なぜ滋賀県では研修医、専攻医が増えているのか?

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なぜ滋賀県では研修医、専攻医が増えているのか?

取材時期 : 2023年6月

全国で少子高齢化が進むなか、15歳未満の人口の割合が沖縄に次いで全国で2番目に多いのが、滋賀県です(「令和2年国勢調査」より)。大阪や京都へのアクセスが良く、特に、JR東海道線の通る大津市、草津市、守山市などを中心に子育て世代からの人気が高まっています。

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滋賀県人口増減率のグラフ

出典:滋賀県ホームページ https://www.pref.shiga.lg.jp/kensei/tokei/jinkou/maitsuki/ より


そんな滋賀県は、医師にとっても魅力が多く、実は研修医、専攻医からの人気も高まっているのです。

マッチ率と県内定着率の推移

以前は年75名前後であった研修医数は、2016年以降は年100名を超えるようになり、2022年には年124名に。専攻医数も、2018年以降、顕著に増え、75名前後だったのが100名規模になっています。

県内出身者だけではなく、県外出身の医師からも選ばれる、滋賀の魅力とは――。そのヒントは「バランスの良さ」にあるようです。

患者さんの「ありがとう」も、世界への発信も

県内唯一の医科大学である滋賀医科大学の医師臨床教育センターの副センター長を務める佐藤知実先生は、横浜にある病院でも勤務した経験を踏まえ、滋賀の良さを次のように語ります。

「患者さんが総じて穏やかで、ストレートに『ありがとう』と言ってくれる方が多いです。市中病院とクリニック、大学病院の垣根が低く、アクセスも良いので医大に症例が集まりやすいだけでなく、どの科の医師も『滋賀県の患者さんは滋賀医大が責任をもって診る』という意識が根付いており、お互いに専門外の部分も補い合っているところは、病院の数が限られている地方ならではではないでしょうか。
一方で、働き方改革にも積極的で、例えば私の専門の小児科では当直明けに帰れることはもちろん、子育て中の女性医師は当直が免除になる、カンファレンスは日中に行うなどの取り組みを行っています」

佐藤知実先生


滋賀医科大学 小児科/医師臨床教育センター 副センター長
滋賀県出身。滋賀医科大学卒。
医学生時代から小児リウマチ医を志し、一般小児科を学んだ後、小児リウマチの患者が多く集まる横浜市立大学に1年半、国内留学。滋賀医大に戻ってきた2014年に小児リウマチ外来を開設した。

佐藤知実先生

こうした地方ならではの良さに加えて「世界とのつながりもある」と話すのは、滋賀医科大学医学部附属病院の脳神経内科で専門研修中の中村竜太郎先生です。

「私が所属している脳神経内科の教授はALS診療において世界でもパイオニア的存在で、年間20人もの新規のALS患者さんが来られます。そういう特色がどの科にもあり、世界に通じている一方で、カンファレンスでは『一人ひとりの患者さんのために何ができるか』を真剣に話し合い、その熱量は高い。また、私もALSの臨床研究を行い、国際学会で発表もしました。目の前の患者さんと真摯に向き合いながら、世界にも目を向けられ、研究面でのやりがいもあるという、いろいろなやりがいを得られるのが滋賀医大の良さだと思います」

中村竜太郎先生


滋賀医科大学 脳神経内科専攻医4年目
愛媛県出身、10歳から滋賀県に。滋賀医科大学卒。同大にて初期研修。
サッカーをやっていたことから整形外科に興味を持っていたが、脳神経内科での初期研修で、教授がALSについての研究成果を世界に発表している姿に憧れ、脳神経内科に。

