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東京都全域の健康を守る!公衆衛生医師のやりがいと社会的意義

取材日:2022年3月28日(エムスリーキャリア編集部)

東京都_KV

 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の流行によって注目を集めた公衆衛生。東京都には都庁や保健所に約100人の公衆衛生医師が在籍し、医師としての知見を生かしながら社会的課題の解決に貢献しています。COVID-19の対策を含め数々の難題と向き合うだけに困難な面もありますが、やりがいも社会的意義も大きい領域です。しかし、詳しい業務内容についてご存じない医師も多いのではないでしょうか?そこで、実際に活躍する2人の現役の公衆衛生医師に取材しました。

「公衆衛生」の世界に飛び込んだ経緯

 公衆衛生医師のキャリアは多様で、大学病院の公衆衛生学教室の出身者だけではありません。渡邊愛可先生(板橋区保健所予防対策課課長)は、もともと小児科医として市中病院に勤務していましたが、2015年に国立感染症研究所のFETP(実地疫学専門家養成コース)に参加。同研究所で4年間、感染症疫学を学んだ後、東京都に入職されました。それまで、公衆衛生医師の役割を知る機会はあまりなかったそうです。

渡邊愛可先生
渡邊愛可先生

「国立感染症研究所でのFETP研修中に、麻しんや多剤耐性菌の集団感染事例が発生した際の保健所のアウトブレイク調査を支援したことから、公衆衛生医師の役割を知りました。ちょうど2020年に東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が予定されていたので、国際的マスギャザリングにおける感染症の強化サーベイランスに携わりたくて、2019年に東京都に入職しました。入職後は都庁の結核対策の部署に配属されましたが、2020年を迎えた直後、世界中にCOVID-19が拡大したことを受けて、都庁の感染症対策部でCOVID-19対策に携わることになりました。未知の新興感染症への対策がダイナミックに展開される過程にリアルタイムで参加できたことは、大変貴重な経験となりました」(渡邊愛可先生)

 渡部ゆう先生(東京都福祉保健局保健政策部疾病対策課課長)は麻酔科医としての臨床経験を経て、2007年に東京都へ入職。すでに勤続16年のベテランです。公衆衛生の道に興味を持ったきっかけは、初期研修医時代の経験にさかのぼります。

渡部ゆう先生
渡部ゆう先生

「秋田県の市中病院での研修時、山間部の民家へ訪問診療に行った際に同行してくれた保健師さんとの会話が公衆衛生との出会いだったと思います。その後、宮城県で麻酔科医として4年間勤務し、主に高齢者の生死に直結する手術に多く関わる中で、そもそも病に罹る人を減らせないか、地域に何か貢献できないかと考えるようになりました。その時に研修医時代の記憶を思い出し、公衆衛生というキャリアにつながりました。東京都に入職したのは、なるべく公衆衛生医師が多い自治体で経験を積みたかったためです」(渡部ゆう先生)

都庁や保健所での公衆衛生医師の役割はどう違う?

 東京都における公衆衛生医師の勤務先は大きく分けて本庁である都庁と保健所との2パターンがあります。都庁で2年間勤務したのち板橋区保健所へと移った渡邊愛可先生は、それぞれの役割や業務内容についてこのように話します。

「都庁での業務は、都内保健所に届出されたCOVID-19の発生届や各保健所が実施したCOVID-19患者への積極的疫学調査のデータを統合・解析し、どこに感染拡大の要因があるのかを検証して都の感染症対策の施策につなげることでした。もちろん私一人ではなく、健康安全研究センターのメンバーや国のクラスター対策班のメンバーと連携して、情報収集・分析および還元、また施策につながる科学的根拠(エビデンス)の作成を行いました。一方、板橋区に移った現在は、健康危機管理の“現場”での対応をしています。都庁での業務の視点が東京都全体を俯瞰する『鳥の目』だとしたら、保健所では現場視点でものごとを考える『虫の目』が求められます。両方の視点を経験できたことは、今後も公衆衛生医師として働く上で非常に有用なことでした 」(渡邊愛可先生)

 渡部ゆう先生も4ヵ所の保健所と都庁内の2つの部署を経験されています。

「4か所の保健所経験のうちの2年間は、新宿区保健所でした。感染症を専門としている病院が多いため、COVID-19の流行前から『感染症のメッカ』と言われるような地域であり、非常に学ぶことが多く、公衆衛生医師の道を歩み続けようという思いが固まった2年間でした。

2021年度からは都庁の疾病対策課で課長を務めています。難病対策や肝炎対策、慢性腎疾患対策、それから献血移植推進などを受け持つ部署です。一緒に仕事をする職種も変わりました。保健所に勤務していた頃は保健師さんや栄養士さんなど専門職と働くことが多かったことに対し、現在は事務職と協同して施策を作り上げることが多くなっています。

保健所では管轄エリア内の公衆衛生的課題に広く対応する一方、都庁はより専門的な分野を担当し、その対象が東京都全体に及びます。そうした違いはありますが、公衆衛生医師の仕事の本質は“課題や地域をみてつないで仕組みを作ること”です。その点は保健所であっても都庁であっても変わりません 」(渡部ゆう先生)

