妻の専門医取得に向け主夫に―パパ医師の時短勤務(1)

亀田ファミリークリニック館山で家庭医診療科の医長を務める、岩間秀幸先生。2014年4月からの3年間、医師である妻が後期研修に専念できるように、時短勤務をしながら、家庭で育児や家事を担いました。男性医師が時短勤務をするのは職場では初めてだったそうですが、上司や同僚、患者の理解はどのように得たのでしょうか。また、時間に制約がある中で職場への貢献度を高めるために意識したことは何でしょうか。
(取材日:2020年1月21日)

妻の専門医取得に向けて、時短勤務を決意

――2015年4月から3年間、時短勤務をされていたと伺いました。何かきっかけがあったのでしょうか。

妻が小児科の専門医を取得するために、後期研修に集中できる期間をつくるためです。
私たちは沖縄県での初期研修中に結婚し、妻が後期研修に入る年に長女が生まれました。妻は育児休暇後に研修を再開したのですが、育児に追われて研修に専念することが難しく……。その後長男も生まれ、私が家庭医療専門医・指導医資格の取得など自分のキャリアを築いている期間は、妻が時短勤務をしながら、家事や育児の大半を担い、家族を支えてくれていました。
小児科医としての自信が持てずに葛藤する妻の姿を見てきたので、私が専門医を取得し終えるタイミングにきたとき、「今度は役割を交代しよう」と自然に思いました。

――夫婦で家庭と仕事の役割を交代しながら専門医を取得する、という意識は、お子さんが生まれたころから共有されていたのでしょうか。

最初から、妻の専門医取得を明確に見据えていたわけではありませんでしたが、少なくとも妻がフルタイム勤務に復帰できるような環境は家族で模索していました。
私が家庭医療専門医を取得するための研修先として、亀田ファミリークリニック館山を選んだのは、プログラムが魅力的だったことはもちろんですが、見学の際に岡田唯男院長から「うちは小児科専門ではないけど、子どもの患者さんは多いから、夫婦で一緒に働いたら?」と言っていただいたことも支えになりましたね。

家族で館山市に引っ越してきて、私の後期研修もうすぐ終わるという年に、妻の中で「小児科専門医を取得したい」という思いが固まってきました。妻が、後期研修中、医師として「今日は病院に泊まった方がいいのではないか」と考えたときに、迷いなくその判断ができる環境にしたい――。「じゃあ、僕が時短勤務をして育児や家事の責任を持つ」と決めました。

自分の時短勤務が患者さんに迷惑をかけないか?

――職場の理解はすんなり得られたのでしょうか。

岡田院長には入職以前から妻のフルタイム勤務について相談していたこともあり、時短勤務についても快く承諾していただきました。法人の人事部門と一緒に勤務時間や給与などの詳細を詰めていき、2014年4月から3年間は週4日午後3時までの勤務で、夜間の当直は免除という形態になりました。
妻が同じ職場で働いていたため、同僚たちにも家族の状況を伝えやすかったですし、みんな家庭医なので、日ごろから互いに「自分の人生にとって大事なもの」という観点で話ができていたこともよかったと思います。

私はちょうど専門医を取り、組織の運営や管理など中間管理職としての役割を期待される立場になったタイミングでした。育児、家事の主担当となる生活に舵を切ることに不安はあったのですが、時短勤務になってもスタッフとして、中間管理職としての仕事を引き続き任せてもらえたことはありがたかったです。

――家庭医として多くの患者さんの主治医をされていたかと思いますが、勤務時間が短くなることは患者さんにどのように説明されましたか。

自分の都合で診察に対応できる時間が減ることで、患者さんに迷惑をかけてしまうことは心配事の一つでした。患者さんたちにどこまで事情を伝えるか迷いましたが、結局は素直に家庭の状況を話し、自分が診察できる曜日と時間が変わること、これまで通り対応できない場合は、責任をもってほかの先生に引き継ぐことを説明しました。

ありがたいことに、みなさんに私の決断を喜んでいただき、多くの方が「先生の診察の時間に合わせて来るよ」と診察日を調整してくださいました。中には「もう3時だから帰りなよ」と声をかけてくださったり、おかずを作って持ってきてくださったりする患者さんもいて、温かい支援に助けられました。