中村竜太郎先生

スキルと希望に合わせてやりたい研修を積める

市立大津市民病院で臨床研修を受け、「残らない理由はない」と同院の消化器内科で専門研修に入った大井舜也先生は「やりたいことをやらせてもらえる環境」と説明します。


「気のいい先生が多く、やりたいことを伝えると、やらせてくれる度量の大きさがあります。今は朝9時から昼休憩を挟んで夕方4時頃まで内視鏡室にいて、介助だけではなく大腸の検査や簡単な処置なども担当させてもらっています。一人ひとりの理解度やスキルに合わせて担当を任せてもらえるので、充実感があります。
連携施設での研修も自由で、先方がOKであれば基本的には希望が通ります。逆に、県外も含めて別の病院から呼吸器内科や糖尿病内科などに研修に来ている先生もいて、専攻医はみな同じ部屋にいるので、お互いに情報交換や相談もできる環境です。
京都や大阪だとシーリングを気にしないといけない診療科もあると思いますが、滋賀は、京都や大阪へのアクセスの良さから、同エリアでの研修も可能な一方で、シーリング枠はないので、関西をお考えであれば、候補として考えてみてはいかがでしょうか」

大井舜也先生


市立大津市民病院 消化器内科 専攻医1年目
滋賀県出身。滋賀医科大学卒。市立大津市民病院にて初期研修。
他学部を卒業した後、「直接的に人の役に立つ仕事がしたい」と医学部に入り直し、現在は市立大津市民病院の消化器内科で内視鏡の手技を磨き中。

大井舜也先生

地域の中核病院としての責任感とアットホームな雰囲気

腎臓内科の専門医である井田智治先生は、京都府立医科大学を卒業後、近江八幡市立総合医療センターで初期研修を受けた後、母校の府立医科大の腎臓内科の医局に入局。ただ、専門研修は自身の希望で近江八幡市立総合医療センターの腎臓内科で受け、その後、大学院での4年間の研究活動などを経て、この4月、また近江八幡市立総合医療センターに戻ってきました。

滋賀県内の病院は、滋賀医大出身者だけではなく、府立医大や京大出身者なども多く、一つの大学だけが強すぎないところも働きやすさにつながっているのかもしれません。  
なお、京都と滋賀の両地域での勤務を経験した井田先生は、滋賀の良さを「程よい規模感」と話します。

「当院は407床でものすごく大きいわけではありませんが、東近江医療圏の中核病院であり、広範囲から救急を受け入れているので、いろいろな症例・患者さんが集まります。京都であれば、市内だけでも大病院が複数ありますが、当院のある滋賀県東部の場合、医療圏に中核病院は一つというところも多く、私の専門である腎臓内科を診られる病院は限られています。だからこそ、より責任感を持って仕事ができています。  
また、当院は医局も一つなので、他科の先生とも顔見知りになりやすく、病院全体がフレンドリーなところも、程よいサイズ感でいいなと感じています」

井田智治先生


近江八幡市立総合医療センター 腎臓内科 副部長
滋賀県出身。京都府立医科大学卒。近江八幡市立総合医療センターにて初期研修。
3年間の専門研修後に進んだ大学院では、高血圧に関する臨床研究と、心不全と腎不全の関連についての基礎研究を。現在は、研修医全体の相談役を担当し、一人ひとりの様子を見て、時期に応じた指導を大切にしている。

井田智治先生

自然が豊かで教育環境も良い、プライベートの満足度も高い

程よい規模感やバランスの良さは、プライベートにおいても魅力となっているそうです。


井田先生

「私自身は滋賀が地元ですが、地元ではない先生、府立医大や滋賀医大以外の先生もたくさん滋賀に来ています。滋賀で研修や生活をするうちにすっかり気に入ってそのまま残った先生や、一旦は京都の大学に戻ってもまた滋賀に戻ってくる先生も多いです。京都へのアクセスも良く、よそから来た人も受け入れやすい県民性でもあるので、住みやすいことは間違いないと思います」


中村先生

「週末に京都や大阪に遊びに行くことも容易ですし、金曜日の勤務後に京都に飲みに行くこともできます。その一方で平日は静かな環境で体を休めることができます。車はあった方がいいですが、道はそんなに込まないので運転もしやすいですよ」


