何が違う?過剰処方する医師としない医師―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.4

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何が違う?過剰処方する医師としない医師 ―北和也先生と考えるポリファーマシーVol.4

最終回の今回は、問題のあるポリファーマシー(多剤処方)をどう防ぐかについて、市立奈良病院感染制御内科・総合診療科の北和也先生が解説します。本記事は、2014年12月13日に大阪大学で開催されたセミナー「第2回大阪どまんなか~DPC-Domannaka Physical Club~」の内容をまとめたものです。

ポリファーマシーとは

患者さんの全体像を見て「優先順位を考えた処方」「引き算の処方」を実践する

問題のあるポリファーマシーを起こさないために、現場の医師にはどのようなことが求められるのか、考えてみたいと思います。

昨今指摘されていることでもありますが、複数疾患を抱えた高齢患者が増える中、医師には科目横断的なCommon Problemへの対応能力が求められています。

特定領域の専門性にだけ捉われると「足し算の処方」になり、よかれと思った処方の総和が、トータルとして負の働きをしてしまうことがあります。医師が「専門外だから」と患者さんをさまざまな病院に紹介した結果、こういったことを引き起こす場合もあります。“ポリドクターはポリファーマシーを産み出す”のです。“部分”にとらわれすぎず“全体像”を把握し、最大公約数的に最善と思われる処方を組み立てるのが望ましい。既にポリファーマシーに陥っている場合は「引き算の処方」を駆使する必要があります。

こういった作業を可能にするのが、全体像を俯瞰する総合診療医的な視点だと思います。これは総合診療医だけでなく、患者にとっての“指揮者”になる可能性のある専門医も持っておきたいジェネラルマインドです。
とはいえ、個人の守備範囲には限界があるのも事実です。Common ProblemではなくRare Problem、専門性の高いProblemへの対応は個人の守備範囲のみでは不可能でしょう。自分の能力を超えた場合に専門医の知恵を適切に借りるのも、非常に重要な臨床能力です。
専門医と一緒に診る場合はかかりつけ医が“指揮者”として、専門医とうまくコミュニケーションを取り、処方が総和として増えてきた場合は、処方の優先順位を相談すると良いでしょう。

総合医の能力の限界(個人差)

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安易な「Do処方」はしない

医師は、前回と同じ処方を依頼する時、処方せんやカルテに「Do」と記すことがあります(=Do処方、「繰り返す、コピーする」と言う意味の英語”Ditto”に由来)。Vol.3でも述べましたが、忙しい中でも漫然としたDo処方を避ける努力をすることが大切です。

当たり前のことですが、早く診療できればよいわけではありません。間違えた診療を延々と続けることに、何の意味があるでしょうか。ほとんどの患者さんは、もともと健康を維持したいと思って医療機関を受診しているわけであって、「何が何でも薬が欲しい」と通院し始めたわけではないでしょう。にもかかわらず、流れ作業的なやっつけ外来を繰り返すうちに、Do処方外来が生まれてしまうことがあるのです。それでは本末転倒です。薬はラムネではありません。病院は駄菓子屋ではないのです。

そうはいっても、日常の外来診療では次々に押し寄せる患者の波にのまれ、時間がないということもあるでしょう。私もそう思うときはあります。では、どういった工夫をすれば良いでしょうか。

たとえば、患者さんについて予習しておくのも1つです。外来とは別の時間を設けて、患者さんと腰を据えて話したり、処方医と連絡をとって処方整理について相談したりするのも良いでしょう。特にポリファーマシーはこのように、じっくり時間をかけたアプローチが有効なケースが多いのです。
もし一気に薬剤を中止してしまうと患者さんの不安をあおり、信頼関係が崩れてしまうこともあるので、焦らず慎重に進める必要があります。我々にとってのキードラッグと、患者さんにとってのキードラッグは、一致しないことも多いですし、患者さんの気持ちをくんだ緩やかな整理も時には大事です。少なくともこういった概念が一般的になるまでは、理解を得ながらゆっくり解決していくのが得策かと思います。かといって、「実は日頃から処方を多いと感じていた」と患者さんに言われたら、ここぞとばかりにズバズバっと一気に切ることもあるのですが(笑)

話をDo処方に戻します。日頃からプロブレムリストや処方内容を確認し、本当にDo処方でよいのか、しっかりと吟味する癖を持ちましょう。診断名やプロブレムリストのないカルテには、不適切処方がまぎれている場合があります。何に対して出されているかわからない薬があればきちんと把握しておきましょう。医師は処方すれば何かしてあげている気になりがちです。
しかし、医療というのはそんなことでは決してないのです。そういったことを繰り返すと、その地域の患者さんたちに、「医療といえば検査と処方」という悪しき習慣を刷り込んでしまいます。また、定期薬を処方し続けるのみで一切体に触れないという診療を続けている診療所がいまだに存在する、というのも耳にします。そういったことが非常に危険で意味のないことだと、すべての医師に加え、患者さんにも知って欲しいです。
「10年以上も同じ降圧剤を飲んでいたが、家庭血圧の測定を指導したら、今は高血圧でも何でもないことがわかった」「いつものSU剤を内服し続けているが、よくよく聞くと低血糖症状を繰り返している」という事態があったとしても、患者さんは「いつもの薬!」とDo処方を希望することがあるのです。こんな人たちへのDo処方を、あなたはできますか?繰り返しますが、処方をすることだけが医療ではないのです。

問題のあるポリファーマシーには気づいたけれど…処方医との良好な連携方法とは?