「してもらえたら助かる」仕事を積極的に取りに行く

――時短勤務に入り、仕事をする上でつらかった点や意識した点はありますか。

同僚に負担をかけてしまっている申し訳なさはありましたね。カルテの申し送りや患者さんの状況の共有も心がけてはいるのですが、完璧にはできず……。同僚に迷惑をかけてしまったときはいつも落ち込みました。しかし「時間に制約はあっても、自分の最大パフォーマンスを引き出す」と鼓舞し、同僚たちに感謝を伝えることと、貢献度を高めることを意識して働きました。

また、職場にいる時間は短いのですが、「職場にいなくてはならない人間になろう」と思っていました。特に、常勤医目線で「これをしてもらえたら助かる」という仕事がわかるので、その部分は積極的に引き受けるようにしました。
たとえば、朝イチの病児保育です。病児保育が入ったときは、その日の外来担当医師が通常業務にプラスして対応するのですが、時短勤務中は基本的には私が対応することにしました。ただ、最初は「引き受けて本当に大丈夫か」という葛藤はありましたね。私の子どもの体調が急に悪くなったら、病児保育はほかの医師に頼まなければなりませんから。でも最後は「やってみないとわからない」と腹をくくって臨みました。また、午前と午後の診察の間の乳児検診も、従来はその日の担当医師が対応していましたが、積極的に担当しました。始めてみると自分がどうしても対応できない日はやはりあったのですが、そのときは同僚に助けてもらいました。

一方で、今フルタイムに復帰して正式に管理職になり、部下を持つ立場になって感じることもあります。育児中の医師に働きやすいと感じてもらうには、まだ工夫の余地があるということです。
私は、病児保育や乳児検診を基本的には自分が引き受ける、という形を取りましたが、基本はみんなで業務を回して、困ったときには時短勤務者を頼る、という方法がいいのかもしれません。やはり育児中は予測できないことが起きます。そのとき、自分の仕事をほかの人に頼むのは心苦しいものです。
だから時短勤務者の勤務を見越して担当に充てるのではなく、フルタイムの仕事量を基本に予定を組み、時短勤務者が勤務できたときにフルタイムのドクターが休める――そんな運用なら、Win-Winでみんなが気持ちよく働けるような気もしています。

また、私が時短勤務をしている期間は、ちょうど総合診療医の新専門医制度が始まるタイミングでした。後期研修プログラムの整備は自分がやりたい分野でもありましたし、家でもできる仕事だったので、書類作成も含めて率先して引き受けました。フルタイム復帰後はプログラムの責任者を任せられており、時短勤務中に踏ん張ったことがいまのキャリアへも生きています。

――育児や家事の面ではどうしたか。

子どもとの日々はその場その場での判断が求められますし、想定外のことがたくさん起こります。感情がうまくコントロールできず、職場での自分ならばありえないような言動をしてしまったこともありましたね。時短の前ももともと料理をしたり子どもと遊んだりすることは好きだったのですが、それは、自分の余裕や感情に合わせてしていたのだとよくわかりました。

私の時短勤務が始まったころ、ちょうど娘が「小1の壁」にぶつかってしまって――。父親として十分にサポートできていないことで、娘につらい思いをさせてしまっているんじゃないか、と思うとつらかったですし、自分の仕事もある中でどのように対応したらいいのかわからず、途方にくれていました。さまざまな子育て経験者からのアドバイスを実践してみたこともありましたが、それもうまくいかなくて。でも、ある日「父親なんだから、自分が判断するんだ」と覚悟が決まった瞬間があったんです。それからは、ふっきれて前を向いて進めるようになりました。

子どもたちがピンチの時にそばにいたり、一緒に乗り越えられたりする経験を重ねることで、段々と子どもたちが私に悩みを相談してくれるようになり……。家族が朝、気持ちよく家を出られるようにすることが自分の使命だと思いましたし、「自分が家を守っている」という感覚が強くありました。時短勤務を経て、私は本当の意味で娘と息子の父親になった、と感じています。とても幸せな3年間でした。

時短勤務を考える男性医師に伝えたいこと―パパ医師の時短勤務(2)に続く


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