99床の制約が生む“総合力”
高齢社会を先取りする課題先進地域だからこそ実現できるキャリア
【総合診療専門研修とトランジショナル・イヤー研修】
取材日 : 2021年9月
全国初となる総合診療部が開設された1978年に、地域に根差した医療を貫く医療法人岐阜勤労者医療協会 みどり病院(岐阜市)は誕生しました。同院は「総合診療」黎明期から全人的な医療を実践。2020年度からは、初期研修には参加せず、総合診療科専門研修の基幹病院として、専攻医育成に力を注いでいます。
また、「専門研修プログラムに乗らずに、もう少し内科を深く勉強したい」等、3年目以降をどう過ごすか悩んでいる医師にトランジショナル・イヤー研修として研修機会を提供している。柔軟な研修環境を求める全国の医師から問い合わせがあり、最近では愛知・静岡の中部地域を中心に、研修医・専攻医がこの研修を受ける為に、同院の門を叩いています。
どちらの研修も、99床とコンパクトながら、小規模だからこそ叶えられるキャリアと地域ならではの経験を豊富に積める環境が整っています。
経験や年齢に関係なく、一歩一歩着実な成長で基礎固め
日本の高齢化は留まるところを知りませんが、みどり病院の周辺地域も同様です。同院が位置する岐阜市東部の高齢化率は2045年の全国平均(推計)と同等の水準に達しており、既に40%を超えています。その地域特性から高齢化に対する診療ができる医師の育成が同院では一番大切であるという、プログラム責任者の西尾大樹先生を中心に、同院では様々なフィールドの医師を受け入れています。
「”総合診療”と一概に言っても、家庭医や救急総合診療等、医療機関の特性によっても専門性に偏りが出てしまいます。当院なら、診療所と総合病院の間の立ち位置で、患者さんを外来・入院・退院・往診(訪診)等の一連の流れで診ることができる医師になるための基礎固めを確実にできます。」(西尾先生)
実際に、同院で初期研修から学んできた医師3年目の脇田先生も「地域医療の基礎を学ぶには最適」と話します。
「初期研修中、外科や産婦・小児科等は外部での研修を行ったのですが、そこで改めて、自分のペースで着実に成長できるみどり病院で内科医としてキャリアを積んでいきたいと実感しました。ただ、地域医療を深めたいという思いはあるものの、実際に専門プログラムを選択するうえでは不安もありました。本当に自分に合う診療科なのかと実感できずに悩んでいる時、当院ではトランジショナル・イヤー研修としてもう一年、内科を中心に希望の内容で研修を行い、専門プログラムに乗らなくても、内科を中心とした研修で在籍させていただけると伺いました。出来ることなら、メインの内科疾患を数多く網羅している当院で、研修し直したいという思いから、現在も継続しています。」(脇田先生)

西尾大樹先生(プログラム責任者)

脇田健史先生(医師3年目、トランジショナル・イヤー研修)
99床の制約が生む“地域と連携する力”
着実な成長を望み、同院での継続研修を選んだ脇田先生だけでなく、社会人経験のある医師や初期研修途中から入職する医師など、様々な経歴を持った幅広い年齢層の研修医が一歩一歩確実に成長ができるよう、同院には他職種連携を意識した院内研修や岐阜大学のカンファレンスへの参加、他医療機関との密接な連携など、“総合診療医として偏りのない医師”となるための研修環境が用意されています。
現在、総合診療科専攻医1年目の水野先生は、大学病院での初期研修2年次に同院のカンファレンスに参加し、実現したい医師像に近い環境であると思い、初期研修途中で異動された経験の持ち主です。
「ある時、自分の担当する消化器疾患のある患者さんが脳梗塞を起こした際、病棟やベッドはそのままなのに転科されてしまい、もう診られない状況に歯がゆさを憶えました。それを克服できるのは総合診療科であると考え、当院を見学し、カンファレンスに参加しました。
そこでは、薬剤師や看護師、技師さんといった多職種の方々が平等に意見されていて、医師がそれを聞き入れ治療方針を決定している状況が、医師の意見が重要視されることが多い大学病院と大きく違うことを実感し、異動を決めました。入職直後の多職種研修により、みなさんの顔と名前、仕事内容まで知っているため、関係構築や各スタッフへの配慮もできています。 多職種連携がうまく機能しているからこそ、安心して研修に挑戦できているのだと思います。」(水野先生)
「患者さんが退院後に一人で栄養バランスの整った食事が摂れるのか、自宅の段差につまずかないか、などを把握するためには、本人やご家族、ケアマネジャーなどとのコミュニケーションが欠かせません。
相手が患者さんであれ医療機関であれ、医師には自分の考えを適切に伝える力が求められます。こうしたスキルの研鑽は絶対に必要で、当院では紹介状の書き方や伝え方のロールプレイングなど、確かな連携力が身につくような研修を心がけています」(西尾先生)
99床の同院には最新鋭の設備や機器こそ揃っていませんが、制約があるなかで身に付くことも多いようです。そのひとつが地域の医療機関・施設と連携する力。プログラム責任者である西尾先生は、救急のファーストタッチでも病棟の主治医や診療所の担当医でも、まずは一例一例、患者さん一人ひとりを真剣に診てほしいと考えています。
「患者さんと真剣に向き合った時、多くの人の手を借りなければいけないことに気付くでしょう。当院は規模が小さいからこそ、院外の方々との連携を重視しています。院外には三次救急病院から専門医療機関、介護事業所などの社会資源が揃っているだけでなく、都市部と比べて医療機関・施設の数が程良い。いわば『連携先がない』『連携先が多すぎて把握できない』と悩むことがありません。よって、当院で診るべきなのか、それとも専門機関につなぐべきなのか、専門機関につなぐとしたらどこにつなぐのがベストなのかなど、判断力を磨くことが出来ます。加えて、最近はオンラインで大学のカンファレンスにも参加できるようになったので、学術的な見地からも考える機会を提供できています。」(西尾先生)

