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本社からの経営支援で「地域医療に専念できる環境づくり」

取材日:2026年7月23日(エムスリーキャリア編集部)

Carus Holdings_KV

株式会社Carus Holdingsは、地域医療の持続可能性を追求し、医療機関の事業承継と経営支援を行っています。2040年問題を見据え、医師が臨床に専念し、専門の経営陣がマネジメントを担う独自の「医業と経営の分離」により、持続的な地域医療の運営を実践しています。今回は、同社を立ち上げた今野健一郎・創業医師と、上田広宣・代表取締役社長に、設立の背景や事業の特徴、そして描く未来像についてお話をうかがいました。

第1章:2040年問題を見据え、臨床と経営を分業へ

ーー2018年に栃木市で事業承継をされたご経験が、会社設立の原体験になったとうかがっています。当時の思いと背景について教えてください。

今野先生
今野健一郎 創業医師

今野:私は大学卒業後、沖縄県立中部病院での初期研修を経て、東京にある聖路加国際病院などで救急医としての研修を受けました。沖縄では「どんな患者さんも断らずに診療すること」、救急医としての後期研修では「初期診療から入院診療までを見通して診療にあたること」の大切さを学んだと思います。その後、2018年に栃木県で診療所を継承する形で、開業をしました。関東に地縁はありませんでしたが、どんな患者さんでも受け入れる診療所にしたいという思いがありました。

同診療所を私が引き継いだ当初、1日約80人の外来患者さんと毎月約30人の訪問診療を担う体制でしたが、開業後患者数は徐々に増加していき、2年後には1日約110人の外来患者さんと毎月50人ほどの訪問診療患者さんを担当するようになりました。
診療を断らずに続ける一方で、経営や人事労務、資金繰りといった臨床以外の業務もすべて自分たちで行う必要がありました。事前に経営や人事労務に関する基本的な知識は書籍などで学んでいたものの、実務経験はなかったため、手探りで進める日々でした。

こうした経験に加え、2040年問題である高齢者の増加や、地域医療の担い手が減少していくという「需給のミスマッチ」に強い危機感を抱きました。近隣でも高齢の医師が懸命に診療を続けている現状があり、地域医療を医療と経営の両面から支える仕組みが必要だと考えたのです。事業会社系や投資会社系の事業承継サービスや医療介護グループ会社はありましたが、医療職自身がトップに立ち、医療や介護の質、また医療介護スタッフたちのキャリアパスやウェルビーイングにこだわる法人は少なかったため、自ら挑戦することを決意しました。

ーー上田社長はどのような経緯で参画されたのでしょうか。

上田社長
上田広宣 代表取締役社長

上田:私は投資銀行でアドバイザーとしてキャリアをスタートし、その後はスタートアップのCFOとして経営の当事者として携わってきました。アドバイザーと経営側の両方を経験する中で、より経営者としての経験を深めていきたいと考えていました。

次のキャリアを模索する中で今野と出会い、地域医療が抱える課題について話を聞きました。地域医療の現場では、経営を担える人材が極めて不足しています。私が培ってきた経験やスキルが最も活かせる領域だと確信しました。

元々、今野が2020年以降に承継を重ねることで、複数の医療法人の経営をしておりましたが、特に2023年から2024年にかけて、数多くの事業承継の相談が寄せられるようになりました。今後の規模の増加を考えた時に、これらを単一の医療法人ごとに運営するのではなく、グループ全体を統括する本社機能が必要不可欠なタイミングでしたので、今野が医療法人側の診療や運営を率い、私が全体の経営管理を一元的に担う、医療と経営を二人三脚で行う体制で、株式会社Carus Holdingsを設立しました。

