病院クチコミナビ

がん治療一筋のキャリアから、在宅へ

在宅医療に携わった経緯を教えてください。

父が外科医で、幼いころから手術の話を聞いていたこともあり、悪性腫瘍の治療をすることを目標に医師になりました。

臨床の場で治療の甲斐なく最期を迎えざるを得ないがん患者の方々を目の当たりにして、「やはり癌治療をしたい」という想いで外科的な手術のほかに制癌剤治療や緩和医療に携わってきました。その延長線上で、看取りも含め訪問診療を行うようになったんです。当時は社会的にも在宅医療に対する理解が進んでいなかったので苦労もありましたが、かれこれ20年近く在宅医療に携わってきました。

ご家族の一言に胸を打たれた

在宅医療のやりがいを教えてください。

在宅医療の一番のやりがいは、患者さん、そしてご家族の笑顔でしょうか。病院ではどうしても、よそよそしさや緊張、淋しさなどいろんなものが混じった複雑な笑顔になってしまう。しかしご自宅ではすごく自然な、心からの笑顔を見せてくれるんです。

お看取りの際も、在宅では穏やかな旅立ちが多いように思います。以前担当した患者さんで印象的だったのが、舌癌の高齢の女性。娘さんご夫婦と同居されていたのですが、娘さんと顔を合わせるたびにケンカ腰になっていたので、在宅療養が決まった際は正直心配でした。その後、お看取りをしてしばらく経ってから、その付近を訪問診療した際に、後ろからすごい勢いで追いかけてくる車がいました。なんだろうと思っていたらその娘さんが車から飛び出してきて、「今度生まれてくるときもあの母親の娘でいたい、そう思わせていただきました。ありがとうございました」と深々頭を下げられたんです。

お看取りはご家族にとっては大変なことですが、大切な家族にできるだけのことをしてあげられた、というある種の充足感があるのかもしれません。患者さんにとってはもちろん、ご家族にとっても納得のいく最期とするために、在宅医療は大切な選択肢だと思っています。

患者さんのためなら、名誉理事長室を外来化学療法室に

総合花巻病院は診療環境としていかがですか。

花巻はやはり高齢化が深刻なので、複数疾患を抱えているものの頻繁に通院できるADLではない、という患者さんが大勢います。地域の病院として、そういった患者さんのフォローをしなければと、当院はずいぶん前から訪問診療を実施してきました。そうした土壌に加え、地域・患者さんのためであれば医師のやりたいことをやらせてもらえる自由度の高さがあるので、当院に来てからは思い描いた医療を形にしていく楽しさを感じています。

訪問診療の患者さんも当初は1名2名とぽつぽつ始めたのが、現在は80名までに拡大。また、化学療法は全て入院で受けていましたが、癌とともに生きる時代になりつつある今、入院だけでは患者さんのニーズに応えきれないとお願いしたところ、当時の名誉理事長室を外来化学療法室に変えてくださって、現在は5床のベッドを使わせていただいています。病棟コメディカルや訪問看護ステーションも非常に協力的なので心強いですね。

目指すのは「病床を持ったかかりつけ医」

新病院で挑戦したいことはありますか。

病院の新築移転に伴い地域包括ケア病棟（以下、地ケア病棟）が約2倍に増床するので、そのための体制整備も行っています。地ケア病棟では入院日数や在宅復帰率などの要件を満たしながら、急性期病棟とのバランスを見て患者さんを振り分けなければいけません。自分の患者さんは一般病棟がいいのか地ケア病棟がいいのか、どの先生でも一目でわかるよう現在はフローチャートの作成を進めているところです。

地ケア病棟が増床するということは自宅に戻られてからのフォロー、つまり在宅医療に関してもキャパシティの拡大が求められます。病棟と在宅の両輪で患者さんを支えていけるよう、体制整備や他院との連携はもちろん、新たな治療法の習得など自己研鑽も積んでいきたいですね。

今でも気持ちは研修医です（笑）。目指すのは、「入院ベッドを持ったかかりつけ医」。専門性を保ちながらも、医療難民になってしまいかねない患者さんを幅広くフォローする柔軟さを持っていたいなと思います。