意外に知らない 処方を“切る”テクニック―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.2

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意外に知らない 処方を“切る”テクニック ―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.2

前回 は、ポリファーマシー(多剤処方)によって、薬剤性パーキンソニズムが起こってしまった症例を取り上げました。引き続き、市立奈良病院感染制御内科・総合診療科の北和也先生が、過剰処方に介入する際のポイントを解説します。本記事は、2014年12月13日に大阪大学で開催されたセミナー「第2回大阪どまんなか~DPC-Domannaka Physical Club~」の内容をまとめたものです。

ポリファーマシーとは

「1剤切るだけ」で再発は防げない

前回 は、スルピリドが薬剤性パーキンソニズムの原因になっているのではないかと考えました。しかし、スルピリドを中断する前に、もう一度患者さんの内服薬を確認してみましょう。他にも不要な薬剤があるかもしれません。問題のあるポリファーマシーを繰り返さないためには、そもそもなぜ、こんなにもたくさんの薬が処方されてしまったのか、その背景を探ることも大切です。

特に今回は、かかりつけAクリニック、B心療内科、E病院泌尿器科という、複数の医療機関から処方されています。

それぞれの医療機関とのコミュニケーションが大切になってきます。どのように中止すべきか理論立てて考えていきましょう。

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薬剤の中止基準

以下がわたしの考える、薬剤を整理する時の基準です。

(1)優先順位の低い薬剤の中止

一気に整理出来そうな薬剤を、赤字で示しました。

まずは今回の薬剤性パーキンソニズムの原因であるスルピリドを中止する必要があります。スルピリドは食欲不振などに対し安易に出されてしまっていることが多いので注意が必要です。次に、明らかにおかしい処方を探します。このとき、薬剤をカテゴリー別に整理してみると分かりやすくなります(たとえば胃腸薬、睡眠薬などでカテゴライズしてみる)。
1つの原因に対し、複数の処方がされている場合は要注意です。時には複数の医療機関から、全く同じ薬が処方されている場合があります。患者さんがそのことを把握していない場合があり、口頭での確認のみでは不十分だと考える必要があります。薬手帳を一元管理することはとても重要なのです(他の医療機関を受診していることを主治医に知られたくない患者もおり、薬手帳を複数作成している場合もあるのでここにも注意が必要です)。

Aクリニックの処方を見ると、胃腸関連の処方が7剤も出ています(酸化マグネシウム、ニザチジン、テプレノン、ベリチーム、ジメチコン、柴胡桂枝湯、ビオフェルミン)。“日本人は胃腸が弱い”とよく言いますが、複数の胃腸薬を内服している方は本当に多いです。こんなに飲まなきゃ治らない胃腸疾患など存在するでしょうか。おそらく患者の訴えに対し、長い年月を経て“足し算の処方”をしていった結果なのでしょう。
効果がない場合にダラダラ処方を継続するのは慎むべきです。こういった処方は一気に中止できる可能性が高いでしょう。酸化マグネシウムについては便秘症が改善するまでは使用することにしました(スルピリドの効果が取れれば便秘が治るかもしれないので、それまでは様子を見ます)。

また、メキシレチン塩酸塩は不整脈のお薬ですが、処方された状況を詳しく調べると、動悸で受診した際に12誘導心電図で検出された、たった1度のPVC(心室性期外収縮)に対して処方されていました。不整脈や狭心症については、本当にそんな事実があるのかを検討する必要があります。心電図など、他院で行われた検査を積極的に取り寄せると良いでしょう。こういった微々たる労力を惜しんではなりません。

このように、単なる動悸に対して抗不整脈薬が処方されたり、非特異的な胸痛を狭心症としてアスピリンが処方されている場合がありますが、病歴から狭心症ではなさそうだからといって処方を中止するのはなかなか現実問題難しい。「脳や心臓に狭くなった血管が本当にない」と証明するのは難しく、そのために色んな検査をする、というのはあまり現実的ではありません。だからこそ、処方する時にきちんと根拠を考えて処方する必要があるのです。安易な処方は慎む必要があります。