第2章:「当事者」として経営を担い、現場の信頼を築く

ーー御社の事業における最大の特徴は、医師が臨床に専念し、本社が経営をバックアップする点にあると思います。この体制はどのように構築されたのでしょうか。

上田:事業承継を始めた当初、私たちは医療法人の「事務長」という立場で経営支援を行っていました。しかし、実際にそうした立場での介入をしてみると、医療法人の運営には財務、人事労務、行政対応、地域連携など、医療法人内の従事者だけでは対応しきれない膨大な業務があることがわかりました。数名から十数名規模のクリニックでは、各業務専任の担当者を雇う余裕はありません。そのため、医師や職員が診療の合間を縫ってすべての管理業務をこなす必要があり、時間的な限界がありました。

そこで、私たちが経営・管理業務を全面的に担うことで、医師が診療のみに集中できる環境を作りました。これが法人の運営にも良い影響を与え、相乗効果を生んでいます。

また、そうした支援活動においては、アドバイザーやコンサルタントといった外部の立場ではなく、「当事者」として関わることを重視しています。現場の医師や看護師と信頼関係を築くためには、同じ目線で責任を負い、共に法人を良くしていく姿勢が不可欠です。働く方々が「ここで働いてよかった」と感じて初めて、診療のパフォーマンスも向上すると考えています。

ーー厳しい経営状態の法人も引き受けていらっしゃると伺いました。現場の意識を変え、組織を改善するための工夫を教えてください。

上田:地域医療を守るという使命があるため、黒字の法人だけでなく、経営基盤が厳しい法人も引き受けています。そうした法人では、就業規則や賃金体系、資金管理といった組織の基礎となる部分が長年アップデートされていないケースが多く見られます。

現場目線では、長年の慣習を変えることに対する抵抗感は当然ありますが、最も重要なのは「従業員にとって良い変化をもたらすこと」です。無駄な作業が減る、労働条件が改善する、休みやすくなるといったメリットを実感できれば、現場の方々も前向きに受け入れてくれます。すぐには効果が出ない場合でも、目的や方向性を丁寧に説明し、納得感を持って全員が同じ目線を持って進めることを心がけています。

さらに、本部の担当マネージャーが各法人に専任でつき、週に数日は現地に常駐する体制をとっています。オンラインツールも活用しますが、直接顔を合わせ、現地で共に汗を流すことで初めて得られる信頼があります。この「当事者意識」を持った行動こそが、円滑な組織改革の鍵となっています。

第3章:新たな診療体制の構築と充実した福利厚生

ーー事業承継後、新しく着任された医師が活躍されている事例について教えてください。

今野:私たちが最初に承継をした秋田県のクリニックでは、後任として、内科、小児科、漢方診療を診療することのできる医師が着任しています。この地域には小児科医が少なく、高齢者が多い過疎地域であるため漢方治療のニーズも高い環境でした。前院長からの内科かかりつけ医としての機能を維持しながら、不足していた小児科や漢方という新たなアプローチを提供することで、5年目を迎えた現在も順調に運営を継続できています。併設するグループホームの運営も良好です。

もう一つは、大阪の耳鼻咽喉科のクリニックの事例です。元々は前院長がお一人で手術を含めたすべての診療を行っていました。承継後、新しい院長に加えて常勤の医師をもう1名迎え、2名体制へと拡大しました。これにより、より多くの手術を提供することを実現し、クリニックの収益も大幅に成長することができました。また、医師が複数名いることで治療内容の確認や業務分担が可能になり、医療安全の精度も向上しています。医師自身も多くの手術経験を積むことができ、オフもしっかり取れるため、待遇面も含めて理想的な働き方を実現できた事例です。

ーー医師の働きやすさを支えるための、独自の取り組みや制度についても教えてください。

今野:大きく3つの取り組みがあります。1つ目は、学位取得のサポートです。公衆衛生学修士や経営学修士をはじめ、医学博士などの専門学位を取得したいという志を持つ医師に対し、応募基準と選考基準を設けた上で法人として費用を補助する制度を始めており、実際に現在2名のメンバーが大学院で学んでいます。

2つ目は、特別休暇の整備です。クリニックの院長に就任すると、制度上は役員扱いとなり、労働基準法が定める有給休暇の適用外となります。私たちはこの点をケアするため独自の特別休暇制度を設け、役員である院長であってもお盆や年末年始、リフレッシュのための長期休暇を確実に取得できるようにしています。さらに、学会参加などにも本制度を適用しています。

