訴訟リスクを下げるには基礎を学べ【救急科の魅力とキャリア Vol.2】

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訴訟リスクを下げるには基礎を学べ

0.2-0.7%の「一見軽症、実は重症」を見つける

元気そうに歩いて来院する「一見軽そうだけど、実は重症」な患者の割合は0.2-0.7%です。これを見つけ出すには基礎をしっかり押さえて、ジェネラルに診るスキルを鍛えないと無理です。そしてこの鍛錬をおろそかにすると、将来、重大な疾患を見逃して訴訟になる可能性だってあります。

有名な判例を紹介します。2次救急病院に搬送された外傷患者が、当直中の脳外科医の元で亡くなりました。その後、心エコーを実施しなかったために心タンポナーデを見逃したと、遺族に訴えられて負けています。判決は、当直していて専門科以外の患者が来ても、2次救急病院に求められる医療水準で診療するか、それができるほかの医師を呼ばなくてはならないという結論でした。

しかし実情は、救急当直を内科系1人、外科系1人で回している地域の基幹病院も多いです。内科“系”ということは、皮膚科も放射線科も内科系と解釈しての当直なのです。外科系なら、眼科でも外科を全部診ないといけないのです。

つまり、初期研修医は単なる蘇生術を学ぶだけでは足りなくて、どの診療科へ進むかに関係なく、基礎を押さえて、スタンダードな救急をできるようになっておく必要があるのです。

見逃しやすい疾患はとにかく暗記

見逃しやすい疾患は暗記してください。患者さんが頭痛と言ったら、クモ膜下出血(SAH)、髄膜炎に気を付けてください。胸痛なら心筋梗塞、大動脈解離、肺梗塞。腹痛は、虫垂炎、異所性妊娠、腹部大動脈瘤(AAA)、腸重積。一通り診て該当しなければ、すべて除外診断したことをカルテに書かなければいけません。これを初期研修中に完璧にできるようにしてください。

見逃しやすい疾患 見逃しやすい疾患

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日本の救急医はアメリカの10分の1

ここで、救急科の現状を国際比較してみましょう。アメリカと日本の人口は3.2億人と1.3億人で10:4です。一方、救急医はアメリカが3万人、日本が3,000人で10:1。しかも、日本でICU専属ではなく、北米型のウォークインを診るER型救急医は、後期研修医を含めて800人です。3万人と800人では同じ質の医療を提供できません。

それでは、日本の救急を支えるのは誰でしょうか。そうです、あなた達、若手の医師と地域の当直医です。ですから、僕は救急医ではなく、若手の皆さんに期待しています。

基礎の全てをたった2年間の初期研修で押さえるのは無理です。一度に全部できるようになろうとするのでなく、まずは基礎の学び方を押さえてください。そして、「一見軽そうだけど、実は重症」な患者を見つけ出すスキルを身に付けていきましょう。そのためには軽症を飽きるほど診てください。

次回は、基礎を学ぶに当たって、どのような心構えや注意が必要かを具体的に説明します。