他院から紹介された患者さんに過剰投与の疑いがあった時、処方中断して良いものかどうか判断に困ることがあると思います。医学的な問題だけではなく、医療機関同士のモラルの問題もはらんでしまっているからです。

問題のある処方を見つけたとしても、患者さんの前で処方医・前医を避難することは禁忌です。「この処方、まじでヤバい!」と思うこともあるかもしれません。全うに勉強し、正義感まで持ち合わせている研修医が声に出して言ってしまう気持ちもよく分かります。
私も喉元まで出掛ることが日常茶飯事です。しかし、それは言ってはいけないのです。ポリファーマシーの危険性を説明するために、現在の内服内容を非難するのは、患者さんにとってもショックなのです。「何年も飲んでいたあの薬が危険な薬?」「じゃあ、これまでの通院にかけたお金や時間って一体…」と、とても不安になるでしょう。
診療行為は自分が腕利きだと知らしめるために行っているのではないのです。処方医との関係性もむやみに崩す必要もありません。話せば分かる医師がほとんどですので、コミュニケーションを適切に取って最適処方について相談していけば良いでしょう。こういったことも含めて患者さんにとって最大公約数的な幸せに貢献出来ればと思うのです。ただ、絶対まずい薬だけは、なんとかやめてもらうように(穏便に)話を持っていくこともあります。

ベンゾジアゼピン過剰投与などで意識障害に陥っているなど、明らかな問題処方が原因の入院を契機に一気に処方を中止する必要がある場合は、すべて解決した後に事後報告で済ませることも多いです。しかし、「そこまで害になっていない可能性はあるが、それにしてもこの処方は不要だし、ちょっと整理した方が良いのでは」というレベルのものは、紹介元の医療機関とできるだけマメにコミュニケーションを取るようにしています。
複数内科疾患をさまざまな医療機関で診られているがためにポリファーマシーに陥っている場合は、患者さんにできるだけ医療機関を一元化するよう勧めるようにしています。自分の施設に来なさいと勧めるわけではなく、患者さんに選んでもらうようにします。しかし、患者さんの中には医師に気を遣って本音を言えず、複数医療機関を受診し続ける方もいらっしゃいます。確かに、個々の医師のスキルへの自負、ジェネラリズムをないがしろにすることもできず、難しい問題だとも常々考えます。

まとめにもなりますが、処方医と気兼ねなく連携が取れるように、周囲の医療機関とは日常的にコミュニケーションを取っておくことが重要です。地域の勉強会に参加して交流を深めたり、懇親会でお酒を飲みながらざっくばらんに話してみるのも良いかもしれません。地域医療を良くするには、孤軍奮闘ではなく周囲と協力しながら地域全体を面で支えていく必要があるのだろうと思います。

薬剤師との連携を

薬剤師の中には、処方に違和感があったとしても、医師に疑義紹介しづらいという人もいます。その背景には、話をきちんと聞いてくれない医師がいたり、医師に意見しづらいという心理的な理由もあったりするようですが、そもそも調剤薬局ではカルテが見られず、病名も分からないので、処方の経緯がよく分からないという問題もあります。

たとえポリファーマシーについて問題意識を持っていたとしても、適切な介入ができず、歯がゆい思いをしている薬剤師も多いのです。そういった背景を踏まえ、医師の立場から薬剤師と積極的に連携することが大切です。薬剤師だけでなく、地域で奮闘する他職種の方と話をすると、「他職種、特に医師とのコミュニケーション」が業務上のネックになることが多いそうです。みんなもっと気軽に相談できる環境を望んでいるのです。

問題のあるポリファーマシーを防ぐために

いかがでしたか?多忙な臨床現場に立つと、ポリファーマシーについて、突き詰めて考える機会は少ないかもしれません。わたし自身、この問題について真剣に考えるようになったのは、2年前に徳田安春先生のコンソーシアムに参加したのがきっかけでした。この問題をもっと勉強したいという方はぜひ、徳田先生らが編集された『提言―日本のポリファーマシー』(尾島医学教育研究所)などをお読みいただければと思います。

本連載第3回(『多剤処方は、善か悪か』) で説明したように、ほとんどの医師は、悪意なくポリファーマシーをつくりあげてしまっています。裏を返せば、医師なら誰しも、自らの処方によって患者さんを苦しめてしまう可能性があるのです。医師のささやかな惰性が積み重なって、患者さんの健康を害しているのであれば、元も子もありません。

「くすりはリスク」という言葉があります。特に薬好きの患者さんや安易に処方する医師は、薬のリスクについて考えていない人が多いと思います。処方の際は常にリスクとベネフィットをてんびんにかける必要があります。この「くすりはリスク」という言葉は、とてもキャッチーで伝わりやすい言葉だと思うので、患者さんに是非とも教えてあげて下さい。薬のリスクに対して医療者と患者さんとで共通認識を持つことが大切です。また繰り返しますが、医療否定と混同するような患者さんが増えないように、日頃からくれぐれもご注意下さい。

医療業界としてポリファーマシーによる問題を解決するための私案の一部は、スライドに記した通りです。夢のある案ではないでしょうか(笑)。しかし、ポリファーマシーに対する問題意識は、医師・患者ともまだまだ低いのが現状です。皆さんもぜひ、この問題について周りの人と話しあってみてください。楽しく解決する方法がたくさん見つかるはずです!そして実行できるところから変えていきましょう!

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【まとめ】
ポリファーマシーによる問題を防ぐのに必要なのは、ジェネラリストの視点。他医療機関の医師や他職種、そして患者さんを巻き込んで、この問題に取り組んでいくことが求められています。

*掲載内容はエムスリーキャリア株式会社の見解を述べるものではございません。