【開催レポート】総動員数1300人超。医師のたまごが学び、つながる 「大阪どまんなかFINAL」

研修病院ナビTOP > キャリアと臨床推論 > 【開催レポート】総動員数1300人超。医師のたまごが学び、つながる 「大阪どまんなかFINAL」

【開催レポート】総動員数1300人超。医師のたまごが学び、つながる 「大阪どまんなかFINAL」

2014年から始まった、総合診療を志す医師・医学生のための勉強会「大阪どまんなか」。文部科学省事業の一環として大阪大学が主催して、年3回のペースで開催してきたこのイベントの最終回が、2018年1月20・21日の2日間に渡り開催されました。

今回も総合診療のベテラン医師らが講師を務め、全国から約130人の医学生・研修医が集まった「大阪どまんなかFINAL」。最終セッションでは参加者全員が「これからの医療」について徹底議論。勉強会の様子は一般市民にも公開されるなど、患者の“こころ”まで診る想像力を掻き立てる工夫が凝らされていました。

制度に左右されない、真の総合診療医マインドを

「第12回大阪どまんなか」は最終回にも関わらず、市民公開型という初の試みを導入。その背景を「あらためて患者を意識しようという思いがあった」と語るのは、代表の清田敦子さん(大阪大学医学部6年)。「わたしたちの学びは、地域の市民、患者さんへつながっていきます。もうすぐ新専門医制度が本格的に始まりますが、大切なのは制度に左右されない、患者さん目線の総合診療医マインド。勉強会を通じて患者さんの生活に対する想像力が少しでも育めたら」と、その意義を語ります。

副代表の山本晴香さん(滋賀医科大学医学部6年)は、これまでを振り返り、「大阪どまんなか」を“火種を生み出す場”だと表現。「イベント内にはさまざまな導火線が張ってあり、それを持ち帰った参加者たちが日本各地で花火を打ち上げる、そんな場になったと思います。一旦、大阪どまんなかは終わりますが、全国各地に同様の取り組みが広がってくれたら」と今後の期待を話しました。

左から代表の清田敦子さん、副代表の山本晴香さん

左から代表の清田敦子さん、副代表の山本晴香さん

5人の実力派医師と行う、最新事例の臨床推論

今回は最終回ということもあり、壇上には著名医師が勢揃い。2日目最初のセッションは、松本謙太郎先生(国立病院機構大阪医療センター)によるファシリテートのもと、北和也先生(やわらぎクリニック)、平島修先生(医療法人徳洲会 奄美ブロック総合診療研修センター)、志水太郎先生(獨協医科大学総合診療科)、矢吹拓先生(国立病院機構栃木医療センター内科)というメンバーで臨床推論を進行。参加者はグループに分かれ、2つの症例から考えられる疾患や行うべき診療行為を話し合いました。

左から志水太郎先生、矢吹拓先生

左から志水太郎先生、矢吹拓先生

5人の医師によるアドバイスは医学的観点にとどまらず、患者との向き合い方にも及びます。志水太郎先生は、なかなか診断がつかずドクターショッピングを重ねた末に来院する患者も多いことにふれた上で、「患者さんから逃げないことが大事」だと強調。「痛みを訴える患者さんがいるなら、痛みが消えるまで逃げずに付き合っていく。医師と患者の信頼関係はそういったところから生まれます」と診療時の心構えを説きました。

左から平島修先生、北和也先生

左から平島修先生、北和也先生

「エビデンスは絶対ではない」―多剤処方を防ぐのはコミュニケーション

続いてのセッションでは、多職種、医師同士の連携という観点を取り入れるため、薬剤師の青島周一先生、矢吹拓先生、北和也先生による「多剤併用を見直す処方内容カンファレンス」を実施。13種類もの薬が処方されているケースをもとに、問題点や介入方法についてディスカッションが行われました。青島先生は、薬の副作用を病状悪化と捉えて新たな薬を処方する「処方カスケード」の危険性を指摘。「処方医が1人増えると薬害リスクが30%増える」という通説も踏まえて、医師間及び医師と薬剤師間の連携の重要性を強調しました。

多剤併用時には処方薬の取捨選択が必要な場合もありますが、矢吹先生は「利益と害のバランス」と「患者や周囲の背景・価値」を考える重要性を提言。「薬のエビデンスは絶対的ではなく、必要性は患者や家族の価値観や周囲の状況によって変わりうるものです。この時意識したいのは、医療者と患者が治療の好みやゴールなどをともに考えるShared desicion making。一方的な押しつけにならないように患者の思いに耳を傾け、看護師や薬剤師などの多職種とも協力しながら、できるだけ対等な関係を築くことが大切」と訴えました。

左から青島周一先生、矢吹拓先生

左から青島周一先生、矢吹拓先生

「これからの医療」を等身大で語る

最終セッションでは「これからの医療の話をしよう」と題して、参加者全員でディスカッション。多剤処方の改善策や、臨床教育で医師が学ぶべきことといった内容から、「“医”の中の蛙 大海を知らず」と称して、いかに医師の視野を広げるかといったテーマまで、各自の思いを膨らませました。

30分の議論を経てまとまった内容は、グループ代表者が発表。それぞれのテーマに知見の深い先生方から今後のエールを送られました。参加した学生からは「自分から外に出て、色々な世界を見ることが大切だと思った」「大学に戻り、あらためて学び直したいことが見つかった」などの感想が寄せられました。

所属や学年を問わず、30分にわたって議論を深めました

所属や学年を問わず、30分にわたって議論を深めました

学びとつながり、両方あるからおもしろい

2014年から始まり、総動員数1300人超となった「大阪どまんなか」。2代目代表でこの会を発展させてきた笹本浩平先生(市立敦賀病院)は、「学びとつながり、両方が得られる場所を作りたかった」と立ち上げからのこだわりを述べた上で、参加者への期待を次のように語りました。

「これまで参加してくれた皆さんには、今までの学びを生かした自由なアイディアで医療現場をよりよくしてほしい。文部科学省事業としては終わりを迎えますが、ここで生まれたネットワークはこれからも生き続けます。視野を広く持って、あきらめずに総合診療を追究していってほしいと思います」

2代目代表の笹本浩平先生。これまで行ってきた「大阪どまんなか」の展示写真の前で、今までを振り返っていただきました

2代目代表の笹本浩平先生。これまで行ってきた「大阪どまんなか」の展示写真の前で、今までを振り返っていただきました

事業としての「大阪どまんなか」は終わっても、これまで築いてきた仲間や想いは変わらずに引き継がれていきます。「日本どまんなか」構想が立ち上がる日も、そう遠くないかもしれません。

全体集合写真 全体集合写真