わずか10年で救急対応件数は2倍に!
今でこそ年間の救急搬送件数は7,500件超、ウォークインは1万4,000件超、CPAは240件を超えていますが、その実績とは裏腹に、救急科の歴史は浅く、創設は2011年。その後2013年に総合診療科が新設され、続く2015年に救急科と総合診療科が一つになった、「救急総合診療科」が誕生しました。その背景について、救急総合診療科 診療顧問であり救急総合診療科立ち上げのメンバーでもある高沢有史先生はこう話します。

「実は、救急総合診療科を設立する前は、救急件数は4,000件程で、病院の規模から考えるとそれほど多いものではありませんでした。しかし、医師の数はもちろん、設備や機材などの医療機能が充実している分、救急件数を増やしていくことは地域の中核病院としての責務であると感じたのです。
救急総合診療科の誕生は、当院にとっての大きな転機になりました。病院として目指すべき方向性や、果たすべき使命というものがより明確になるだけでなく、大学病院のように専門分化していた院内がまとまるようになりました。特に、総合診療科が果たす役割は大きく、救急で対応できる件数が増えたことはもちろん、医師の技術向上や負担の分散、各科のつなぎ役としての連携など、中心的な存在となって年々病院の体制強化に貢献しています」(高沢有史先生)
長年、心臓血管外科医として、多忙な日々を過ごしていた高沢医師。元気な間は現役で勤務を続けたいが、この先ずっと外科医として続けるのは困難だろうと、いつしかセカンドキャリアを考えるようになる。それまで心臓血管外科医として患者さんの全身状態を管理していたこともあり、全身管理ができる内科に絞って転科先を探した。
ある時、某病院で内科の見学を行った際、風邪の症状を持った一人の患者さんに対し、鼻水と咳の風邪は診るが、頭痛は神経内科へ、腹痛は消化器内科へ、というように専門で振り分けてしまう現状を目の当たりにする。その背景から、全身管理を行える診療科が地域の患者さんにとって必須と感じ、上尾中央総合病院での総合診療医へとキャリア転向したという。
効率的な診療体制、ジェネラリストとしての力が身につく
同院の救急総合診療科の特徴は、確立された分業体制にあります。救急は救急車対応を中心としたERに特化し、総合診療は救急外来と救急患者の病棟管理に特化するといった2つのグループで活動しています。
受け入れとその後のケアを行う一連の流れがスムーズに機能するからこそ、多くの患者に対応しつつ、かつ効率的な治療ができるそうです。現在の総合診療科は単独で、総病床数67床、年間約1,000人の入院患者を診る体制が整っています。そんな独特の体制のもとでは、ジェネラリストとしての力が身につくと、総合診療部門 科長を務める鶴将司先生は話します。

「当院の総合診療科の特徴は、集中治療からターミナルまで手掛けられること。救急に近い総合診療科のため、患者さんの7~8割はERが対応した救急搬送から入院される患者さんですが、外傷や重度の敗血症の集中治療管理から、時には誤嚥性肺炎を繰り返す患者さんやがんのターミナルの患者さんを担当することもあります。科の垣根をまたいで診ていきますので、間違いなくジェネラリストとしての力が身につきます。
また、新専門医制度が施行されてから、総合内科専門医取得のためには、3年間で70疾患群、200症例以上の経験が必要ですが、当院には、AMG上尾中央総合病院内科専門研修プログラムがあり、各症例をスムーズに経験できますので、良い学びの場となるはずです」(鶴将司先生)

