【開催レポート】岩田健太郎先生らが考える“これからの医師がなすべきこと”とは? 第10回「大阪どまんなか」

研修病院ナビTOP > キャリアと臨床推論 > 【開催レポート】岩田健太郎先生らが考える“これからの医師がなすべきこと”とは? 第10回「大阪どまんなか」

【開催レポート】岩田健太郎先生らが考える“これからの医師がなすべきこと”とは? 第10回「大阪どまんなか」

医療技術の向上や、社会環境の変容などによって変化の波にさらされている医療業界。これからの医師はどのように目の前の患者や社会と向き合っていくべきか――。2017年6月24日に開催された総合診療勉強会「大阪どまんなか10.0」では、こうしたテーマについて岩田健太郎先生(神戸大学医学部附属病院 感染症内科教授)など著名医師が講演。100人近くもの医学生が大阪に集まり、議論を深めました。

なぜ梅毒は撲滅しない?これからの医療に求められること―岩田健太郎先生

オープニングセッションを務めたのは、岩田健太郎先生。感染症対策について数々の著作で積極的に発信している岩田先生は、19世紀以降の医療の歩みをひもといた上で、これからのあるべき姿について問題提起しました。

岩田先生は、20世紀前半、梅毒に対する特効薬として人類がペニシリンを開発したことが一つの“パラダイムシフト”だったと指摘。「この時はじめて、対症療法ではなく病原体そのものを標的にする根本療法に発想が転換した。これが20世紀の医療の始まりであり、分子標的薬など現在の先端医療にもつながっている」と解説しました。

ただ、その一方で、梅毒をめぐっては治療法や感染経路、病原体に対する遺伝子レベルでの研究が進んでいるにもかかわらず、現在も根絶に至っていないという事実にも触れ、「根絶に至らない理由は何か」や「21世紀の我々に求められることは何か」と、参加者を巻き込んでディスカッションしました。会場から挙がったのは、「感染症は国際規模の問題であるため一国だけの対応では不十分」「保健所の取り組みが知られていない」「性感染症は潜伏期間が長く無症状で、無自覚のうちに感染を広めてしまうことが問題」「性教育をもっと充実させるべき」などの意見でした。

性感染症の根絶に、必要な手立てとは――。岩田先生の講義後半は、池田裕美枝先生(京都大学医学部附属病院 産科婦人科女性健康医学研究室)も登壇して、「感染症医と産婦人科医が教える性の話」をテーマにした対談へ。感染症内科・産婦人科それぞれの現場で性感染症治療に当たり、学校での性教育にも携わっている2人の対談は、“セックス離れ”が指摘される若者世代の性意識にもおよびました。

池田先生は、「セックスを怖がる生徒が増えている」と実情を語り、性感染症のリスクばかりを啓発することへの違和感にも言及。岩田先生も、性教育や性交渉のあり方という、医学的な観点だけからは答えが出せない問いに対し、会場へ投げかけると、頭を抱える参加者の姿も見られました。

周産期医療世界トップ水準の日本で、遅れている領域とは?―池田裕美枝先生

続いてのテーマは「ウィメンズヘルスどまんなか」。女性を取り巻く医療のあり方について、引き続き池田先生が「リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツ」の概念を用いて講演しました。

リプロダクティブ・ヘルスとは、「人間の生殖システムおよびその機能と活動過程のすべての側面において単に疾病、障がいがないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあること」。池田先生はその趣旨を「女性も男性もどちらでもない人も、特徴を知って、活かして、人生を謳歌できること」と、かみ砕いて解説しました。健康な女性を増やすことは次世代の健康にもつながるとして、特に国際保健政策では重要視されている考え方で、1990年以降人口政策はリプロダクティブヘルス・アンド・ライツ政策に変換されているそうです。

池田先生は現役産婦人科医の視点で、「日本の周産期医療は世界一。婦人科腫瘍の領域のオペ技術も非常に高度」と解説する一方で、リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツという視点からの社会的なケアについて、日本は十分ではない現状を指摘。「7回に1回は人工妊娠中絶が行われている」「女性の4人に1人が配偶者から暴力を受けた経験がある」「性交経験のある女子の13%がクラミジアに感染している」「HPVワクチンの接種率はほぼ0%」といった国内のデータを紹介しました。

