近畿地方の子どもたちを守る! 救急集中治療科再編の軌跡 ― 黒澤寛史氏(兵庫県立こども病院)

国内に小児専門の集中治療科がなかった2000年代前半。重症の小児患者への治療に疑問を感じていた黒澤寛史氏は、その思いを原点に小児集中治療医としてのキャリアを歩み始めました。2016年には、兵庫県立こども病院の救急集中治療科の再編に参画。小児集中治療科が最大限の力を発揮できる体制を構築しました。そんな黒澤氏が思い描く、次なる目標とは一。(取材日:2018年1月25日)

小児集中治療を学べる環境を

―小児の集中治療医として、キャリアを歩むようになったきっかけを教えてください。

大学卒業後、仙台市立病院の小児科で働き始めました。この病院は地域の基幹病院であるため、重篤な子どもたちも多く運ばれてくるようなところ。しかし―当時は全国的に同じような状態だったと思いますが、小児集中治療を専門的に学んできた医師はいませんでした。このような状況下で多くの重篤な子どもたちを診るうちに、「この子どもたちにとって、もっといい医療があるのではないか」という疑問を抱くようになっていって―。

そんなことを考えていた医師2年目の夏に参加した小児救急医学会で、東京都に国立成育医療センター(現・国立成育医療研究センター)が開院することを知ったのです。重症患者を診る小児集中治療科と中軽症を診る総合診療科を中心にして、その周囲に各臓器別診療科がサポートする救急・集中治療体制が構想されていました。「自分が理想に思う診療体制と似ている」と感じ、2002年、開院と同時に同センターの小児集中治療科に赴任。小児の集中治療科医として歩み始めたのです。

―その後、兵庫県立子ども病院の小児集中治療科に赴任するまでの経緯をお聞かせください。

小児の集中治療は、そもそも患者さんの絶対数が少ないです。そのため、2年間国立成育医療センターで勤務した後、神戸市立医療センター中央市民病院の救命救急センターで成人の救急・集中治療に携わり、研さんを積みました。その後、静岡県立子ども病院の小児集中治療科の立ち上げに参画。さらなるスキルアップと研究に従事するために、アメリカ・フィラデルフィア、オーストラリア・メルボルンへ留学しました。

メルボルンで1年が過ぎた頃、兵庫県立こども病院から来ないかと依頼が来たのです。当時の兵庫県立こども病院は、新病院へ移転するタイミングでした。それにあたり、もともとあった救急集中治療科の再編を構想していたのです。わたしとしても、日本にしっかりと小児集中治療のトレーニングが積める施設がもう少し増えるべきだと感じていたところでした。特に、西日本にはそのような施設がなかったので、理想とする小児集中治療科を立ち上げるべく、赴任を決意しました。

再編計画を変更して、体制づくりをする意義

―救急集中治療科の再編は、具体的にどのように進められたのですか。

当初は、心臓外科と循環器科が担当する心臓疾患集中治療室(CICU)、小児集中治療室(PICU)、救急病棟、集中治療室から一般病棟へのステップダウンユニットである高度治療室(HCU)の4病棟をつくることが掲げられていました。その中で、集中治療科の担当はPICUのみ。これでは集中治療科の能力を十分に発揮できず、重篤な子どもたちに最適な医療が提供できない―。そう考え、救急病棟は救急総合診療科や各専門診療科が担当し、CICU、PICU、HCUの計27床を小児集中治療科が各診療科と協力しながら診療にあたる体制に再編しました。

カギとなったのが、HCUです。HCUをPICUの隣に配置して集中治療科が担当することで、集中治療室から一般病棟に移るまでの期間、一貫した治療が可能になります。冬場は特に重症になる子どもが増えるため、集中治療室のベッドが足りなくなってしまいます。しかし、すぐ隣にHCUがあれば一旦そちらに入ってもらうことができる。病床運用の観点からも非常に効率的ですし、何より患者さんの安全性も高まります。

-もともとあった構想を変更することは、苦労も多かったかと思います。

確かにその通りです。しかしわたしは、CICUからHCUまでを小児集中治療科が担当することで、小児集中治療医が研さんを積む場として恵まれた環境を作りたかった。そのような環境をつくることで若い医師が来てくれるようになれば、日本全体の小児集中治療の質を高めることができると考えたからです。このような教育環境をつくることは、わたしが当院に赴任を決めた理由でもあったため、どんな苦労も覚悟のうえでした。

近畿地方をカバーできる、小児集中治療科へ

―現在の課題は、どのような点にありますか。

現在、合計15名の医師が勤務しています。そのうち5名が常勤医ですが、病棟責任者を務めることができる常勤医をあと3名増やすことが一番の課題ですね。わたしも含めて、病棟責任者たちは月8回の当直をこなしている状況。体力的に厳しい部分もありますし、何より、研究や若手医師の育成に時間をあまり割けていないのが現状です。この点を改善することが、患者さんにさらに質の高い医療を提供するためにも、若手医師の教育現場として発展させていくためにも必要不可欠。医師数が増えればそれだけ患者さんの受け入れもできるので、重症患者さんの集約化が可能になります。小児科医不足や少子化の現状を踏まえると、重症患者さんを集約化して、地域の医療機関とうまく役割分担をしながら、小児医療に取り組んでいくことが必要だと考えています。

医師数が足りないことに付随して、取り組みたくても取り組めていないことの1つに「迎え搬送」があります。医師不足については、地域の医療機関の方がより深刻ですが、その状況下でも、できる限りのことをしてくださっています。そのような先生方の負担を少しでも減らし、同時に重篤な子どもたちに対して、スピーディに適切な医療を提供するためにも導入していきたいのですが、なかなか手が回っていないのが正直なところです。

―迎え搬送をはじめ、地域との連携をより一層深めていこうとしているのですね。

そうですね。地域の医療機関からの紹介や講演依頼が増えたり、神戸大学との交流も始まったり、地域との関係性ができつつありますが、できることはもっとあると思っています。

先程話に出た迎え搬送に関しても、まずは地域の医療機関がそれを本当に求めているのかを確認するところから始めるべきですね。当院としては地域の医療機関に負担がないよう、適切なタイミングでこちらに搬送できる体制をつくろうと考えていますが、もしかすると地域の医療機関側は「自分たちで診られる」と思われるかもしれません。また、重症患者さんの集約化はある程度できているように感じていますが、タイミングは適切か、地域差はないのかなど、正確な状況把握も必要だと思っています。そのためにも、これまで以上に地域と関係を深め、状況把握できるようにしながら、ニーズに即した医療体制を整えていきたいですね。

さらに今後は、兵庫県内だけでなく、より広域的に地域を捉えていくべきだとも考えています。既に何度も申し上げていますが、小児の重症患者数は成人に比べると圧倒的に少ないです。例えば、重症呼吸不全・循環不全に対する治療である体外式膜型人工肺(ECMO)は、成人の場合、年間30例程診ないと十分なスキルは積めないと言われていますが、小児ではそれだけの症例数は県単位でも集まりません。そうすると、県を超えたより広い単位で患者さんを集約していかなければならないのです。小児集中治療科再編後、滋賀県からECMOが必要な患者さんが一度だけドクターヘリで搬送されてきたことがありました。このような事例は、件数こそ多くないかもしれません。しかし、地域の中核病院として取り組んでいくべきことだと思いますので、まずは近畿地方をカバーできる小児集中治療の中核へと当院を発展させていきたいですね。


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