血液内科の最先端を走れるのは医師にゆとりがあるから
~兵庫医科大学病院血液内科・医師がいきいきと働くための戦略~
悪性腫瘍の検査から治療まで担い、いつ急変するか分からない重篤な患者の全身管理を行いつつ、日々アップデートされる治療法を研究、キャッチアップし続ける―。こうした血液内科医の働き方に、過酷なイメージを抱く人は多いようです。そんな中、「診療業務は17時まで」と掲げ、医師が“頑張りすぎない”システムを目指しながらも、最先端の治療を提供しているのが、兵庫医科大学病院血液内科です。
血液腫瘍患者の「最期の砦」として
広く血液内科の対象となる患者一般を受け入れている兵庫医科大学病院血液内科ですが、その大きな特徴は、国内で可能なすべての造血幹細胞移植に対応しつつ、新たな移植法の研究にも積極的に取り組んでいること。分子レベルでの病態把握が進み、分子標的薬などの導入が進む現在においても、悪性度の高い血液腫瘍の患者や病期が進行した患者が、「最後の砦」として造血管細胞移植を求める例は多く、移植が治療の重要な選択肢であることに変わりはありません。
「血液腫瘍領域で、最善と思われる治療法が刻々と変化している今、移植分野の先頭に立って、新しい治療を開発したい。臨床でも研究でも妥協せず、自らに厳しく、患者さんにやさしく対応したいと思っています」(小川啓恭教授)
兵庫医科大学病院血液内科
小川啓恭教授同科で注目を集めているのが、小川教授が開発し、同科で臨床・基礎研究を進めているHLA半合致血縁移植です。通常、白血球のHLA型が合致していないドナーからの移植は、合併症(移植片対宿主病=GVHD)のリスクが問題になりますが、HLA半合致血縁移植は、移植後の免疫抑制療法を工夫することでGVHDのリスクを抑え、HLA半合致の血縁者(親子の場合100%、兄弟姉妹の場合75%)からの移植を可能にしました。従来の移植よりドナーが見つかり易いほか、抗腫瘍効果(GVL)が非常に強いという結果も得られているそうです。
同科での治療について、海田勝仁助教はこう話します。
「医学部5年生の時、困っている人の多い悪性腫瘍の領域で、特に若い患者さんが多い白血病に興味を持ち、血液内科を選択しました。当科では研究と臨床が密接に結びついていて、他の病院ではできない特殊な移植によって、患者さんを治せるかもしれない。そうしたところに魅力を感じますね」。
医師が頑張りすぎないシステムを
兵庫医科大学病院血液内科が昨今、組織として注力しているのが、医師のワークライフバランスの整備です。輸血、中心静脈栄養、抗がん剤の調整や電子カルテへの入力など、以前まで医師がしていた業務の多くを、他職種に移行させ、医師は17時までにカンファレンスを含めた全診療業務を終了させるように決めています。相馬俊裕准教授は、医師が余裕を持つことの大切さを強調します。
「治療困難な患者に向き合う血液内科医に向いているのは、“患者を治したい”という思いを持った人だと思います。しかし、これまで多くの医療機関の血液内科は、そんな医師の使命感にシステムが追いついていなかった。使命感を持って頑張りすぎた医師に業務が集中して過重労働となり、最終的に燃え尽きてしまうケースも、業界を見渡すと残念ながら存在していました。
そうしたことが起こらないように、当科では医師にしっかり疲労回復してもらい、生活の時間を確保してもらいます。こうしないと、若手医師や家庭を持った女性医師が持続的に活躍できず、新しい治療法も開発できないと考えるからです」。
「血液腫瘍だけが最先端であればいいというわけではありません」と相馬准教授が指摘するように、地域の拠点として、血液腫瘍以外にも、血栓止血やHIV感染症など、血液内科一般に求められる分野においても、症例が集積している同科。さまざまな得意分野を持った血液内科医を集め、お互いを高めながら活躍するための体制を整えることで、広く血液内科の「最先端」を提供し続けることが大事だと話します。
相馬俊裕准教授(写真中央)
「最善の治療は何か」常に学び続ける
血液内科医は、比較的幅広い対応が求められることで知られます。血液腫瘍患者の全身管理には感染症への配慮が必要になりますし、抗がん剤投与のための中心静脈カテーテル挿入など、内科でありながら手技が多いのも特徴的です。それだけに医師が臨床に専念できるだけの支援体制が整っているかどうかを吟味し、自分に合う環境に出会えれば、魅力的な成長の場となるのは間違いありません。
「いくつかの科を回りましたが、ここまでメディカルアシスタントさんが充実しているところは珍しいと思いました。こうした環境下で、白血病の最先端の治療法や、抗生剤の使い方を学んだり、指導医のもとで研修医が手技を行ったりできるので、貴重な経験になっていると思っています」。(初期研修1年目の長真由先生)
兵庫医科大学病院血液内科の基本方針は、「形にとらわれず、個々の患者さんにとって最善の治療を追い求めること」。地道に、目の前の患者にあらゆる手を尽くし、そこで得た経験を、将来の患者にもつなげていく。「患者を助けたい」という志を持った医師が、日々変化する「最善の治療」を追い求め続けるための仕組みが、そこにはありました。
初期研修1年目の長真由先生
1日の流れ(例)
9時 | 出勤 |
---|---|
9時半ごろ | 採血データなどを見ながらその日の治療プランを検討 |
11時ごろ | プランに基づいた研修医への指示、処置の実行 |
12時ごろ | お昼休憩 |
13時ごろ | 残りの処置を実施、患者や家族への説明やカンファレンスの準備など |
16時ごろ | 一連の病棟業務を終了させ、医局でデスクワークや勉強 |
17時半ごろ | 雑務(メールの処理、文献探しなど) |
18時ごろ | 退勤 |
9時 | 出勤 |
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9時半ごろ | 採血データなどを見ながらその日の治療プランを検討 |
11時ごろ | プランに基づいた研修医への指示、処置の実行 |
12時ごろ | お昼休憩 |
13時ごろ | 残りの処置を実施、患者や家族への説明やカンファレンスの準備など |
16時ごろ | 一連の病棟業務を終了させ、医局でデスクワークや勉強 |
17時半ごろ | 雑務(メールの処理、文献探しなど) |
18時ごろ | 退勤 |
※病棟を持つかどうか、日によって1日の内容は変動