鹿児島から全国、アジアへ――果たすべき使命
「アジアで一番の女性医療のヘルスケアグループを作りたい」
こう話すのは、祖父が開設した法人を引き継ぎ、2011年から三代目の理事長として法人をリードする相良吉昭理事長です。
法人の中核である相良病院は、乳がん専門病院として全国トップクラスの実績を築き、2014年には、全国初、そして現在でも唯一の「特定領域がん診療連携拠点病院」に認定されました。2019年の初発乳がん手術件数は755件です。
「乳がんという一つのがんであっても、患者数や手術数といった数だけではなく、一人ひとりの患者さんに深くかかわり、乳がん患者さんに必要な幅広い医療を提供してきたことが認められた結果と受け止めています」と、相良理事長。
さらに2016年には、医療の質向上と経営の安定化を目的に、乳腺治療を専門とする病医院をネットワーク化し、「さがらウィメンズヘルスケアグループ」を立ち上げました。アジア展開もめざす同グループでは、その第一弾として2022年初旬に中国の大連市に相良耘泰大連医院をオープンする予定です。鹿児島から全国、そしてアジアへと展開していく理由について、相良理事長は次のように語ります。
「これ以上グループを大きくしていこうという考えはなく、目指すのは、職員が相良で働いていることに誇りを持てること。そしてなにより患者様のための医療に注力できる環境をつくることです。そのためにはブランディングと安定した経営が必要。限られた予算のなかでそうした環境を整えるのが理事長である私の役割と考えています」(理事長・相良吉昭先生)
最善の医療を届けるための機能強化とエビデンスづくり
2020年7月、3施設を統合した新病院としてグランドオープンした相良病院。「乳がん専門病院として、検診から緩和まで必要な機能を整えてきました」と、病院長の相良安昭先生が語るように、乳腺科だけではなく婦人科や甲状腺科、女性内科、歯科口腔外科など、乳がん患者さんの治療に必要な機能が集結しました。また、緩和ケアについては、早期から介入することに加え、「鹿児島県内では緩和ケアを行う医療機関が少ない」(相良院長)ため、乳がんに限らず、すべてのがんの患者さんを受け入れています。
一人ひとりの患者さんに必要な最善の医療を提供するための労は厭わない姿勢を貫く相良院長が加えて大切にしているのが、新しいエビデンスを作ること。
「乳房をきれいに温存する手術方法や合併症を防ぐ手術方法、薬物の治験など、さまざまな臨床研究を行っています。乳がんや緩和ケアの分野に特化しつつ、大学病院や国立がん研究センターと同じように研究活動を推進しています。それは、全国でもトップクラスの症例数があるからこそできることであり、やるべきことと自負しています」(院長・相良安昭先生)
「患者さん中心」をチームで叶える
「共に在り、共に歩む」を理念に掲げる同院。大学病院から転職した婦人科部長の城田京子先生は、「患者さんのために提案したことに対して『No』と言われない」ことは、働くうえでの大きな魅力だと言います。
「縁あって相良病院で働くことになったとき、婦人科医である私が乳がん専門病院で働くことの意味を次の三つと考え、提案しました。一つはホルモン療法です。乳がんの患者さんは術後のホルモン療法が長いものの、意外にも乳腺科と婦人科が継続的に連携して診るケースは多くありません。ホルモン療法中の患者さんが安心できる、婦人科診療体制をつくりたいと考えました。二つ目は、がん患者さんの妊孕性温存の問題。地域差があり、鹿児島は遅れているほうでしたので、院内だけではなく、県内に働きかける必要性を感じました。三つ目は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の方に対するリスク低減手術です。
最初の頃にこの三つをやりたいと話したところ、まだ妊孕性温存治療に国が経済的支援をする前、遺伝性乳がん卵巣がん症候群のリスク低減手術が保険適用される前でしたが、理事長も院長も『いいよ』と言ってくれました。患者さんのためになることであれば『No』とは言われず、むしろ背中を押してもらえるので、とても気持ちよく働けています」(城田京子先生)
こうした患者さん中心の医療を大切にする風土は、週3回行われるキャンサーボードにも顕著に表れています。各診療科の医師が最新の知見を持ち寄り共有することはもちろん、看護師、薬剤師、放射線技師、ソーシャルワーカーなど多職種が集まり、それぞれの視点で気づきを共有する場であるキャンサーボード。ブレストセンター長の寺岡恵先生は次のように話します。
