500名の医師・医療系学生が集結! 家庭医療を学び、仲間をつくる夏セミが開催 「家庭医療を学ぶ人の“居場所”をつくりたい」学生代表の想い

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500名の医師・医療系学生が集結! 家庭医療を学び、仲間をつくる夏セミが開催

「家庭医療を学ぶ人の“居場所”をつくりたい」学生代表の想い

取材日 :2017年8月6日-7日

医療系学生・医師あわせて500名近くが8月、琵琶湖の湖畔に集結して、家庭医療を学びながら交流を深めました。3日間にわたって開催されたのは、「学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」、通称・夏セミ(かせみ)。29回目を迎える今年は「みちしるべ」をテーマに開かれ、参加者は各種企画を通じて、家庭医療の“未知”の部分や、今後の“道”となるキャリアについて学びました。

学生目線で厳選された45セッション

夏セミは日本プライマリ・ケア連合学会の主催ですが、企画・運営は医療系学生を中心に行われています。メイン企画でもある合計45のセッション枠には、全国の医師などから企画応募があり、医学生らが「学生が魅力を感じる内容か」を基準に選定。枠を得るのはわずか半数と、厳選されたコンテンツとなっています。

今年のセッションには、「絶対身に着けたい効果的な症例プレゼンテーションの仕方」などのジェネラルな内容から、「亀田流!家庭医外来研修リターンズ~初期研修医でも家庭医になれる!?~」や「これで解決!介護保険のギモン」など家庭医療ならではの演題までさまざまなテーマが並び、参加者はそれぞれが興味のあるセッションを受講しました。

そのうちの一つ、「明日から使えるTelling Bad News ~そんなときどう伝える?~」では、佐々木隆史先生(京都家庭医療学センター)がワークショップを開催。映画『明日の記憶』で医師が中年患者に認知症を告知するワンシーンを鑑賞し、患者である広告代理店部長が「お前に何が分かるんだ!」と取り乱した理由や、医師は何をすべきだったのかをディスカッションしました。
その後は、逆に患者が取り乱さない別の告知シーンも鑑賞し、「患者さんが病名を告知されて泣いているときに、あえて沈黙し、患者さんが気持ちを整理する時間をつくっていた」など、参加者からも分析する意見が出されました。

その他にもロールプレイングを行うなど、実践を交えながら、深刻な話の伝え方について考える場となった同セッション。「(ロールプレイングで)相手の反応を伺いながら伝えようとすると、自分が思っていない反応やタイミングがあって難しかった」などの声も挙がりました。

学生目線で厳選された45セッション1
学生目線で厳選された45セッション2

セッションではどこも活発な議論が行われました

ここでしか味わえない「多職種連携」

特別企画である「『職種』の一歩先へ!想いをつなぐ多職種連携」では、講師に山本由布先生(笠間市立病院/筑波大学総合診療グループ)を迎えて、200名超の学生が全員参加。一人ひとりが医師や薬剤師、ケアマネジャーなどの職種になりきり、グループワークで多職種連携を疑似体験しました。

グループワークで与えられた課題は、末期がんを患った患者さんが「30日後、娘の披露宴で立ち上がって花束をもらいたい」と希望したとき、入院部門・在宅部門で何ができるか、というもの。グループワークに先立って、笠間市立病院など、笠間市内で働くPTやOT、ST、薬剤師、訪問看護師、ケアマネジャーが自身の役割や業務内容などについて解説。参加者たちは、日頃なかなか知りえない知識や視点に触れて、真剣にメモを取っていました。その後、山本先生から「退院させても、させなくてもいい。何を選択するかは自由」と伝えられ、頭を悩ませながらグループワークに取り掛かかる姿が多く見られました。

参加者からは「難しかったのは、いつ退院させるか、そもそも退院させるべきなのかを決めること。しかし、全員で方向性を統一したことで、話し合いがスムーズにいった」などの感想が挙がりました。

90分に及ぶ特別企画の最後、山本先生は次のようにコメントし、企画に込めた想いを語りました。

「人はたくさん集まると、それぞれ意見も異なるため、目標がだんだんズレてしまうことがあります。そんなときは、『わたしたちは誰のためにこれ(医療)をやっているのか』に立ち返るようにしてください。みなさん自分の職種の枠から一歩先に飛び出して、いろいろな人と話し、いろいろなことを知ってください。学生や研修医の今だからできることがたくさんあるので、今から考えをもって日々生活してほしい」

こうして朝から晩まで座学やディスカッションに勤しんだ後は、交流会。「家庭医は夜、つくられる」のスローガンの下、夜中まで語り合い、親睦を深めました。

ここでしか味わえない「多職種連携」1
ここでしか味わえない「多職種連携」2
ここでしか味わえない「多職種連携」3

山本由布先生(笠間市立病院/筑波大学総合診療グループ)

夏セミは「仲間を見つける“居場所”」

「家庭医療を学ぶ学生の“居場所”をつくりたかったんです」――。そう力を込めて話してくれたのは、実行委員長の田中いつみさん(愛媛大学医学部6年生)。将来は家庭医としてキャリアを夢見ますが、大学では未だ理解を得にくいと言います。

「わたしは元々、地域を支えられる医師を目指して、医学部に入りました。ただ、大学では家庭医療を学ぶ機会が少ないですし、周りに理解者も少なくて、入学してしばらくは『このまま目指して良いのだろうか』と不安になることもありました。夏セミでようやく同じ目標をもつ仲間に出会えて、今では自信を持って『家庭医を目指している』と言えます。だから、同じような思いをしている医学生が仲間を見つけられる“居場所”をつくりたいと思って1年間準備してきました」

同じく運営に携わった吉羽史織さん(秋田大学5年生)も口をそろえて言います。

「大学では家庭医療はなかなか認めてもらえないのが現状です。この分野を目指していることも言い出しにくい…。ここには家庭医療の話を楽しんでくれる人たちがいて、そういう場をつくれたことが嬉しいですね」

夏セミは「仲間を見つける“居場所”」1

運営に携わった、
吉盛太朗さん(左、企画局長)
田中いつみさん(中央、実行委員長)
吉羽史織さん(右、セッション局長)

学生だけでなく指導者も学びを得る場

夏セミを支える吉本尚先生(筑波大学附属病院 総合診療科)もまた、医学部時代に学生として参加した一人。それ以来16年間、夏セミを見てきた吉本先生は、このイベントが学生にも指導側にも意義深いものだと強調します。

「夏セミは知識だけでなく、プライマリ・ケアの精神を学べる場になっています。働き始める前から他職種と家庭医療について議論し、考える機会は滅多にありませんが、夏セミには医学生、看護学生、薬学生など、自分の大学にはいない医療系学生もいます。ここでの経験は、将来きっと役に立ちます。

学びを得られるのは、指導側も同様です。ここでは多職種の学生に教えるため、いつも以上に分かりやすさが求められます。その上、セッション企画には全国の医師から70~80件の応募がありますが、採用されるのは半分程度。学生にどんなことを学んでほしいか、しっかり考える必要があるんです。一方で運営に携わる学生たちには、本当に学びたいことはなにか、参加者に学んでほしいことはなにかを吟味するよう伝えています。

夏セミに関わっていて感じるのは、学生たちの熱心さです。学生たちの『こんな医療者になりたい!』を応援したいと思います」

医師・学生の熱い想いで開催されている夏セミ。最終日はあいにくの台風でしたが、学生・医師たちの熱気が熱帯低気圧となって呼び寄せたのかもしれません。

学生だけでなく指導者も学びを得る場1

吉本尚先生
(筑波大学附属病院 総合診療科)