佐藤先生

「保育園は都会に比べれば入りやすいですし、自然も豊かな一方で、ナガシマスパーランドやUSJにも車で1時間ほど。塾も増えていて、子どもの教育環境にも困りません。『京都の高校にも通いやすい』と、東京から来てそのまま滋賀に残った女医さんもいました。それから、滋賀では30代で一軒家を建てる先生が多く、そのことも他県の先生方から驚かれますね」

若手医師同士の横のつながりをバックアップ

地域で一体となって医師の成長を支援していることも、滋賀県の特徴です。滋賀県病院協会には、14施設ある臨床研修病院も含め、県内の全病院が加盟しています。そして、その病院協会主催で、若手医師向けのさまざまな取り組みを行っています。
三木恒治会長は具体例として、指導医を育成する「指導医講習会」、専攻医も含めた若手医師向けの「研修医および若手医師のためのフォーラム」、医学生に県内での臨床研修について知ってもらう「地域医療フォーラム」を挙げて、県の取り組みについて話します。

「『指導医講習会』は、自分たちの手で若手医師のための指導医を増やそうとの考えから、厚労省が開催する通例のものとは別に、病院協会でカリキュラムを作り、年1回開催しています。毎年各病院から医師30名ほどの参加があり、横のつながりをつくる機会にもなっています。『研修医および若手医師のためのフォーラム』は県の協賛も得て開催しており、研修医が専攻医に質問をしたり、専攻医同士で悩みを共有したり、和気あいあいとした雰囲気で行っています。

また、『地域医療フォーラム』は、医学生の皆さんに臨床研修について知ってもらうために開催しているものです。県内の現役研修医や指導医と直に話をすることで、臨床研修に関する疑問や不安を払しょくしてほしいと考えています。
いずれも、たくさんの研修医に滋賀県に来てもらい、専攻医以降の医師人生も滋賀県で過ごしてもらいたいとの考えで行っているものです。若いときが自分の医療の質を高める最大のチャンスです。ぜひ若手が主役になれる滋賀県で楽しく真剣に働いていきましょう」

三木恒治先生


滋賀県病院協会 会長/済生会滋賀県病院 院長
大阪府出身。大阪大学医学部卒。専門は泌尿器。
院長を務める済生会滋賀県病院は、働き方改革にも積極的で、医師を確保するとともに、時間外労働が月80時間を超えないよう勤務環境向上に取り組んでいる。

三木恒治先生

どんな希望も実現できる環境がある

最後に、これから専門研修先を考える先生方に向けて、中村先生と佐藤先生からメッセージをいただきました。

中村竜太郎先生(左)・佐藤知実先生(右)
中村竜太郎先生(左)・佐藤知実先生(右)

中村竜太郎先生(左)・佐藤知実先生(右)

中村先生

「医師数が多すぎず少なすぎず、適度な負荷で勉強をさせていただいています。ALSの患者さんに何もできない無力感が積もり、臨床研究をやりたいと思ったときに行動に移すことができるのは、余力を残せておけたこと、周りの先生方もサポートしてくれたことが大きいです。目の前の実務だけで疲弊するような働き方ではないので、余暇を満喫したい方も、興味のある分野をとことん勉強したい方も、どんな方にも合う環境だと思います」


佐藤先生

「働きやすさは、一人ひとり違いますよね。『女性の働きやすさ』といっても、子どもの性格や家庭環境などによって違います。そうした状況を一人ひとりに聞いて、負担を減らすことはもちろん、やりがいをもって働けるよう配慮しています。
また、専攻医の先生方は弟や妹のような存在です。幸せに働きながら、医師としての力をしっかり身につけられるよう、みんなでサポートしていますので、安心して滋賀に来てください」

大好評だった過去のフォーラムの様子はこちら

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