一方、B心療内科では睡眠薬を3剤(ブロチゾラム、ニトラゼパム、エチゾラム)処方していますが、睡眠薬を多数飲んでいる場合にも注意が必要です。安易な睡眠薬の処方は転倒の原因につながります。また、不眠の原因を探る必要もあります。たとえば前立腺肥大症が原因の夜間頻尿であったりするわけで、これに対する睡眠薬処方は明らかに不適切と言えます。
また、睡眠障害のパターンを知るのも適切な処方のポイントです。しかしながら、これらを一気に切るのは難しい場合が多いです。睡眠薬へのこだわりが強い方は多いですし、患者さんは今晩の睡眠について心配されるでしょう。一度に整理すると患者さんの不安は一気に膨らみ、信頼関係も崩れかねません。3剤も飲んでいるということは、何かしら理由があるのかもしれません。無理矢理考えを押しつけずに、信頼関係を築きつつ、少しずつ、ゆっくり、1剤ずつ中止することも時には大切になってきます。“急がば回れ”の精神も大切かもしれません。

このように、現在問題になっている原因薬剤の中止、重複薬剤や複数類似薬の整理、処方の根拠が乏しい薬剤の中止、これらを行うだけでかなり整理出来ることが分かります。これに加えて、Beers criteriaおよびSTOPP(Screening Tool of Older Persons’ potentially inappropriate Prescriptions)などで不適切処方がないか確認します。これらのcriteriaについては次回説明致します。

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(2)薬剤の副作用に対する対症療法として処方されている薬剤を中止

臨床現場では、「処方のカスケード」(Prescribing Cascade)という考え方があります。これは、薬剤の副作用に対して別の処方がなされ、さらにその副作用が次の処方につながるという連鎖を指します。たとえば、降圧剤のACE阻害薬による慢性咳嗽のために、鎮咳薬を長期処方されている場合などです。この場合、鎮咳薬を処方しなくても、降圧剤を変更すれば解決するかもしれないのです。患者さんの主訴が処方薬によるものではないか、十分な注意が必要です。

今回で言うと、E病院泌尿器科で処方された薬の多くがこれにあたります。つまり、急性発症の尿閉の原因は、スルピリドの抗コリン作用にある可能性が高いため、これを中止すれば改善するだろうと考えるのです。ただし中止のタイミングには注意が必要です。
スルピリドの効果が切れる前に複数の薬を一気に中止すると、夜間に尿閉で受診しなければならなくなるかもしれません。中止・継続について分からなければ、必要に応じて泌尿器科医師と連絡を取るべきでしょう。余談ではありますが、もちろんこの泌尿器科の診療内容にも問題があります(直腸診などで前立腺肥大の有無をきちんと確認せずに一気に複数の処方をしている)。

(3)必要なものは開始する

薬剤を減らす過程で、必要な薬剤が処方されていないこともあります。なぜ全く不要な処方は沢山されているのに、肝心な処方はされていないんだろう、というのはよくあります。
そういった基本的な処方の抜け落ちがないかはSTART(screening tool to alert doctors to the right treatment)を確認してみて下さい
(Barry PJ et al. START (screening tool to alert doctors to the right treatment)--an evidence-based screening tool to detect prescribing omissions in elderly patients. : Age Ageing. 2007 Nov;36(6):632-8. Epub 2007 Sep 19. 一覧がシンプルな表になっており、無料で読めます)。
今回は、薬剤性パーキンソニズム、嚥下機能障害などの精査にあたり、頭部CTにて多数の陳旧性脳梗塞が見つかり、抗血小板薬を開始することになりました。

これらの基準で整理したところ、なんと最終的には5種類以内におさまりました。

このように処方を整理する上で大切なのは、「不要な処方を切る一方で、必要なものは新たに処方すること」です。何が何でも処方を切ればよいのではなく、最適な処方を再構築するという考え方が大切です。医師がむやみに処方を切ると、患者さんが医療否定に走る可能性もあります。やみくもな医療否定は患者さん自身の健康を損ねることにもつながるので、この点は十分なフォローが必要です。

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不要な処方をしてしまう背景は?

振り返ってみて今回の処方、皆さんはどのように思われましたか?

「不要な処方をするなんて」と批判的に見てしまう方もいるかもしれません。ただ、処方医に話を聞いてみると、ほとんどの場合、彼らに悪意があるわけではないのです。 次回は「多剤投与は善か悪か」 という視点で、この問題を見てみたいと思います。

【まとめ】 1剤切るだけでは、ポリファーマシーによって引き起こされた問題は解決しません。なぜ患者さんに「不要な処方」が生まれたのか、根本的な原因を探って、再発を防ぎましょう。

*掲載内容はエムスリーキャリア株式会社の見解を述べるものではございません。