秋田県横手市を「子どもを育てたい」と言われる街へ―細谷拓真氏(細谷内科医院)

2002年に東北大学医学部を卒業後、岩手県立中央病院やJCHO仙台病院(旧・仙台社会保険病院)、東北大学病院などで研さんを積んできた細谷拓真氏。2009年、実家のある秋田県横手市の活気のなさに衝撃を受け、その直後から横手市活性化のためにさまざまな取り組みをしてきました。

「このままでは、横手市は滅びる」

―地元・横手市の地域活性化に関わるようになった経緯を教えていただけますか。

地域活性化に取り組む契機となったのは2009年。帰省の際に、市内で最も人が集まるはずの横手駅前が閑散としていたのを目の当たりにして、「このままでは横手市は滅びるかもしれない」と危機感を覚えたんです。ちょうどその年に子どもが生まれたこともあり、自分を育ててくれた地元を何とかしたいという気持ちが大きくなり、行動を起こしました。

Twitterを活用した、横手市内外の人がつながる場所づくり

横手市_map―実際にどのような取り組みを始めたのですか。

まず始めたことは、ソーシャルメディアを使っての情報発信でした。2009年はTwitterがはやりだし、「ハッシュタグ(#)」で投稿がグルーピングできるようになった時期。横手市活性化のために何かやらなければと思っていたわたしは、横手市に関する情報を「#yokote」と付けて投稿してもらうよう促していきました。ただ地域活性化としてさまざまな情報を発信していくだけでは、方向性がなく長続きしないと思いました。人口減少の要因の一つに若年女性人口の減少が浮上していたこともあり、その層が住みやすい街にすべく、「この地域で子どもを育てたいと言われる街へ」というビジョンを掲げ、NPO法人Yokotterを立ち上げました。

当時は、横手市民はもちろんのこと、県外に住む秋田県民が毎日300~1000件横手に関する情報を発信してくれるまでになり、それらをYokotterのスタッフがブログにまとめて全国へ発信してきました。また、ローカル新聞の代わりになるような「横手経済新聞」というウェブメディアの運営、B級グルメ「よこまき。」を利用したイベントや、コミュニティスペース「石蔵MIRAI」の開設など、多くの取り組みを実行することができました。

“医師として”地域活性化に関わる意義

takuma_hosoya02―順風満帆に見えますが、課題などはなかったのでしょうか。

確かに、横手に関わる人たちのつながりができ、一見、地域活性化しているようにも見えたのですが、地域住民と話す中で、「今後を不安に思う人が多いこと」が課題となって浮上してきました。時間とお金がある人でもこの地で生活し続けることをネガティブに捉えている状況に、問題意識は高まりました。

ただその時、将来に対する不安のうち、少なくとも健康面に関する不安なら、わたしの力で和らげられることに気づいたんです。それまで、地域活性化は“医師として”やることではないと思い、ずっと医師の人格を切り離して関わってきました。でも、医師としての自分なら、「漠然とした不安」を取り除くために医療を使うことができるはず。たとえば、ちょっとした不調でも深刻な面持ちで病院に行くような方に院外で対話をすることで「心配ないよ、しっかり睡眠をとろう」と声をかけるなど、みんなが生きやすくなる助言ができると気づいたのです。

その一方で、病気を治したり、予防したりするための診療をする医師は多くても、「未来の不安を取り除く」医師は少ないのではとも思いました。「地域住民の不安を解消することに主眼を置いて、医療を提供したい。そのための方法を模索したい」というのが、現在の思いです。

takuma_hosoya03―今後は、どのようなことに取り組みたいと思っていますか。

医療では、人生の最期を意識して診療を行う 「エンディングデザイン」をさらに模索していきたいですね。腎臓内科で老若男女の診療に携わっていると、これから数十年付き合っていくことになる患者さんもいます。患者さんの中には、腎不全を患いながら他疾患で最期を迎える人がとても多いです。病気を診るだけでなく、この地域で幸せに暮らしていけるよう、最期まで寄り添いながら対話し、人や地域を診続けていきたいと思います。

まちづくりに関して言えば、子どもたちが自身の可能性の広さを知り、親が子育てをしながらでも自由に働けるように、放課後に子どもたちが集える場所を作りたいと考えています。子どもたちにはMIRAIに関わる若者から勉強やスポーツ、社会について教わって世界を広げてほしいですね。また、わたしが関わることで、子どもの体調が悪いときに病児保育のように預かることができるので、お母さんには子どもの緊急事態に対応できる仕事を選ばなくていいような選択肢を与えられたらと思います。

横手市は、移住して来たら楽しいと気楽に言える地域では決してありません。豪雪地帯のため、毎冬4カ月間は自然への驚異を感じながら生活せざるを得ないからです。しかしわたしは、生まれ故郷であるこの街で我が子を育てたい。誰もがそう思える環境が整っていけば、横手市は「ここで子どもを育てたい」と言われるようになっていくはずです。そうなれば地域の持続可能性も高まると確信しているので、そのためにできることを地道に行っていきたいと思います。

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