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「バランスのとれた精神科臨床医」に
~北里大学・精神科が2時間超のケースカンファレンスを行う理由~

 高齢化に伴う認知症患者の増加、メンタルヘルスを扱う産業医への注目など、精神科医の重要性が増しています。一方、多剤大量処方などに代表される精神科医の質の低下が指摘されており、実臨床だけでなく教育・研究において精神医学をリードする大学の役割も、ますます大きくなることが予想されます。

 そんな中、精神科領域の課題に真正面から向き合い、質の高い精神科医の育成をめざしているのが北里大学医学部精神科。全国に約80施設しかないスーパー救急(精神科の救急)や約100床の閉鎖病棟で重症から軽症まで対応するほか、1症例あたり2時間超のケースカンファレンスを通じて「バランスのとれた精神科臨床医」を育てる取り組みについて聞きました。

重症例こそ大学で教育すべき

 同科の特徴の一つが、急性期から慢性期まで、重症度もさまざまな症例について、国内外のエビデンスを熟知した指導医から教育を受けられる点。これは特に精神科において重要だと、宮岡等教授は語ります。

「わたしは北里大学を含め3つの大学で教育に関わってきましたが、現場で以前から気になっていることがありました。それは、身体各科では最重症患者を大学病院が診るのに対し、精神科では、大学病院、特に閉鎖病棟を持たない大学病院は興奮や自殺念慮の強い重症患者さんを、他の精神科専門医療機関などに紹介するケースが多いことです。

 研修医が診断や治療を最も学ぶべき重症症例を、教育機関である大学で教えないといけない―そう考えていたとき、精神科救急にも対応できる北里大学に着任することになり嬉しく感じたのを覚えています」

 同科には、1日300人以上が受診する外来もあり、「精神科専門医」と「精神保健指定医」を、最短期間で取得できる環境が整っています。

宮岡等教授

標準治療の少ない精神科だからこそ“合議”を ―多彩な教育スタッフとケースカンファレンス

「講師以上には、異なる専門分野の医師をそろえるようにしています。そうすれば研修医は、さまざまな上級医の意見を聞けますし、精神療法と薬物療法をバランスよく使いこなせるようになります。その結果、多剤大量処方のような不適切処方をせずに、必要な心身両面への治療を見極められるようになると考えています」(宮岡教授)

 もう一つ、宮岡教授が強調するのが面接の大切さ。精神科では検査所見や画像で診断できることがほとんどない分、面接が大切。面接の進め方次第で患者さんから得られる情報の量・質に差が出ます。しかし、“いかに基本的な面接を進めるべきか”という指針は十分に示されていない状況なのだそうです。それを考えて、適切な治療方針を検討するために、同院では1症例に2時間以上ケースカンファレンスを実施。主に宮岡教授が医局員の前で入院患者と40分ほど面接、他の医師はその様子を見ながら病状の評価・治療法について議論します。面接場面を医局員が共有することで、「この症状はこう聞けばよい」、「(教授の面接であっても)あの尋ね方はよくない」などの議論が可能になるそうです。

「残念ながら、ガイドラインが少ないからといって専門性を欠いた治療をしたり、“自己流”の治療に走ったりする医師が少なくないという現状があると思います。ケースカンファレンスでは、年次など関係なく意見をぶつけあいます。研修医には、ベテランの医師でさえも意見が食い違うことがあり、適切な治療のためには、複数の専門家による十分な議論が必要であることを実感してほしい。各々が論拠をもって発する意見がなぜ、どう異なるのかを考えることが一番の勉強になります」(宮岡教授)


知識を深めるほど世界が広がる精神科

 同科ではケースカンファレンスのほかにも、上級医などによるクルズス(講習会)、抄読会を実施。こうした場に参加しやすいよう関連病院も近隣にまとめています。指導医の廣岡孝陽先生(医師10年目)は次のように語ります。

