかけてこの店の「常連さんたち」ができればいいなと思っています。それでも今のところお客さんが来てくださり、売上もある程度立っているのはありがたいし、この街に助けられているところもありますね。阿佐ヶ谷の飲み屋は店同士の繋がりがあって仲が良く、お客さんを送り合う文化があります。自分の店だけ良ければいいという街ではなく、店同士の仲がいいから、お客さんも楽しく飲み歩きができるんだろうなと思います。

―カウンターに立つ上で、気を付けていることを教えてください。

お客さんの顔を見たり話を聞いたりしながら、「今、この人は楽しんでくれているかどうか」を常に気にしています。ここで過ごす時間にお金を払ってくださるわけですから、それはいつも考えていますね。
名前を伺った方は、メモを残しています。オーダーしたものや会話した内容までは書いていませんが、ほとんど覚えていますね。苦手なフルーツなども覚えているので、好みを把握している方には「次はこんなのどうですか?」といった提案もします。

―すごいですね。患者さんのことも覚えているのですか。

自分が診療した患者さんの場合は、覚えるというよりも忘れられません。店に飲みに来てくれる患者さんもいますよ。お酒は出しにくいですけど……。
お客さんに気を配っているのと同じように、患者さんに対しても接しているつもりです。私には高度な医療は提供できないかもしれないけど、「この先生に会ってよかった」と思ってもらえるような診療を心がけています。言葉遣いひとつ、気遣いひとつで人への印象は大きく変わりますから。

王道のキャリアを外れたからこそ、見えるもの

―2つのキャリアについて、今後どのように考えていますか。

店はまだ始まったばかりなので、事業としてしっかり固めつつ、常連のお客さんを増やして楽しくできればと思います。大きい利益を出したいというより、自分が楽しめるように心がけていますね。たまに「値段設定が安すぎないか?」と心配されることがありますが、本当に安いので是非確かめにいらしてください(笑)。
医師の仕事も並行して行う現在のワークスタイルの方が精神衛生上いいので、しばらくこの働き方を続けていくつもりです。この先、自分の気持ちが変わることがあれば、そのときの気持ちに従いたいと思います。

医師として王道のキャリアを積み重ねている先生方の中には「けしからん」と思う人もいるかもしれませんが、自分の力で生活していますし、家族・お客さんを含め身近な人を幸せにしているつもりです。
臨床医のメインストリームから外れた立場から見ていると、悩んで組織に入って、その後も悩み続けてつらそうな先生は、少し視点を変えれば気持ちが楽になるのではないか、と思うことはあります。現状に悩みを抱えている理由の一つに、“こうあるべき”とされている医師のキャリアプランに、無理矢理自分を当てはめている部分があるからではないでしょうか。職場の空気を読んで妊娠を控えるとか、意味が分からなくないですか。仕事に対するスタンスを変える、思い切って職場を変える、休養を取る――現状を少しでも良くしたり、変えたりできる選択肢は、決して少なくはないと思います。私の場合は特殊だと思いますが、王道のキャリアを外れても、意外と生きていけるものですよ。

江原悠(えはら・ゆう)
兵庫県神戸市出身、2012年大阪大学医学部卒業。福井県立病院で初期臨床研修修了後、2015年から2018年7月まで河北総合病院消化器・一般外科で勤務。2017年外科専門医取得。2019年5月にBar Hoyaをオープン。
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-14-12 パティオエルスールビル2F
Facebookアカウント @barhoyahoya
Instagramアカウント @bar_hoya

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