「キャンサーボードでは一人ひとりの患者さんの課題が挙げられ、病状だけではなく社会環境や家庭環境なども考慮した上で、ベストな選択肢を多職種で話し合っています。医師だけでは気づけない部分を他の職種の方たちがフォローしてくれるので、私たちも安心して診療ができ、とてもありがたいですね」(寺岡恵先生)
また、普段の診療においても、外来診療時は一人の患者に対して一人の同じ看護師が受付から診察中まで付き添いコミュニケーションのフォローをしたり、なおかつ、手術前後や再発時など大事な場面では、なるべく同じ看護師がつくようにしているなど、医師だけでなく多職種を含めた病院全体で「患者さん中心」を実践しているそうです。
最先端の医療機器導入で医師・患者双方にメリットを
相良病院では、医療情報やがん治療中の生活の工夫を学べる「患者さんのための乳がん講座」を定期的に行っています。そのなかで放射線治療についての講座を月1回担当しているのが、放射線治療センターの仙波明子先生です。
「講座と謳ってはいますが、患者さんからの質問にお答えする時間にしています。というのも、放射線治療は患者さんにとってわかりにくいところがある一方で、日常診療では一般的な説明しかできず、十分ではないように感じることがありました。私自身、患者さんがどんなことに悩み、不安を感じているのかを知りたいと思っていましたので、いろいろなお話を伺い、日々の診療にいかしています」(仙波明子先生)
放射線治療を行うのは、本院の斜め向かいにある、さがらパース通りクリニックです。放射線治療のリーディングカンパニーであるバリアンと業務提携し、画像誘導放射線治療と高精度放射線治療を同時に行える「VitalBeam」「Halcyon」という2台の放射線外照射治療装置(リニアック)を導入しています。
「当院では乳がんの患者さんに対する放射線治療と、緩和ケアとしての放射線治療を中心に行っています。最新の装置によってより精度の高い治療を短時間で行えますので、私たちにとっても患者さんにとってもメリットが大きいと感じています。興味のある先生は、ぜひ見学にいらしてください」(仙波明子先生)
また本院の相良病院は、Siemens Healthineersとパートナーシップ協定を結び、女性医療領域でアジアで唯一の「グローバルリファレンスサイト」に認定されました。MR-PETをはじめとした同社の検査機器を導入し、最新の医療機器のショールームとなっています。
理念の追求と働きやすさを両立
このように、乳がんの専門病院としての使命を果たすべく進化を続ける同院ですが、働きやすさにも定評があります。「いざというときも、お互いにフォローし合える環境がある」と話すのは、5歳のお子さんの育児と仕事を両立している寺岡先生です。
「当院は完全主治医制ではなく、カンファレンスで方針を決め、常に他の医師やコメディカルみんなで対応できる体制をとっています。子どもが小さい頃には急に熱が出てお迎えに行くこともがありましたが、そんなときでも安心して周囲に患者さんの対応をお任せすることができたのは、とてもありがたかったですね。男性で育休をとっている医師もいますよ」(寺岡恵先生)
また、患者数は多いものの、事務業務についてはメディカルクラークがサポートしてくれるため、医師は診察や治療に専念できる環境です。加えて新幹線通勤が可能なことから、鹿児島県内のみならず、福岡から通勤している医師もいます。
医師の自己実現を全力サポート
働きやすい環境も整えながら、乳がん医療を牽引してきた相良病院。さらなる医療の質向上に向けて、より多くの医師の力を必要としています。相良院長は、「その方その方の、医師としての希望が叶う機会を提供したい」と話します。
「当院は、目の前の患者さんのための医療と、臨床研究などによって日本全体の医療の質向上の両方に貢献できる病院です。また、当院に勤めながら大学院やがんセンターで研鑽を積んでいる医師もいます。さらに、『がん医療のへき地をなくす』との想いから、与論島や徳之島などで乳腺外来も行っていますので、希望されれば自然豊かな島の医療に携わることもできます。その方のやりたいことをできるよう全力でサポートしたいと思いますので、ぜひ一緒に働きましょう」(院長・相良安昭先生)