このほか、家出をした未成年の女児が性被害のため妊娠し出産した例を挙げ、どうしたら防げるかというテーマで、参加者同士で議論。会場からは「児童ポルノなどに対する罰則が緩すぎるのでは」「妊娠早期に気づける環境が大切」などの意見が挙がりました。

AIが医師に取って代わる?これからの医療に必要なマインド ―西澤徹先生

3番目に登壇したのは、西澤徹先生(関西医科大学総合医療センター 呼吸器膠原病内科 助教)。西澤先生はまず、医師でも診断が難しい特殊な白血病を人工知能(AI)が10分程度で診断したという2016年のニュースを紹介。こうした時代に医師が大切にすべきマインドについて、具体的な症例をもとに解説しました。

西澤先生がまず紹介したのは、「全身が黄色くなってしまった」と訴える患者の事例。この患者は柑橘類やカボチャなどの野菜を食べていたわけではないものの、単身赴任中で健康のために野菜ジュースを過剰摂取していたことが分かり、最終的には柑皮症という結論に至ったそうです。西澤先生は、ライフスタイルの変化により、病気のあり方も変化し、医師にはこうした変化を踏まえた上での判断が求められる点を指摘。そのほか9つもの症例についても、「時代・地域背景を踏まえて問診すべき」「主訴は病態の結果の表現系であることを理解すべき」など、診療時に医師が持つべき実践的な心構えを紹介しました。

講義の中で西澤先生は、「患者のフリーアクセスが認められている日本では特に、患者を最初に診る医師が、自分の専門科目にとらわれず、『体調不良で困っている人に何かできないだろうか』というゼネラルな視点で診察、治療を行わなければならない」と説明。総合内科や総合診療科志望でなくても、医学生のうちからこうした視点を持ち、初期研修に臨むことが大切だと訴えました。

患者を幸せにするためのEBMとの付き合い方―金澤健司先生

金澤先生が紹介したのは、「蜂窩織炎で入院し、高血圧(140/80mmHgほど)を気にしている81歳男性」の事例。配偶者との2人暮らしで畑仕事が生きがいというこの男性のライフスタイルも踏まえ、血圧をどう評価し行動するか。診療ガイドラインや海外論文の読み方はもちろん、患者にどう治療方針を説明するかまで、参加者と議論をしながら講義は進んでいきました。

金澤先生は、参照すべきリソースの順番や、論文を読む際の注意点について具体的に紹介する一方で、「エビデンスを読むときに最も大切なのは、そのデータを目の前の患者さんにどう返すかを考えること」と繰り返し強調しました。

今回の場合、血圧を下げる・下げないといった方針が、そもそも患者の人生や生きがいにどのような意味を持つのか。それをどのように説明すれば、患者にも納得して医療を受けてもらえるか――。こうした点を意識しながらエビデンスに触れることが大切だと話し、エビデンスに向き合う際の姿勢について力説しました。

大阪どまんなかが「これからの医療を考えるきっかけに」

第10回目の開催となった大阪どまんなか。代表の清田敦子さん(大阪大学医学部6年生)が、「現場で役立つ知識が得られるだけではなく、全国の医師・医学生が所属を超えてこれからの医療を考えられるきっかけになれば」と期待を語るように、今回の講義には、今後の医療業界、医師のあり方を考えさせる内容が多く盛り込まれていました。

多くの学びと気づきが得られる大阪どまんなか。次回開催予定は以下の通りとなっています。ご興味のある方は、是非次回、参加してみてはいかがでしょうか。

左 山本副代表 右 清田代表

全体写真 全体写真

第11回大阪どまんなかは、2017年10月28日(土)開催予定です!

講師:
・喜舎場朝雄先生(沖縄県立中部病院 呼吸器内科)
・清田雅智先生(麻生飯塚病院 総合診療科)
・酒見英太先生(洛和会音羽病院 洛和会京都医学教育センター)
・矢野晴美先生(総合病院水戸協同病院 感染症科)
※ 詳細は、ホームページなどをご確認ください。
大阪どまんなかFacebookページ
大阪大学・未来医療研究人材養成拠点形成事業