医師不足地域でも複数医師体制を継続できる施策とは ―坂戸慶一郎氏(健生黒石診療所)

健生黒石診療所(青森県黒石市)では、複数医師体制の継続に注力しています。その背景には、所長を務める坂戸慶一郎氏の「病院の負担を減らし、地域全体の医療をしっかり支えていきたい」という考えがありました。坂戸氏が思い描く理想の診療所像、今後の展望についてお話を伺いました。(取材日:2019年1月19日)

人の縁を大切にして、青森県で働きたい

—家庭医を志した理由から教えてください。

高校時代に黒澤明監督の映画「赤ひげ」を観て、厳しいけれども優しく、地域の人のために尽くす赤ひげ先生の姿に憧れ、漠然と医師になりたいと思いました。将来像が明確になったのは、弘前大学医学部に入学した後です。1年生のときに、さまざまな医療現場を見学する機会があり、そのうちの1つが青森県五所川原市の診療所でした。当時、その診療所に勤務していたのは、3~4年目の若手医師ただ1人。その医師が地域の人から求められ、大事にされている姿に感銘を受け、「わたしもこういう診療所で働きたい」と家庭医を志すようになったのです。

―坂戸先生の出身は千葉県ですが、大学卒業後、地元に戻ろうとは考えなかったのですか。

青森県で6年間の大学生活を送るなかで、多くの人とご縁があり、このまま青森県で頑張ろうと思ったのです。現在所属している青森県民主医療機関連合会(以下、青森民医連)は、新医師臨床研修制度が始まる前から初期研修に力を入れていました。学ぶ環境が整っている青森民医連なら、安心して研鑚を積めるとも思ったので、地元に戻ることはあまり考えていませんでしたね。

診療所が教育を担う理由

―現在は、青森県黒石市にある健生黒石診療所に勤務されていますね。

2010年に所長として赴任し、9年目になります。わたしが赴任してからは、外来に加えて在宅医療にも力を入れて取り組むほか、教育施設として、医学生や研修医を積極的に受け入れています。初期研修医は当法人や京都府立医科大学から年間2~3名、総合診療専攻医が毎月1~2名、入れ替わりでやってきます。今は専攻医が毎月いてくれているので、外来診療を2~3人体制ですることができています。

当診療所は、診療所の外来や訪問診療をしっかり学べることはもちろん、看護師などのスタッフたちが温かく研修医を迎え入れてくれたり、地域のお祭りに参加したり、楽しい環境づくりを意識して「集団で楽しく学べる」ことを目指しています。そこに共感した初期研修医や専攻医が来てくれているのではないかと思っています。

―現在、最も力を注いで取り組んでいるのは、どのようなことですか。

当診療所の複数医師体制を継続することです。それが地域のプライマリ・ケアだけでなく、救急医療や高度な専門医療を支えることにもつながると考えているからです。

わたしは当診療所のほかに、病院の内科外来や救急外来を手伝ったり、小児外来に入ったりしています。所長のわたしが他院の外来に入るのは、自分自身の勉強という意味もありますが、このあたりは医師が少なく、病院の側面支援になると考えているためです。地域の診療所に対しても、何かの事情で休診しなければいけないとき、当診療所が代診をして支援しています。地域に医師が少ないからこそ、みんなで支え合えるようにしたいと考えています。

そして、このようなことができるのは、専攻医が常にいて複数医師体制を保てているからです。1人の医師に負担をかけないためにも、この体制を継続していくことが何よりも重要だと考えています。常に専攻医が来てくれて、人員がある程度確保された診療所を目指していきたいですね。

―教育施設としての機能を保ち続けるのが、カギになりそうですね。

その通りです。研修施設としての機能維持が不可欠なので、さらなる教育の質の向上が重要だと考えています。

現在、青森民医連として家庭医療後期研修プログラムをつくっています。当診療所は、診療所外来と訪問診療の研修施設の役割を担っているので、家庭医療専門医認定制度に則った教育はできていますが、質の向上においては、まだまだやれることがありますね。
わたし自身、指導医として、より学び続ける必要があると思っています。しかし、わたしも専攻医も日々の臨床業務に追われてしまっていることが課題で――。日常業務をしっかり行いながら、いかに教育の時間をしっかり取るかは、現在模索している最中です。

パワーある診療所に

―今後、実現していきたいことはありますか。

総合診療・家庭医療の質と量の発展を通じて、東北地方全体の医療に貢献したいという思いは、一貫して持っています。そのために、わたしができることは2つ。1つは、地域で総合診療医や家庭医として活動されている先生方と横のつながりをつくること。もう1つは、診療所の本来の役割をきちんと果たしていくことではないかと考えています。

総合診療・家庭医療の医師を増やすことも大切です。しかし、広大な東北地方全ての地域に、総合診療医や家庭医を配置できるほど数を増やすのは、簡単ではありません。一方で、専門分野を持ちながら実質的に総合診療を担っている先生方が、既にたくさんいらっしゃいます。そのような先生方とつながりをつくり、お互いに協力しあえる体制を構築することで、東北地方全体のプライマリ・ケアの質と量の向上に寄与できると考えています。

診療所の役割については、地域の健康問題の多くに対応し、どうしても病院の力が必要な場合は、病院のお世話になる。当たり前かもしれませんが、このような協力体制を維持できる診療所がもっと増えればと思っています。
お世話になっている病院の救急医から「健生黒石診療所から送られてくる患者さんは、入院の必要な方が多くて大変だ(笑)」と言われたことがあります。もちろん、この先生は冗談でそう言っていますが、前向きな言葉として受け止めています。自分たちで診られる患者さんはしっかり対応し、入院治療が必要な患者さんは速やかに病院と連携することを意識した結果だと思います。一方で、状態悪化にて救急受診しなければならない事態をできるだけ未然に防ぐことも心掛けたいところです。診療所が自身の役割をしっかり果たすことで、地域の病院の先生方の負担を少しでも軽減したいと思います。

まずは当診療所が、プライマリ・ケアに限らず、高度医療も含めて地域全体の医療を支えられる、パワーある診療所に。そして、東北地方の診療所の先生方と協力し合いながら、このような診療所を増やしていければと思います。

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