多剤処方は、善か悪か―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.3

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多剤処方は、善か悪か―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.3

時として、患者さんに重篤な副作用を及ぼす可能性があるポリファーマシー(多剤処方)。しかしほとんどの場合、処方医に悪意があるわけではありません。今回は市立奈良病院感染制御内科・総合診療科の北和也先生がポリファーマシーの是非について解説します。本記事は、2014年12月13日に大阪大学で開催されたセミナー「第2回大阪どまんなか~DPC-Domannaka Physical Club~」の内容をまとめたものです。

前回 は処方の整理方法についてのお話しでした。処方の整理を円滑に行うためには、各処方医や患者、その家族とのコミュニケーションが重要であることは言うまでもありません。さらに、ポリファーマシーの要因として、処方医だけでなく、患者の要因、また様々な環境要因にも注意を払う必要があります。ポリファーマシーをみた場合、問題のある薬剤を1剤中止するだけでは根本解決にならないことが大事なポイントであるということを繰り返し強調させて頂きます。

ポリファーマシーとは

「問題のあるポリファーマシー」とは

問題のあるポリファーマシーとして、スライドで示したような指標があります。とは言え、本当に問題があるかどうかについては、個々の患者について検討が必要です。10種類以上の薬が本当に必要な患者さんも中にはいらっしゃいますし、処方数が少なくても、本来必要のない薬が処方されていれば問題があるでしょう。

複雑な病態、複数疾患に対して、エビデンスに基づき、また患者背景やセッティングに合わせ考え抜かれた末のポリファーマシーは、問題ないかもしれません。問題なのは、エビデンスに基づいていない場合、効果がないのに漫然と処方されている場合、治療によるリスクがベネフィットを上回る場合、処方のカスケードに陥っている場合などです。

不適切処方については、“STOPP Criteria”を参考にしてみると良いでしょう(Gallagher P et al. STOPP (Screening Tool of Older Person's Prescriptions) and START (Screening Tool to Alert doctors to Right Treatment). Consensus validation. : Int J Clin Pharmacol Ther. 2008 Feb;46(2):72-83.)。
これらをまとめたものについては、 こちらのページ もご覧ください。また、ここには記載されていないような日本独特の(怪しい)習慣的処方もあり、ポリファーマシーや健康被害の原因となっていることが多いです。一部抜粋してスライドに挙げます。

逆に処方すべき状況にもかかわらず処方されていない薬剤をチェックするには、“START Criteria”が参考になるので、ご一読をおすすめします。こちらについても別途まとめさせていただきましたので参考にして頂ければと思います。“STOPP Criteria”、“START Criteria”を外来の壁に貼って診療するというのも一つの方法です。

問題のあるポリファーマシーの指標

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問題のあるポリファーマシー

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日本独特の処方

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なぜ患者さんはたくさんの薬を飲むのか

冒頭でお話ししました通り、ポリファーマシーの要因としては、不適切処方などの医師要因のほか、患者の要因やそのほかの環境要因というものがあります。
患者さんの考え方や行動が、問題のあるポリファーマシーを引き起こしていることもあります。 本連載第1回(『原因は、医師の処方薬!?』) で取り上げた患者さんのように、「薬を飲んでいないと不安。むしろ薬は大好きだ」という方はとても多いです。
“診療”と言えば“処方をしてもらうことである”という誤解もあります。言わずもがな、“処方”が診療の全てではありません。“適切な説明”というのも大切な処方の1つであるという解釈もあります。どんな薬にも副作用を起こす可能性があり、“くすりはリスク”という言葉を患者さんと共有するのも大事です。偉そうに言っていますが、私も自分の勤める診療所では日々苦労の連続です。患者さんや周囲スタッフの中には「診察なんて要らないから、出来るだけ早く前回と同じ処方をして欲しい」と希望する人も実際にいるのです。
しかし、問題のある処方を継続し続けることほど無駄な診療がありますでしょうか(時間においてもコスト面においても)。また、そんな危ない診療を続けていられるわけがないでしょう(患者さんも健康を害すかもしれませんし、医療訴訟に発展するかもしれません)。時間や労力は必要になりますが、日々の患者教育、スタッフ教育、そして地域を通した勉強会を地道に行っていくことも、とても大切なことだと思います。

その他の患者要因について、解釈モデル等をふまえてスライドにしたものを挙げておきます。

不適切処方については、“STOPP Criteria”を参考にしてみると良いでしょう(Gallagher P et al. STOPP (Screening Tool of Older Person's Prescriptions) and START (Screening Tool to Alert doctors to Right Treatment). Consensus validation. : Int J Clin Pharmacol Ther. 2008 Feb;46(2):72-83.)。これらをまとめたものについては、 こちらのページ もご覧ください。また、ここには記載されていないような日本独特の(怪しい)習慣的処方もあり、ポリファーマシーや健康被害の原因となっていることが多いです。一部抜粋してスライドに挙げます。

問題のあるポリファーマシーを防ぐためには、患者さんとの信頼関係がとても大切です。薬に対して患者さんがどのような考えを持っているのか確認し、その考えについて配慮的でありたいと思うのです。

ポリファーマシーは善か悪か

こうして見ると、問題だらけのように思えるポリファーマシーですが、大半の場合、処方医に悪意はありません。神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎先生は、著書『絶対に、医者に殺されない47の心得』(講談社)の中で次のように指摘しています。

ポリファーマシーは日本の医者の悪意の反映ではありません。むしろ、善意と誠実さ、プラス、日本の医者の完璧主義の反映だと思います。

岩田先生と同じように、わたしもポリファーマシーの原因は多くの場合、「患者さんを少しでも楽にしてあげたい」という医師の善意だと思います。

ここからは完全に私見ですが、誤解を恐れずに言います。たしかにぶったまげた処方をする医師はいます。真っ当な研修を受けた研修医や学生の目から見ても明らかにおかしい処方をする医師は存在します。しかし、そこに悪意はないのです(少なくともそう信じたい)。まともな生涯教育を受け続けるシステムが今の日本には構築されていないのが問題であり、問題を個人の不勉強のみとして片付けることはできないのです。

最後に、日本老年医学会が2005年に発表した「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」について少しご紹介致します。問題のあるポリファーマシーを避ける糸口が見つかるかもしれません(スライド「ポリファーマシーを避ける方法」参照)。一旦処方したら、常にやめどきを考えること。そもそも無駄な処方はしないこと。
それだけでも、改善できる部分は大きいと思います。くれぐれも注意ですが、これは医療否定論とは全くもって異なるものであるということを繰り返しておきます。解釈を間違えたり、患者さんに誤った伝え方をしてしまったりすると非常に危険ですので、その点には細心の注意を払う必要があります。

本連載最終回の次回は、問題のあるポリファーマシーを防ぐために、医師はどうあるべきか、解説したいと思います。

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【まとめ】
ほとんどの場合、医師は善意に基づいてポリファーマシーを行っています。ポリファーマシーを他人事ととらえずに、自分が不適切な処方をしていないか、患者さんが薬剤とどう向き合っているか、振り返りましょう。

*掲載内容はエムスリーキャリア株式会社の見解を述べるものではございません。