COVID-19が東京都の公衆衛生業務に与えた影響

 COVID-19の流行の最中、都庁や保健所の内部ではどのような状況だったのでしょうか。渡部ゆう先生の在籍する都庁の疾病対策課では、特に慢性腎不全対策においてCOVID-19拡大による影響を大きく受けたようです。

「透析患者さんはCOVID-19の重症化リスクが高いため、当初は罹患したら必ず入院する体制を取っていました。しかし、透析患者さんに入院を提供することは、設備やマンパワーの面から病院にとってハードルが高く、対応できる病床はそう多くありません。そのため感染拡大が深刻だった第3波も第5波においても、COVID-19に罹患した透析患者さんの入院先確保はぎりぎりの状態でした。そこで、専門家と議論を重ねて次なる波(第6波)への体制を整えました。酸素・医療提供ステーションで透析を実施できるように準備したのです。また、ワクチンの接種が進んだことなどにより、オミクロン株では透析患者さんでも比較的重症化しにくくなっていることも分かったため、軽症であれば外来で対応し、少しでも悪化した時のためにベッドを空けておくという議論を並行して進め、大前提であった全員入院という方針を切り替えました。これは非常に大きな成果だったと感じています」(渡部ゆう先生)

 COVID-19が影響を与えたのは透析医療だけではありません。渡邊愛可先生が公衆衛生医師になった目的の一つである東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会もその一端です。

「2021年に大会が開催された際は、大会組織委員会と東京都、そして保健所が連携してCOVID-19を含む感染症の発生や感染拡大がないかを注視していました。COVID-19の流行前は、オリンピック開催時における強化サーベイランスの主眼は輸入感染症でした。ところが、大会開催期間はちょうど国内のCOVID-19の第5波の時期と重なり、来日したアスリートや大会関係者に対して国内で流行中のCOVID-19の感染をどう防ぐかも重要なポイントになりました。国内への輸入と国外への輸出を防ぐという、両方の視点での感染症対策が必要だったと思います」(渡邊愛可先生)

 また渡邊愛可先生によると、COVID-19の感染拡大時は保健所の通常業務を縮小せざるを得なかったそうです。しかし、状況は変わりつつあります。

「保健所での業務は感染症対策だけでなく、健康づくりや精神保健、母子保健など関わる分野が多岐に渡ります。COVID-19の感染拡大時には、保健所業務をCOVID-19患者への対応に重点化したため、それ以外の業務を十分に実施できなかった部分もありました。2022年4月、勤務先である板橋区では組織改正を行い、感染症業務に特化した感染症対策課を予防対策課から切り離して新設しました。その結果、COVID-19を含む感染症への迅速な対応に注力できる体制と、感染症以外の分野においても必要とされる業務が継続可能な体制が整備されました」(渡邊愛可先生)

公衆衛生医師としてのやりがい、キャリア

 ここまで紹介したように、公衆衛生における仕事の関わりは多岐の分野に渡るため、取り組んだ仕事は社会全体に影響を及ぼします。このようなスケールの大きさが公衆衛生医師ならではのやりがいにもつながると渡邊愛可先生は話します。

「私たち公衆衛生医師は、臨床医や研究医と同じように、患者さんの健康に寄与したいという熱い想いを持っています。直接患者さんを診る機会は少ないものの、行政の仕組みづくりを通じて社会全体の健康に予防的な観点から貢献できることが公衆衛生医師としてのやりがいです。行政の施策の効果発現には時に何年もかかりますが、今後、経験を積み重ねる中で、取り組んできた施策の影響や効果を実感できることを期待しています。

公衆衛生医師に求められるものは、総合力と想像力だと日々感じています。公衆衛生における施策は、多様なバックグラウンドの人々が関与することでその幅が広がり、効果が高まります。COVID-19の世界的な流行により、公衆衛生分野と臨床・研究分野との双方向の情報共有や連携の必要性がさらに高まっています。そのため、最初から公衆衛生の道を志した人だけでなく、臨床や研究を経験してきた人もその経験や知識を活かし公衆衛生分野でキャリアアップできるのではないでしょうか 」(渡邊愛可先生)

 若手公衆衛生医師の指導にあたる渡部ゆう先生は「何が専門ですか?」「事前に何を学んだらいいのですか?」といった質問をよく受けるそうです。しかし公衆衛生医師として活動する上では、必ずしも特定の専門性にこだわる必要はないと言います。

「公衆衛生は様々な分野に幅広く関われる仕事です。各分野の専門家はじめ多くの人たちと協力して施策をまとめること、その過程で専門性を深めることは、公衆衛生医師だからこそ得られる経験です。

こと東京都に関していうと、日本の第一線の専門家と協力して仕組みをつくること、また課題や特性が異なる様々な地域に関われることは、首都東京ならではの醍醐味だと感じています」(渡部ゆう先生)

 社会状況に連動し、様々な課題に向き合う公衆衛生医師。東京都福祉保健局では、今後も都民の健康を守るために多くの医師の力を求めています。意欲あふれる若手医師も、これまでの経験を社会に生かしたいベテラン医師も、公衆衛生の世界にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 ※掲載されている医師の所属は2022年3月時点のものです。

お問い合わせ先

東京都保健医療局  

保健政策部保健政策課
公衆衛生医師担当
Tel:03-5320-4335
Mail:S1150301@section.metro.tokyo.jp