ストレスチェック、その活用方法とは?―Dr尾林の産業医ガイド(5)

尾林誉史(おばやし・たかふみ)

すでにご承知のことと思いますが、「労働安全衛生法」が改正され、従業員が 50 人以上いる企業では、2015 年 12 月から毎年1回、ストレスチェックを全ての従業員に対して実施することが義務付けられました(契約期間が1年未満の従業員、労働時間が通常の従業員の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は、義務の対象外)。その内容に厳密な制約はないのですが、実際には職業性ストレス簡易調査票(いわゆる57項目)そのもの、もしくはそれに準拠した内容にて実施している企業が大半のことと思います。わたしが携わっている企業でも、まずは57項目から開始しているのが実態です。これに代わる質問紙票がないことも事実なのですが、まずは法に準拠して始めることが肝要です。今回は、ストレスチェックをどのように開始し、その実施内容をどのように活かすべきかを前向きに考えてみましょう。

【目次】

協働体制をつくって、作業を内製化しましょう

「ストレスチェックを実施しなければいけないのは分かるけど、どうしたらよいのだろう?」と、思い悩む企業も少なくないと思います。実は、厚生労働省が推奨している職業性ストレス簡易調査票に関しては、質問内容も集計方法も厚労省のホームページに開示されているのです(下記参照)。質問票の作成方法も集計方法も、さほど難しいものではありません。ストレスチェックを代行してくれる会社も多数ありますが、社内でエクセルをある程度使いこなせる方がいるのであれば、その方に事務作業を依頼することをお勧めします。社内で担当者を決め、産業医と協働するだけで、驚くほど簡便に実施できるためです。

面談を希望するか、あらかじめ聞いてみましょう

法的には、ストレスチェックを実施後、高ストレス者と認められる従業員に対してのみ、面談希望を聞くことが必須事項になります。それはそれで行うこととして、ストレスチェック実施時に、「結果に関わらず、産業医との面談を行うこともできます。お話ししてみませんか?」と尋ねてみることをお勧めします。厳密ではありませんが、わたしが携わっている企業では、従業員数の10~30%程度が高ストレス者と判断され、そのうち10%程度が面談を希望するような実感値です。質問紙票の限界として、「こう答えれば、こう判断されるだろう」と、質問内容から診断結果をある程度類推されてしまうため、正直に回答する従業員は、どうしても少なめに出てしまいます。ストレスチェックは、従業員の声を拾い上げる絶好の機会。隠れたニーズを抽出するためにも、産業医面談という開かれた場があることを事前に知らせてしまうことをお勧めします。

ストレスチェック実施後の面談は、速やかに行いましょう

わざわざご説明するまでもないかもしれませんが、ご本人が望まれた面談機会を、会社都合で棚上げにするメリットは全くありません。ストレスチェック導入直後には、種々の制約から、実施から面談までに半年以上の期間を要してしまった企業もありました。幸い、「あの時期は確かに大変でした。でも、いまは落ち着いています」といった内容が多数であったため、お互いにとって致命傷には至りませんでしたが、それはあくまでも結果論に過ぎません。面談を望むのは、それなりの理由があってのこと。ご本人が困っている時期に、面談を速やかに実施することは、何を置いても優先されるべきと思います。今後、認知も含めて制度が成熟してくれば、「面談を希望したにもかかわらず、適切な時期に対応してもらえなかった」というトラブルが生じることも十分に考えられます。リスク回避の観点は副次的なものですが、ご本人の声にしっかりと耳を傾ける企業スタンスは、明確にしておくべきでしょう。

ストレスチェックは、法をクリアするための義務ではない

これまでの連載でも記してきましたが、わたしが考える「産業医の在り方」を実践していますと、ストレスチェックで新たな潜在層が湧き出てくる現象は、正直なところ、ほとんど起こりません。逆に言えば、理想的な産業医活動が営めていれば、ストレスチェック制度は不要なのです。詳しくは前稿に譲りますが、「今年のストレスチェックでは、大きな動きがなかったな」と思えれば、健全な産業医活動が回っている証左でしょう。ただ、限られた訪問時間をカバーする仕組みを作り、人事・労務の方々を味方につけてもなお、目が届かぬ従業員の方は、どうしても出てくるもの。例えば、ストレスチェックを機に、役員クラスの方が「今後のキャリアを見直したい」と申し出てきたり、これまで申告しにくかった、がん治療と仕事の両立について見つめなおす機会を求めてこられたりするケースもありました。ストレスチェックが真情を吐露する良い機会となった事例は、少ないとは言え、実際に存在します。ストレスチェックは、法をクリアするための義務ではなく、産業医活動の幅を拡げてくれるチャンスと捉え、着実に、かつ積極的に行っていただきたいと思います。

【著者プロフィール】
尾林誉史(おばやし・たかふみ)
東京大学理学部化学科卒業後、株式会社リクルートに入社。2006年、産業医を志し退職。2007年、弘前大学医学部3年次学士編入。2011~13年、産業医の土台として精神科の技術を身に付けるため、東京都立松沢病院にて初期臨床研修修了。2013年、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。同時期に、精神科の後期臨床研修を岡崎祐士先生(前・東京都立松沢病院院長)のもとで受けるべく、長崎市にある医療法人厚生会道ノ尾病院に赴任。リクルートグループの嘱託産業医を経て、主に東京に本社のある企業6社の産業医も務めている。


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