「他科では手技やオペを見れば一定の質評価が可能かもしれませんが、精神科は、面接を一見しても、ただの雑談にしか映らないかもしれません。でも、その雑談は専門知識やテクニックに裏付けされています。研修を重ね、精通してくるほど見える世界が広がっていく醍醐味を、研修医の先生方にも感じてもらいたいですね」

 ほかの大学病院の精神科を見渡すと、薬物療法や精神療法、画像診断など得意分野はさまざま。そんな中、同科の強みは専門知識・技術を目の前の患者さんにどう活かすかという“臨床力”にあると、廣岡先生は強調します。

「精神科も他科の臨床と同様、最新のエビデンス、医師の経験、患者の価値観の3つをうまく統合することが求められます。当科でも患者さんの価値観を尊重した上で、院内の各専門家から意見を聞き、どんな治療・支援方法があり得るのか吟味することを最も大事にしています」

指導医の廣岡孝陽先生

面接は精神科の“オペ”

 精神疾患患者の中には身体疾患を合併していたり、身体疾患が原因で精神症状を訴えるケースもあり、精神科と身体科との連携は重要。こうした背景から、転科も珍しくないとか。救命救急科から転科した井上朋子先生(後期研修1年目)は、充実した日々を送っているそうです。

「救命救急センターには、自殺企図者や、精神疾患をもつ方の身体的急変など、精神科的治療も必要とする患者さんがよく搬送されてきましたが、常駐の精神科医がいなくて四苦八苦していました。救命救急センターに精神科のわかるスタッフがいれば、からだもこころも両方救えるのでは…という思いもあり、当科に来ました。

 精神科に来て感銘を受けたのは、『外科医は手術室でオペをするが、精神科医は面接室でオペをする』という言葉です。わたしの面接がオペと呼ぶにふさわしいものになるよう、毎回気持ちを新たにして臨んでいます」

 中学生のころから「人そのものを診られる」精神科医を目指してきた橋本樹先生(後期研修2年目)も、同科の研修環境に満足しているようです。

「患者さんの訴えをもとに、いかに精密に病状を評価するかが大事だと感じます。そのためには、精神科内や他科との連携が不可欠。その点、当科はリエゾン(連携)部門がありますし、風通しがよくコンサルトしやすいです。他科出身の精神科の先生ならではの視点もあるので勉強になります」

「よく分からない科」と言われがちな精神科も、「患者さんのために」治療にあたるのは他科と変わりません。その想いを胸に、人の“精神”という広大なフィールドで、いかに多くの選択肢を吟味して患者本位の治療を行うか―。その難題に立ち向かう医師たちの姿が、北里大学医学部 精神科にはありました。

研修医の橋本樹先生(左)と井上朋子先生(右)
撮影の合間にも談笑が絶えない北里大学精神科の方々
後期研修の1日の流れ(例)
8:45 申し送り
9:15 指定医回診
10:00 病棟業務
12:00 昼食
13:00 病棟業務(毎週水曜、金曜はECT)
15:30 クルズス(毎週木曜)
16:15 申し送り、病棟業務
(毎週木曜)17:30 連絡会、ケースカンファレンス(21時頃まで)または研究会

お問い合わせ先

北里大学精神神経科では月1回の頻度で、講演や後期研修説明会を開催しています。
参加または見学等をご希望される方は、お気軽にお問い合わせください。

最近の勉強会や講演会のテーマ
勉強会:「続・精神医学のABC」
講演:「身体救急における精神科医療」(新井)
講演:「精神科薬物療法のABC」(宮岡教授)
講演:「認知症診療のABC」(大石)
講演:「新専門医制度で精神科医はどう変わるか」(宮岡教授)
講演:「フロイトの精神分析療法」(齋藤)

北里大学 精神科(北里大学東病院 精神神経科)
〒252-0380
神奈川県相模原市南区麻溝台2-1-1
教室幹事 大石 智

Tel. 042-748-9111(代表)
Fax. 042-765-3570(教室直通)
mail: k-psy@kitasato-u.ac.jp
URL http://kitasato-psychiatry.juno.bindsite.jp/