水野佑一先生(医師3年目、総合診療専門研修1年目)

科目や職種を問わずに相談できる、和やかな雰囲気
現場に踏み込むからこそ見えてくるキャリア
地域全体を俯瞰する視点と、患者一人ひとりに向き合う視点――。両者のバランス感覚を養うからこそ、同院で学んだ研修医・専攻医たちは、同期よりも早いスピードで成長でき、医師としてのキャリアが見えてくると言います。
医師3年目の町野先生も、静岡県内で初期研修中に地域医療・総合診療に関心が強まり、「救急も診る町医者」を目指して、内科を勉強しながら将来のキャリアを検討しています。
「もともと総合診療医の道を考えていたため、3年目からプログラムを専攻するつもりでいたのですが、初期研修中は指導医の判断の元で見ていただけの状態が長く、外来や救急まで『一人で診る』ことが出来ていないことが不安でした。そこで、もう一度現場での実践を勉強するために当院を選び直し、内科を中心にトランジショナル・イヤー研修をしています。
当院は、病院の規模や特性から緊急性の高い重症患者さんの救急を一人で診ることは稀で、病棟管理を中心に研修が進むため、無理なステップアップをさせない点が特徴です。病棟でも急変による対応は当然あるため、自然とそこで救急の対応力はついていきます。外来も1コマ持っていて、主体性をもって診療の方針をたて、退院後のフォローまで、初期研修中にはできていなかったことが体系的に学べています。」(町野先生)
その上で今後は、もう少し緊急度の高い患者さんの対応も診られるように、大きな施設で経験を積むことも重要と考える町野先生。みどり病院で研修を重ねたことで見えてきたキャリアだと語ります。

町野孝行先生(医師3年目、トランジショナル・イヤー研修)
総合診療医は臓器ではなく「患者さん」の専門医
みどり病院総合診療専門研修プログラムでは、①総合診療専門研修Ⅰ(外来診療・在宅医療中心)、②総合診療専門研修Ⅱ(病棟診療、救急診療中心)、③内科、④小児科、⑤救急科の5つの必須診療科と選択診療科で3年間の研修を行います。
「当プログラムでは、2・3年目は4つの連携施設にて研修を行い、プラス1年学ぶと、そのまま家庭医のサブスペも取得できます。私は、臓器別の疾患を診る専門医とは別に、患者さん一人ひとりの専門医も必要だと考えており、みどり病院はそれが叶う場所だと思っています。
1つの医局に全科の医師がいるため、様々な疾患について調べて相談して治療ができます。関連手術、訪問リハ等も充実しており、チーム医療の環境が整っており、その中心で研修ができています。」(水野先生)
水野先生のように、多くの職種のプロたちと連携をとりながら、地域医療の最前線で総合診療専門医を目指したい方にも、脇田先生・町野先生のように自身のキャリアをしっかりと見つめて着実に歩をすすめたい方にも、このみどり病院では実現できるキャリアが待っています。
※2024年には新病院建設予定です