3つ目は、採用時のミスマッチを防ぐための職場体験です。選考の過程で、交通費とアルバイト代を支給した上で、半日から1日程度実際の診療現場に非常勤医師の位置づけで入っていただきます。スタッフとの相性や患者層、クリニックの雰囲気を肌で感じてもらうことで、お互いに長期的な信頼関係を築けるかを確認しています。これらの仕組みにより、安心して働き続けられる環境を整えています。また今後は、全国のグループに勤務している医師たちを集めた勉強会や、各拠点の取り組みを通じて学び合うような場を作っていきたいと考えています。

こうした医師を含めた従業員や地域社会を重視した企業活動全体が評価され、2026年に国際認証であるB Corpを取得しました。B Corpは、企業の利益だけでなく、従業員・地域社会・顧客・環境・企業統治(ガバナンス)など、企業活動全体について国際的な非営利団体が審査・認証する制度です。私たちの取り組みが第三者認証という形で評価された点は嬉しく思っています。

第4章:地域医療を支え、持続可能な未来を共創する

ーー今後のグループ展開について、拠点数や売上といった目標はどのように設定されていますか。

今野:実は、数値目標は細かには設定していません。私たちのビジョンは「日本のどんな地域であっても、そこに住む人々が幸せに暮らし続けられること」であり、そのためには地域の医療と福祉を持続可能なものにすることが最優先かつ最重要なテーマです。極論を言えば全国すべての施設が検討の対象となりますが、私たちが直接引き受けるのには限界があります。数値を追うのではなく、掲げた理想にどれだけ近づけるかが本質的なのです。

上田:私たちが担うことで地域医療が守られるのであれば、その先の形は柔軟に変えられます。実際に経営を改善した後、元の医師や第三者にオーナーシップをお譲りしたケースもあります。弊社にとっては収益が減ることになりますが、その地域にとって最適解であればそうした選択も迷わず実行します。もちろん株式会社である以上は成長をすること自体は望ましいですが、一方で無理に法人を増やしたり、収益至上主義での活動をしたりすることはなく、私たちが確実に地域医療を良くできると確信を持てる場所においてのみ、事業承継を行っています。

ーー事業の成長にあたり、上場についてはどのようにお考えでしょうか。

上田:スケールの大きな地域医療の課題を解決していく上で、上場は選択肢の一つです。上場企業としての認知度や信用力は、医療法人の皆様に安心感を提供するための大きな武器になります。より多くの地域医療を救うための手段として見据えてはいますが、「いつまでに必ずやる」と目標化しているわけではありません。上場を目指すことで現場の医療に悪影響が出るのであれば本末転倒です。各法人の状況に合わせて、誠実な意思決定をしていきます。

ーー最後に、これから共に働く「仲間」に向けてメッセージをお願いします。

今野:経営環境が厳しさを増す中でも、「目の前の患者さんのために質の高い医療を提供したい」という強い熱意を持つ医師の方々に、ぜひ来ていただきたいです。現在私は京都大学医学部附属病院での臨床活動に加えて、Johns Hopkins大学公衆衛生大学院で研究活動も行っており、私たちが介入することで現場のスタッフたちや組織の状態が、あるいは患者さんの健康データや検診などの受療率がどのように変化したのかを客観的なデータとして発信しようとしています。その知見を社会のさまざまなステークホルダーと共有することで、我々だけでは起こせない変化を社会全体として起こしていくコレクティブ・インパクトを創出したいと考えています。

上田:医師の方にも担当マネージャーの方にも共通して期待することは、地域医療への強い関心と熱量です。担当マネージャーには、圧倒的な当事者意識を持って現場に寄り添い、共に汗をかける姿勢を求めています。専門スキルは後から必ずついてきます。地域医療の未来を一緒に創造していく、熱い思いを持った方のご参加をお待ちしています。

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〒101-0047
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