学生時代は循環器内科を希望していた鶴医師。初期研修先は地元に近い循環器症例の多い病院に入職。その後、研修医時代に出会った呼吸器内科医師に感化され、同科の奥深さにも楽しみを見出し転向。しかし、初期・後期研修ともに外傷対応はほぼ無い環境であったため、期間限定で救急のスキルは高めておきたいと考えるようになる。
鶴医師のもともとの理想は呼吸器内科医の前に、全身管理を行う内科医。内科全般を診ながら、救急科での当直を救急専門医のもとで多めにこなしてスキルアップを行える同院の救急科へ入職を決意。その後、救急総合診療科の立ち上げに伴い、現在では、総合診療部門の専従となる。
総合診療科は、幅広い志向の医師にチャンスがある
同科を率いる鶴先生によると、“指導意欲”と”自身も共に学ぶ姿勢”を持ち合わせた医師であれば、次に挙げる様々な志向の方でも、専門科目によらず迎える環境があると言います。「大きな救急病院だから、診療についていけないのでは…」「いままで専門分野に特化してきたために全科を跨いだ症例に触れるのは不安…」とも考えてしまいがちですが、高沢医師や鶴医師こそが、career changeで同科に所属した当人ですので、安心して一歩を踏み出せます。
1. 指導医として教えるのが好きな方
2. career change(転科)を考えている方
3. 期間限定で、スキルアップや追加専門医取得のために幅広い症例を経験したい方
4. 将来開業を見据えている方
5. 女性医師をはじめ、柔軟な勤務体制を求める方
6. どんな症例も診る力を養いたい専攻医
「当院は、初期研修でも後期研修(内科、総合診療科のみ)でも、総合診療科を必修科目としているため、後進育成は是非一緒にお願いしたいですね。専門に特化してきた医師であれば、その領域に関する指導を、救急や総合診療、内科出身の医師であれば、経験に伴う指導をお願いしたいです。その上で、年齢には関係なく、当科での勤務をキャリアの1ステップとされることや、今後のcareer changeの場とされるには、良い環境だと思っています。学ぶ側も優秀な研修医が揃う当院ですので、教える側も共に学び、高め合っていける方であれば、どんな領域の医師も活躍できると思います」(鶴将司先生)
また働き方においても、守備範囲の広い総合診療科ではありますが、救急外来に特化した働き方や病棟管理に特化した働き方など、チームとしてバランスを保つことができれば、対応範囲も検討できるといいます。様々な志向の方でも働く環境があるというその背景について、鶴先生は次のように応えます。
初期臨床研修医や専攻医は入職に際し、総合診療科見学が必須のため、在籍する研修医は当科の大変さややりがいをそれぞれ理解した上で学びたいと考える優秀な方ばかりですので、非常に教えがいもあります。
救急や総診または内科出身の経験豊富な方は勿論ですが、今在籍している医師たちが持ち合わせていない、より専門的な知識を持つ方も、十分に指導力を発揮していただける環境です。また、症例が多いので何年たっても新しいことに出会えたり、全科を跨いだ診療を行ったりすることで、総合診療科はいつまでも“勉強”をあたえてくれる環境です。
2.career change(転科)を考えている方これまで専門分野に特化していた場合でも、全科を跨いだ症例に出会える環境のため、専門は得意分野として力を発揮していただき、その他はやりながら覚えていただければ問題ありません。
また、急性期病院の緊急対応を懸念する方も、急変時等のファーストコールは初期研修医や専攻医へ入り、指導医はその後の相談に対応する体制のため、安心です。対応が難しい場合は、私が全面的にフォローするため問題ありません。
3.期間限定で、スキルアップや追加専門医取得のために幅広い症例を経験したい方自身の専門領域に加えて別の専門分野を増やしたい方や、専門分野を強化するためにあらゆる症例を経験してスキルアップを図りたい方など、数年間の期間限定で所属することも可能です。実際、形成外科医など内科医以外でも入職して、診療幅を広げ、経験を積んでいった医師の実績もあります。
4.将来開業を見据えている方当科で経験を積んでいただければ、自分で診られる範囲なのか、連携病院へ送った方がいいのかの緊急性の見極めが得意となり、開業におけるアドバンテージとなります。
当院には、各診療科に毎月2,000人の紹介患者と1,800人の地域の開業医を含む医療機関への逆紹介がありますが、上尾市には連携先となる診療所がそれほど多くはありません。よって当院の患者さんたちを引き継いでいただく、地域の開業医としてもご活躍いただけることでしょう。
5.女性医師をはじめ、柔軟な勤務体制を求める方当院は大規模の急性期病院として忙しいイメージがある病院なので、“働き方改革”には向いていないとイメージを持つ医師もいるかもしれません。しかし、各診療科には週3-4日勤務や時短勤務といった働き方する女性医師がとても多いのも当院の特徴です。当科も、チームで診療体制を整えていくため、オンコールや当直免除など、実現できる環境はあります。
6.どんな症例も診る力を養いたい専攻医当院は、内科専門研修プログラムの専攻医でも総合診療科にてあらゆる症例を経験してもらいます。当科では専攻医が担当医となりますが、1日数回、時間をかけて行うカンファレンスで、自身が担当する患者さんの診療方針を確認するだけでなく、他の症例についてもじっくり学べます。また、当院を専攻した医師に限らず、例えば大学病院の形成外科プログラムを専攻した医師が中断して、総合診療科で1年間研修したり、大学の泌尿器科医局に入局した医師が中断して同科の研修を受けるなど、若手医師の登竜門となっています。
理想の体制を保つために、働き方改革も推進中
理想の環境を実現し、救急受入件数を2倍に伸ばす一方で、業務の特性上「忙しい」「休みが取りづらい」など、医師そのものが疲弊してしまうことが課題として挙げられます。そうした現状に対処するため、同院では日勤と夜勤での二交代制の勤務体制を導入し、交代のローテーションは医師の希望をもとに決めています。その他にも、医療クラークによるカルテの記入やオーダー出しなど、人的サポートにも注力するなど、科目の垣根を超えた働き方改革を進めています。救急総合診療科 科長であり、働き方改革の主導者でもある雨森先生は、同院の環境についてこう話します。

