原因は医師の処方薬!?―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.1

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原因は医師の処方薬!?―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.1

原因は医師の処方薬!?―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.1

時として、医師が処方した薬が患者さんの主訴の原因になることがある―こう語るのは、市立奈良病院感染制御内科・総合診療科の北和也先生。今回は北先生が、ポリファーマシー(多剤処方)の注意点について解説します。本記事は、2014年12月13日に大阪大学で開催されたセミナー「第2回大阪どまんなか~DPC-Domannaka Physical Club~」での発表内容をまとめたものです。

ポリファーマシーとは

ポリファーマシーとは

ポリファーマシーという言葉をご存じでしょうか。「ポリ」とは「複数」「多い」という意味で、ファーマシーは「薬」「処方」という意味。つまりポリファーマシーとは、「(本当は要らないかもしれないけれど)処方されているからたくさんの薬を飲んでいる状態」を指します。

では早速ですが、症例を紹介します。何が問題になっているか、ポリファーマシーの観点から探してみて下さい。

82歳男性の症例から考えるポリファーマシー

今回取り上げる患者さんは、発熱を繰り返していた82歳の男性です。妻と長男家族との5人暮らしで、ADLは自立している方です。

既往歴からも分かる通り、この患者さんはもともと複数の疾患を抱えており、C型慢性肝炎などへの処方はAクリニック、不眠症などへの処方はB心療内科で受けていました。「薬を飲むのが嫌いじゃない。むしろ好き」という方で、複数の薬を飲むのも苦ではなかったようです。

来院時の身体所見は右の通りです。では、この患者さんが来院するまでの流れをさかのぼって、何が問題だったのか考えてみましょう。

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【来院1か月前】自宅でぐったりしているところを家族が発見

最初に患者さんの異変に気づいたのは、ご家族でした。食べにくそうな仕草をしていた夕食の1時間後、自宅階段でうなだれ、ぐったりしているところを発見されたのです。患者さんはC病院に救急搬送されて肺炎疑いを言い渡され、3日間入院加療。その間、セフェム系抗菌薬セファゾリン1gを1日2回投与され、退院しました。

しかし、退院した晩に再度38.5度の発熱が見られたため、かかりつけのAクリニックを受診し、セフェム系抗菌薬セフトリアキソン1gを24時間ごとに5日間点滴静注したほか、マクロライド系抗菌薬アジスロマイシン2g内服を追加で処方されました。

そこからしばらくは、症状も落ち着いたようです。喀痰の一般細菌・抗酸菌の塗抹培養検査でも有意な菌は検出されず、発熱も認められませんでした。ただ、ご家族は「最近元気がない」「おじいちゃんも、もう年やなぁ」などと話していたそうです。

【来院9日前】いったん治まった肺炎。しかしその後も繰り返す発熱

再び症状が悪化したのは、Aクリニックを受診した2週間後でした。39度の発熱となり、今度はD病院の夜間ERを受診しました。呼吸器症状はなかったものの、左肺野の浸潤影を指摘され、ペニシリン系抗生物質アモキシシリンとクラブラン酸の配合剤を1日分処方されました。排尿困難・夜間頻尿もあったので、翌日E病院の泌尿器科を受診するように指示がありました。

患者さんは翌日には解熱し、指示通りE病院の泌尿器科を受診しました。問診と採血のみ施行され(直腸診をふくめた身体診察や検尿・画像検査はなし、診断は前立腺炎。抗菌薬レボフロキサシン500mg1日1回を7日分処方され、全て内服しました。1週間後、E病院再診時に、まだ時々熱があることを伝えると、セフェム系抗生物質セフカペンピボキシル、NSAIDsのエトドラクが7日分追加されました。また、前立腺肥大症といわれ処方を受けました。

【来院直前】繰り返す誤嚥性肺炎、嚥下機能も徐々に低下。排尿障害も出現…

その後、患者さんは自宅で様子を見ていましたが、以前よりも咳と痰が出やすくなったと感じていました。食事中時々むせることがあり、高熱も出るようになったので、改めてかかりつけAクリニックに相談。この頃には、錠剤を飲むのにもコツが必要になっており、誤嚥性肺炎も疑われる状態。Aクリニックの紹介で、患者さんはあなたの外来に受診しました。

慢性C型肝炎の既往がある、元々ADL自立した82歳男性が、1ヶ月ほどの経過で衰弱し、誤嚥性肺炎によると思われる発熱を繰り返している、という状况です。さらには排尿障害まで出現し、近医泌尿器科で前立腺炎や前立腺肥大と診断され、ただでさえ多かったこれまでの処方に加え、あらたに5種類追加されてしまいました。

果たして患者さんに何が起こったのでしょうか?来院した時点で患者さんに処方されていたのは、以下の医薬品でした。かかりつけAクリニックでの処方の多さに驚くかもしれません。

内服薬

再掲になりますが身体所見は左下の通り。Problem Listを挙げると右下のようになりました。さて、気になるポイントはありますか?ポリファーマシーの観点から一元的に説明できるような原因はありますでしょうか?

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今回のポイント

身体所見を一元的に説明するもの―それは“パーキンソニズム”です。ということで今回のポイントはズバリ、“薬剤性パーキンソニズム”です。

では、今回処方されている内服薬のうち、パーキンソニズムを引き起こす可能性がある薬剤は、どれでしょうか。1剤ずつ副作用を添付文書で調べることもできますが、パーキンソニズムをひき起こす頻度が高い薬をインターネットや文献などで調べて、今回の内服薬の中に該当薬がないか調べた方が早いかもしれません。

今回処方された内服薬のうち、パーキンソニズムを起こすことでよく知られているのは、B心療内科から抗うつ薬として処方されているスルピリドです。

スルピリドは、黒質線条体におけるD2受容体阻害作用によって、パーキンソニズムを誘発させることがあると言われています。また、抗コリン作用も認められている薬剤なので、これが排尿障害につながったのではないかと、推測することもできます。

こうした視点で見ると、「夕食時に食べにくそうなしぐさをしていた」「最近元気がなく、家族から『おじいちゃんも年だね』と言われるなど弱っている様子だった」「錠剤を飲むのにもコツが必要(嚥下機能障害)」など、患者さんの様子にも納得がいくのではないでしょうか。

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過剰な薬をどう減らす?

スルピリドの投与をやめた方が良さそうだと、大体の見当は付きました。しかし本当に、それだけで良いのでしょうか。ほかにも中断した方が良い薬はありませんか?もしあるとしたら、どんな基準や順番で中断すべきでしょうか。次回は、患者さんの処方をいかに減らすべきか、アプローチ方法を解説します。

【まとめ】 処方薬が患者さんの症状の原因となっていることがあります。患者さんが服薬中の薬剤はきちんと把握し、症状を時系列で追いながら、薬剤性の症状がないか吟味しましょう。

*掲載内容はエムスリーキャリア株式会社の見解を述べるものではございません。