麻酔科医の役割は「手術を支える“縁の下の力持ち”」に留まらない 患者の生涯を見据える 名古屋大学医学部附属病院 麻酔学講座

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麻酔科医の役割は「手術を支える“縁の下の力持ち”」に留まらない

患者の生涯を見据える 名古屋大学医学部附属病院 麻酔学講座

更新 : 2022年6月
取材日 : 2016年6月7日

 全国的に需要も高い上、ライフイベントに応じた働き方がしやすいことでも知られる麻酔科。さらに、名古屋大学医学部には外科系の関連病院が多く、それらの病院で対応できない困難症例が大学病院に集まってくるため、最重症・困難症例の周術期管理を短期間に多数経験でき、麻酔科医として大きく成長できる環境が整っています。最先端の現場で働く麻酔科医に、その魅力を伺いました。

「ICUまで診なければ、良い麻酔科医は育たない」

 肝移植・腎移植・心臓血管外科手術を含む年間6,500件以上の麻酔科管理症例を持つ名古屋大学医学部附属病院麻酔学講座では、極小未熟児から超高齢者を対象にした手術麻酔に加え、日本では数少ない麻酔科医を中心としたclosed ICU(専従医が直接の治療にあたるICU)での集中治療やペインクリニックなど、各領域を極められる環境を整えています。2017年には心臓移植手術が始まり、将来的には小児心臓外科手術も始まる予定です。

 2018年から、専門医機構の元で全ての診療科において新専門医制度が始まりましたが、実は麻酔科領域では2015年度から麻酔科学会としての新専門医制度下での研修が始まっており、新専門医制度への移行もスムーズに進みました。名古屋大学麻酔科では関連病院を中心に、28施設・総病床数約12,000床におよぶ病院群で研修プログラムを形成。術中全身管理に関しては全症例数約35,000症例、小児(6歳未満)約2400症例、帝王切開 約1,700症例、 心臓血管 約1,600症例、胸部外科症例 約2,000症例、脳外科症例1,400症例と豊富な症例数に恵まれています。国立循環器病研究センター(大阪)、国立長寿医療研究センター(愛知)、国立成育医療センター(東京)、あいち小児保健医療総合センター、といった特色を持った病院での研修も可能となります。

 東海地方の麻酔科医教育の要として存在感が高まる中、西脇公俊教授は、「手術を支える“縁の下の力持ち”」に留まらない、麻酔科の役割を指摘します。

「麻酔科は単に手術のサポートをしていると思っている方もいるかもしれませんが、実は手術結果も左右する大変重要な科です。手術後の患者さんは、手術自体の影響によって必ずいったん体に負荷のかかった状態になります。それを乗り越えて回復してこそ、手術を行う意味があるわけです。もちろん外科医がよい手術をすることが前提になりますが、同時に麻酔科による質の高い周術期管理があって、初めて手術は成功したと言えるのです。その“術後の回復”に関して大きな役割を果たしているのが麻酔科なのです。

 この30年ほどで、新しい薬剤や、当院でも力を入れている超音波ガイド下末梢神経ブロック療法が開発され、麻酔科領域は大きく進歩しました。最近では術中の麻酔管理によって術後の回復、さらに長期予後まで影響を受けることが分かって来ており、術中の麻酔法の選択が、がんの再発率にも影響する可能性が研究されています。

 そうした中で、術中を乗り切ることだけを目的とした麻酔管理ではなく、ICUでの治療を含め、患者さんが一般病棟に戻るまでの質の高い周術期管理を目指しているのが当科最大の特徴です。ICUでの治療まで麻酔科が対応するため、術後の回復にエンドポイントを置いた手術麻酔ができるようになる。また、多くの関連病院から困難な症例が集まる環境にあるからこそ、短期間で大きく成長できる環境がここにはあります」

西脇公俊教授

西脇公俊教授

日本屈指のclosed ICU

日本屈指のclosed ICU

40名の常勤医がいるからこそ、麻酔科医の可能性を追求できる

 手術麻酔から集中治療、ペインクリニックと、幅広い領域を手掛ける麻酔科。ただ、一定の医師数がなければ、手術麻酔以外の領域まで充実させることは難しいとされています。その点、常勤医41人(うち麻酔専門医28人、麻酔指導医10人)を擁する名古屋大学麻酔科では、各領域での研さんが可能。新屋苑恵先生は、手術麻酔だけでなくペインクリニック領域にも力を入れたいと、他の病院から名古屋大学への入局を決めたそうです。

「手術麻酔に加え、現在はペイン領域で神経ブロック治療を行っています。大学病院なので最先端技術や、薬剤の知識を得られるのはもちろん、神経ブロック治療で有名な先生が在籍していたのも入局の決め手でした。名古屋市は日本の中心部にあって各地へのアクセスが良く、都会であるというのもポイントでしたね」

 現在後期研修中の前田翔先生は、研修の雰囲気について次のように語ります。

「大学病院ではありますが、学閥は感じません。さまざまな大学の出身者がいますし、やりたいことを明確に描けば叶えられる環境があります。今後は、ICUなどで急性期の治療に麻酔科医として携わり、術後患者さんのフォローをしっかり行っていきたいと思います」

新屋苑恵先生

新屋苑恵先生

前田翔先生(後期研修2年目)

前田翔先生(後期研修2年目)

どんなライフステージにあってもチャレンジできる環境

 臨床面での実績に加え、同科で特筆すべきなのが、勤務医へのバックアップ体制。ICUとペインクリニックに勤務している水野祥子先生は、院内保育を活用して2人の育児をしながら、がん細胞に対する麻酔薬の基礎研究をスタートさせました。

「どんなライフステージにいてもチャレンジができる環境は、貴重だと思います。ICUは2交代制で休みも確保されているので、子育てをしながら働きやすいと思います。決して楽な環境ではないですが、家族の協力を得ながら、新しいことに挑んでいます」

 ワークライフバランス面に加え、大学病院として研究にも注力する同科では、4人の研究専従スタッフが医師の研究をサポート。「専門医取得後は研究に注力したい」といった医師からも支持を集めています。研究室を支えている森厚詞先生は次のように語ります。

「麻酔科領域には、まだ研究が進んでいない未踏のテーマがあふれています。それらを追求できることが麻酔科研究の面白さでもあり、医師としての知見を広げることにつながるのではないでしょうか」

水野祥子先生

水野祥子先生

森厚詞先生

森厚詞先生
周術期管理システム構築学寄付講座

 手術麻酔、集中治療、ペインクリニックなど、何かのスペシャリストにもなるもよし、今は治せない病気に立ち向かうために研究に力を注ぐもよし、ライフイベントに応じて働き方も調整することも可能―そんな麻酔科医の醍醐味を味わう上では、同科のように十分な症例・指導医・バックアップ体制を備えた場所で修練を積むのが一つのポイントとも言えそうです。

 手術現場に必要不可欠な存在であるがゆえに全国的にニーズが高い麻酔科医。西脇教授は、「科目横断的に患者さんにふれあう分、院内全体の動きも分かるので、病院運営の面でも存在感が高まっている」とも指摘します。今後も発展を続ける領域で活躍したいという方は、名古屋大学麻酔科の門を叩いてみてはいかがでしょうか。