「救急はきつい」はウソ!? 林寛之先生が教える救急の魅力【救急科の魅力とキャリア Vol.1】

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「救急はきつい」はウソ!? 林寛之先生が教える救急の魅力

「ICUまで診なければ、良い麻酔科医は育たない」

 すべての研修医・医学生にとって共通の悩みである「専門科選択」、第一線で活躍している先輩医師はどのように選択したのか―。そんな疑問に応えるべく、ベストセラー『研修医当直御法度』の著者でおなじみの林寛之先生(福井大学医学部附属病院 総合診療部 教授)が、自身のキャリアと救急科の魅力を紹介します。<

*この内容は、2014年12月に行われたセミナー「レジデント これだけ知っとけ キャリアと臨床推論 ~救急科編~」の講演内容を編集・一部改変したものです。

最初はブラックジャックが目標だった

 僕が医師を目指したのは、ブラックジャックになりたかったからです。外科医として神がかった手術ができて、内科的なこともできる。そんなブラックジャックに憧れていた僕は、当初外科医を目指していました。ところが、臨床に携わるうちに救急の魅力を知り、救急科医の道を進むことになったのです。

 僕は自治医科大学出身ですから、県立病院で研修した後、へき地の織田病院(福井県丹生郡越前町)に赴任しました。そこで副院長になりましたが、医師は内科医の院長と僕の2人だけ。つまり僕は副院長兼ヒラで、一人外科医。そんな状況で3日に1回は救急車が来ていました。

 たとえば、猪除けの電線でけがをして血を噴き出している外傷患者が運び込まれてくると、院長先生から「外科だから林先生お願いします。」と任されるのです。まだ医師3年目ですが、上級医はいません。すべて自分で判断して対処します。輸血用の血液が足りなければ知り合いの森林組合のおじさんに献血をお願いしたり、血液が集まったら僕一人で血液の採取や検査をやったり…といった具合です。そんな苦労の末に、患者さんが無事助かる。これは嬉しいですよ。こういうことを繰り返して、救急の面白みに味をしめていきました。

 そして救急の勉強をきちんとしたいと思うようになり、研修医時代の上司・寺澤秀一先生(現・福井大学地域医療推進講座教授)に相談しました。すると、北米型ERを実践しているトロント総合病院(カナダ オンタリオ州)で救急医療のスタンダードを学ぶようにアドバイスされて、臨床留学することにしました。こう言うと一見かっこいいのですが、妻のカナダ留学が先に決まっていて慌てて僕も留学することにした、という背景もあります。

救急科の魅力とは

 北米型ERの医師は、救急患者の初期診療に特化した専門医です。入院患者や重症患者を他科の専門医へと引き継ぐ、「病院のゲートキーパー」として働きます。

 病院の主役は、患者さんと病棟主治医です。彼らの治療活動がうまくいくようにお膳立てできるかが、ER救急医にとって大事なのです。

 救急に携わって25年以上経ちますが、この仕事の良さは大きく2つあると思っています。一つは、軽症から重症まで扱うので、飽きずにずっと取り組めることです。さらに、オンオフが明確で休みが取れる。よく「救急はきつい」と言われますが、実際は違います。業務を短い期間に固めて、他の期間で休みを取ることも可能です。海外のリゾート地で遊んでいる医師を見つけると、大体が救急医です。福井大の救急医も年に1、2回は海外に行っていますね。

 次回は、日本の救急科の現状と課題をご紹介します。実は、救急科以外に進む医師にとっても他人事ではないテーマです。