「まとまりがあるからこそ、働き方改革がスムーズに進められているのだと思います。わたし自身、この病院に入職してまだ1年弱と短いのですが、他科のみなさんは非常に協力的です。働き方改革が本格化したのは2018年の初め頃でしたが、あっという間に普及して、今ではそれぞれの科に限らず「院内全体がいかに働き方を改善できるか」という視点でまとまりを持てたように感じます。その背景には、上尾中央総合病院がこれまで築き上げてきた文化や風土といった要素もあったのでしょうが、各科のまとめ役になっている総合診療科の存在は大きいと思いますね」(雨森俊介先生)
充実した環境をもとに将来の人材育成にも注力
現在、同院の救急総合診療科には常勤13名、ローテートとして専攻医4名が在籍しており、一見すると人員体制は整っているように思えますが、現在の救急体制を維持するためには、後進の育成と人材の確保は継続的な課題です。

そこで同院は、初期臨床研修プログラムにおいては3ヶ月、専攻医研修においても、内科専門研修プログラムでは、研修期間中の最低6ヶ月は総合診療科での研修を必修化し、医師としての基礎を学ぶ環境を構築。充実した学びと成長の場を提供しつつ、長期的な定着を図っています。実際に研修でのサポートは非常に手厚く、総合診療部門では毎日2時間、白熱したカンファレンスを行い、総合診療部門科長の鶴先生より各症例別に細かくフィードバックを行っています。そんな総合診療科で研修を受けている専攻医の先生方に、同院を選んだ経緯や今後の展望について伺いました。

「私は鶴先生の存在が大きかったですね。尊敬できる医師として、目指すべき方向性を示してくれます。診療の仕方や症例に対しても細かく相談に乗ってくれて、感謝してもしきれません。もちろん、病院としても様々な分野の診療を行っているということもあり、目指せるキャリアが多種多様なのも魅力の一つだと思います。」(李勍熙先生)
「上尾中央総合病院で取り扱う症例数が非常に多かったので、自然と自信は身につきました。他院の総合診療科に研修に行った際に、「これは知らない」「やったことがない」といって困ることは一切なかったので、いかに同院の研修が充実しているか、身をもって体験することができました。医師として、“当たり前のことを当たり前にできるようになる”というのは基本ですが、かといって決して簡単なことでもありません。それを目指せる環境が揃っているというのは、非常に恵まれた環境と言えるのではないでしょうか。」(津英介先生)
「将来は開業し、自分のクリニックを持ちたいです。そのためには基礎的なことと幅広い知識を学ぶ必要があると思いましたので、多様な経験が積める当院に入職を決めました。実際働いてみて、経験を積めるだけでなく、開業についての相談も親身に答えていただけて、とても感謝しています。」(湯田琢馬先生)
地域そして全国に総合診療医を輩出する中央機関として
埼玉県No1.の実績とそれを支える体制を築いてきた上尾中央総合病院。その根幹となる総合診療の将来像について「幅広い地域のニーズに、いち早く対応できる急性期病院にしていきたい」と鶴先生は話します。一方で、指導体制やフォローアップ体制が強化・整備された同院の研修を待望する若手医師は年々増加傾向。経験を積んだ指導医層の確保が必要不可欠です。そのため同院では、これまでの経験に即したポジションを新設して先生方が入職しやすい環境も整えるなど、あらゆる分野の医師に門戸を開き、広く募集活動を続けています。
「さらなる強化をしていくためには、指導医と若手医師、その両方の力が必要です。ただし、後身の育成にはある程度の時間も必要になってきますから、経験のある中堅医師の方にも来ていただけると嬉しいです。救急総合診療科では、診療科にこだわらず、他科からの転科医師も歓迎しています。さらに、当院は連携先となる診療所を今後増やしていくことも課題となっていますから、将来開業したいという医師も積極的に応援しています。どちらにしても、長く働きながら、自分が理想とするキャリアを築きたい人に来ていただきたいですね。」(鶴将司先生)


上尾中央総合病院には、町のかかりつけ医にとどまらない、総合診療力を身につけるための環境が整っています。同院では、 将来相当数が必要とされる総合診療医を、地域・全国に輩出する中央機関としての役割も担っている とのこと。これから伸びゆく同院の救急総合診療科で、自身のキャリアをより幅広いものにしてみてはいかがでしょうか。