「小児総合診療科」を根付かせるために―利根川尚也氏(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター)

志していた外科から一転、小児総合診療科への道を選んだ利根川尚也氏。広い視野を持ち、体系的に医療を提供したいという思いを胸に後期研修を迎えたものの、現場で感じたのは「日本での小児総合診療科の立ち位置の曖昧さ」でした。そして今、その曖昧さをなくすために、さまざまな取り組みを実践しています。(取材日:2019年3月22日)

専門分野として小児総合診療科を選んだ理由

―小児科医に進まれた経緯を教えてください。

初期研修医のときは外科医になろうと思い、外科系疾患が集まる太田西ノ内病院(福島県郡山市)で研修を受けていました。ところがいざ現場に出てみると、より広い視野を持って体系的に医療を提供したいと思うようになり、医師2年目頃からその後のキャリアに悩むようになってしまって――。そんな時、研修先の病院でお世話になった小児科の先生に相談してみると、成育医療研究センターへの見学を勧められました。すぐに推薦状を用意してくださり、見学にいくことが決まりました。

見学に行ってみると、どの先生も絵に描いたような小児科医らしい優しい雰囲気をお持ちでした。「自分はこうはなれないな」と思っていたのですが、面接を受けることになって――。面接では「小児科医になりたいとはまだ思っていないが、この病院で小児科の勉強ができるなら小児科医になりたい」と、かなり生意気なことを言いながらも、気づけば成育医療研究センター小児科専攻医プログラムに採用が決まっていました。そんなこんなで、小児科医としてのキャリアがスタートすることになりました。

―小児科専攻医研修はいかがでしたか。

成育医療研究センターの小児科専攻医は、総合診療科で小児科のベースを学びます。そして研修が終わると、ほとんどの方は、小児循環器科や小児腎臓科といった各専門科に進み、さらに自分の専門性を磨きます。しかし、わたしは総合診療科に面白さを感じました。なぜなら、小児科を志した動機である「広い視野を持って体系的に診る」ということが、まさしく総合診療だと感じたからです。それもあって、小児総合診療医としてのキャリアを積んでいこうと決めることができました。

それと同時に、日本における小児総合診療医の位置付けが曖昧なのではないか、と感じるようになりました。欧米では、小児総合診療科が確立しており、主治医の立場から、必要に応じてさまざまな小児専門科と連携して全体のマネジメントを行うようです。しかし、日本では、小児総合診療科がそのような役割を担うべきであるという認識すら、まだ浸透していないと感じることがありました。例えば、疾患が多臓器にわたり複雑な管理を要する患者さんには、当然多くの専門家が関わるわけですが、そのような患者さんの親御さんからは「結局、うちの子の主治医は誰なのですか?」と尋ねられることが少なくありませんでした。

子どもの幸せな未来を見据えて全人的なケアができるような小児総合診療科を、もう一歩踏み込んで強化していくことが必要なのではないか――。そう考えて、まずは欧米で小児総合診療を学ぶべく、臨床留学の準備を進めていきました。その過程で沖縄米国海軍病院に赴任し、臨床の傍ら勉強を続けていたところ、「沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの小児総合診療科に来ないか」と声をかけていただきました。これがもう1つの大きな転機になりました。

―現在の勤務先ですね。沖縄県立南部医療センター・こども医療センターに赴任したのはなぜでしょうか。

当時、小児総合診療医として、各診療科のハブとなる存在になりたい、その役割を強化していきたいという意識がありました。赴任した理由の1つは、当センターがそれに取り組みやすい環境だと感じたためです。というのも、当院の小児総合診療科は、日本でも有数の規模、かつ、高い水準で機能しているという実状があり、役割を強化するための今後の課題が明確でした。加えて、小児総合診療医の役割に、後進の医師たちへの小児科学教育があるとも考えていました。当センターは小児科専攻医だけでなく初期研修医も受け入れているので、教育面でも環境が整っていたことが決め手になりました。「日本に小児総合診療を根付かせるため」に、目の前に理想的な環境があるのなら、取り組んでみようと思いました。

診療と教育で、小児総合診療科の意義を明確化

―小児総合診療科では、具体的にどのような取り組みをしてきたのですか。

診療と教育、2つの側面から取り組んできました。

診療面では当時、小児総合診療科が担うべき仕事である、気管支喘息や肺炎といった一般的な疾患の入院管理や救命救急科からの小児科コンサルトなどを、人員的な問題から小児科の各専門領域の先生方に協力してもらっている状況でした。そこで、まずはそのような仕事をなるべく当科が引き受けるようにしました。そうしたことで、少しずつ当科の業務範囲が広がり、わたしが取り組みたかったトータルケアもできるようになってきたと感じています。

―教育面ではどのようなことをしたのですか。

当院は、こども病院としては珍しく大人の総合病院が併設されているので、小児科に興味のある初期研修医が集まりやすい特徴があります。そのため、小児科専攻医のみならず、初期研修医へも小児科学教育が可能です。

例えば、救急外来。当院の救命救急科は、子どもから高齢者まで一手に引き受け診療していますが、来院患者の半数以上が子どもです。救命救急に多く関わる初期研修医は、ものすごい数の子どもに接することができるので、その貴重な研修環境を活かすために、小児総合診療医が救命救急で研修をする初期研修医に直接フィードバックできる体制を導入しました。
また、小児科学のレクチャーやグループディスカッションも充実させて、対象を初期研修医と小児科専攻医で分けて行うようにしています。

―取り組みの成果は見えてきていますか。

各診療科の先生方から「以前に比べて自分の専門領域に集中して仕事ができるようになった」と言われることが多くなりました。教育面では、当院の初期研修医が小児科専攻医として残ってくれるようになったり、以前より小児科に興味を持っている初期研修医が集まってくれたりするようになりました。

切れ目のないケアを実現するために

―今後の展望は、どのように考えていますか。

ありがたいことに当科の医師の増員もあり、体制が整いつつあります。しかし、まだ「南部医療センター・こども医療センターの小児総合診療科」がしっかり根付いたわけではないと思っています。継続的に機能維持できるような体制強化、教育の充実をはかり、全国的な認知度を高めることが今後の目標です。

個人的には、当院のような中核病院と開業医をつなぐような役割が増えるべきだと考えています。欧米でのCommunity Pediatricsという分野が近いのかもしれません。健診、予防医学、育児支援などを中心に行いながら母子保健を推進し、必要に応じて当院のような中核病院や開業医と連携を取り、切れ目のないケアを提供する“地域小児総合診療科”といった役割です。中核病院の小児総合診療科の役割を確立できたら、Community Pediatricsのような地域小児総合診療科を全国に広めていきたいですね。


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