断酒ではなく「減酒」という選択肢を―私の専門外来Vol.4~減酒外来(前編)

臨床精神医学、アルコール依存症を専門とする湯本洋介先生が、国立病院機構 久里浜医療センターに赴任したのは2014年4月のこと。アルコール依存症の患者さんに寄り添い、回復に尽力されてきた湯本先生は、2017年5月、同センターに新設された「減酒外来」の担当に抜擢されます。前編では、外来立ち上げの経緯やアルコール科との違いについてお話を伺いました。(取材日:2018年12月7日)

アルコールで悩む方に、受診しやすい環境作りを

−−−長い間、アルコール依存症の治療にあたってきた久里浜医療センターで「減酒外来」を開設された理由について教えてください。

「減酒外来」を開設した理由は、大きく3つあります。

一つは、飲酒について問題を抱えていることはわかっていても、医療機関にかかることのできない方の抵抗感を減らせるのではないか、と考えたためです。簡単に言えば、受診しやすい環境を作るということですね。

二つ目の理由としては、アルコールで問題を起こす方たちの相談先を作るためです。
もともとあったアルコール科は、アルコール依存症の方を対象に治療が行われますから、最終的な目標は断酒になります。一方で、依存症には至らずともアルコールで問題を起こしてしまう――いわば依存症未満の方もたくさんいます。お酒によって体の健康を害してしまうというように、フィジカル面の影響はあるけれども、依存症の特徴的症状はない。また、酔っ払って家族に暴言を吐いたり暴力を振るったり、飲酒運転をしてしまうなど、危険な飲み方をしてしまう方たちです。こういった依存症未満の方たちの相談先は、今までありませんでした。
依存症でなければ、お酒の量を減らすことは意味のあることで、トラブルも未然に防ぐことができます。実は、日本におけるアルコール起因の損害額は、 GDPの数%を占めると言われるくらい大きな問題です。日本はお酒に対して寛容で、何かあっても「お酒の席でのことだから」と言われて見過ごされてきた歴史があります。「減酒外来」を通して、アルコールのトラブルを抱えている方々に介入していければと思っています。

三つ目の理由は、アルコールに対する治療の幅を今まで以上に広げるためです。
アルコール依存症の方は国内におよそ107万人いると言われていますが、そのうちの6%くらいしか治療に訪れていません。多くの方は、受診していないのが現状です。その理由は、アルコール専門の病院に来ると依存症のレッテルを貼られる、「アル中」と言われる、必ず断酒させられる……といったイメージから、敬遠されてしまうためです。
従来は、受診しても断酒を受け入れない患者さんは、再診には至りませんでした。医療者側としても断酒しかあり得ないということで、お酒を止めずに減らしたいという人を排除してきてしまっていました。減酒外来を開設するにあたり、受診に対して何かしらの抵抗感がある方たちが来院しやすくなること、そして、より多くの方にアルコール依存症を克服してもらう期待も込めました。病院に来てくれた患者さんの治療の機会を逃さないためにも、いったん酒量を減らしてから断酒に向かうルートもあることを提案できるようになったことは大きいと思います。医療側もアルコールに対する考え方の幅を広げ、患者さんの受診の抵抗感をなくして、その後につなげていくことが大切ではないでしょうか。

治療の選択肢に「減酒」もある

−−−従来のアルコール科と減酒外来、それぞれの役割について教えてください。

アルコール科と減酒外来の境目は、お酒を減らしたいのか、アルコール依存症の治療をしたいのか――ご本人がどうしたいかということに尽きます。依存症の診断が出ている、出ていない、ということは問いません。ただ、減酒外来は予約制ですので、待てる人に限ります。現在は初診が1ヶ月待ちの状態です。アルコール科は予約制ではないので、急を要する方は、そちらを受診されたほうがいいかもしれません。

減酒外来はアルコール科とは違い、アルコール依存症未満の方の問題が軽くなったり、依存症に至らなかったりするためのサポートをするのが役割です。アルコール科は依存状態の治療、減酒外来はあくまでもお酒を減らしましょう、という考え方です。
少数ですが、依存症と言われたけれども「量を減らして飲んでいきたい」と相談に来る方もいます。そういった場合、もちろん減酒から始めますが、依存症と診断されている以上、お酒を止めることが一番安全なので、「最終的には断酒しましょうね」と伝えています。治療の途中で、減酒外来からアルコール科に変わることはありません。アルコール科は断酒が基本なので、どうしても断酒したくなければ、そこで治療が終わってしまう。それが今までの問題点でした。しかし、減酒外来を開設したことで、少しずつアルコールを減らしていくという治療の選択肢が増えました。外来を新設した目的通り、アルコールの問題を抱えた新しい患者層の救済につながっているのを実感しています。

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