これからの医療に必要な「イチロー型総合診療医」とは?

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これからの医療に必要な「イチロー型総合診療医」とは?

水戸協同病院 徳田安春教授に聞く

専門分化が進んだと言われる現代医療の中で今、新たな診療科目として総合診療科が注目されています。特定の臓器や疾患に限らずに、多角的な視点から患者を診るこの分野のトップランナーとして、医学生や研修医の教育に力を入れているのが水戸協同病院総合診療科の徳田安春教授です。

なぜ今、総合診療科なのか。沖縄県立中部病院、聖路加国際病院といった有名病院で研修に携わった徳田教授に、これからの医療に求められる医師像について聞きました。

「総合診療医」が今、求められるわけ

―2017年度から始まる専門医制度では、「総合診療医」が基本領域の新たな専門医として認められるようになるなど注目が集まっていますが、そもそも、総合診療科が必要だと言われるのはなぜでしょうか。

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日本では高齢化が進んでいますが、高齢患者は複数の疾患を抱えていることが多く、医師が専門とする臓器の知識だけにとらわれて対応してしまうと、大きな問題が生じ得ます。疾患を見逃してしまうかもしれませんし、患者がほかの持病で服薬している薬を把握せずに処方を行い、重篤な副作用を引き起こすこともあり得ます。
もちろん、個々の医師は善意に基づいて治療に当たっていますが、実際、複数の医療機関から合計数十もの薬を処方された結果、その副作用が原因で入院してしまうケースも残念ながら存在します。特定の臓器にとらわれずに、広い守備範囲をもって患者に対応する、総合診療医の必要性が指摘される一例と言えます。

また、日本では医師不足が叫ばれていますが、医師の専門が細分化され過ぎている中で、単純に医師を増やしても、十分な改善にはつながりません。個々の医師の専門が狭い状況で、地域のあらゆる患者の治療を、その地域内の医療機関で完結させようとすると、全臓器別診療科目の医師を一通りそろえなければなりませんが、これは困難です。

幅広い診療科目をそろえている大病院であっても、日中はそれぞれの臓器別診療科目が機能し、幅広い患者の受け皿として機能できるかも知れませんが、人員が手薄な夜間救急となると、当直医師の「専門外」という理由で患者の受け入れを拒否する事例は珍しくありません。今後、総合診療医はもちろん、臓器別の専門を持つ医師にも、守備範囲を広げる取り組みは求められていくと思います。

―徳田教授が必要性を訴えている「イチロー型総合診療医」とはどんなものでしょうか。

地域医療・救急医療の最前線で、どんな疾患にも即座に対応できる「打ってよし、守ってよし、走ってよし」の総合診療医のことを呼んでいます。

もちろん、臓器別の専門性が高い医師も必要ですが、その役割は「患者を最初に診るトップバッター」ではない。トップバッターは救急であれば北米型ER医で、打順2、3番目に総合診療医が診療する。そして、患者の状態に応じて、4番打者として臓器専門的な治療介入をその道の専門医にお願いする―。こうした仕組みの整備が必要だと思います。

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「イチロー型」になるには?

―「イチロー型総合診療医」になるには、どんな訓練が必要だと思われますか。

水戸協同病院の初期研修で、内科研修は臓器別グループではなく、総合診療科に所属してやってもらうという体制をとっています。総合診療科のチームメンバーとして、シニアレジデントとチームを組み、さまざまな症例の対応をします。

また、教育的な立場から言えば、総合診療医と臓器別専門医のどちらになるにしても、医学部卒前の段階から実際の医療現場で、本物の患者さんを相手にした研修を積極的に受けていくことが必要だと思います。

わたしは2009年から医学生に向けて、全国各地で「闘魂外来」という「診療主役型」の実践型臨床研修を行っています。指導医が常に目を配る環境下で、医学生が院内PHSのファーストコールを取り、問診⇒身体診察⇒鑑別診断⇒アセスメント⇒プラン⇒患者への説明、という一連の流れを行うもので、毎回、全国の医学生が参加してくれています。

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実践型の闘魂外来に対して、日本の医学部で行われてきた実習のほとんどは見学型で、実践力が養われづらい。多くの医師は初期研修医になって初めて現場で実際の患者さんへの対応を迫られるので、何をしたらいいのかが初めのうちは全く分かりません。そして初期研修医としてようやく、現場の雰囲気に慣れてきたと思ったら、すぐに自分の専門領域での研修に移ってしまう。

本来であれば、医学生の頃から実践型の実習を積極的に受けて、専門領域に入る前段階では腰を据えて、目指す専門領域の周辺部分、基本的なところをきっちりおさえておいた方がいい。日本の医師教育の問題は、専門領域に入るのが早すぎて、医師の視野が狭まりやすいことでしょう。

大学での実習があるにも関わらず、5、6年次を対象にした「闘魂外来」は、申し込みから3か月待ちという盛況ぶりです。実際に患者さんを診る経験を早くから積むことの価値に、医学生自身も気づき始めているのではないでしょうか。

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