公衆衛生医師として首都・東京で働く、5つの魅力
医師法の第一条を知っていますか?
「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」
実は、医師法の第一条に掲げられている医師の職務は、公衆衛生の向上・増進なのです。
臨床医が対象とするのが目の前の患者さんなら、公衆衛生医師が対象とするのは地域住民全員。東京都で働く公衆衛生医師の場合、約1,400万人の都民です。
日本の首都である東京都で公衆衛生医師として働く魅力について、東京都福祉局・保健医療局技監(局長級)を務める成田友代先生は次の5点を挙げます。
「1つめは、都民の方のライフステージに応じた健康施策を地域で展開していくために、スケールの大きな政策立案に関われること。2つめは、グローバリゼーションが進むなか、オリンピックやワールドカップといった国内外の方が大勢集まる場での健康危機管理を経験できること。3つめは、都内保健所、都庁本庁、そして感染症に関する情報発信や検査等を担う健康安全研究センターとさまざまな職場があり、それらをローテーションすることで幅広い技術を磨き、公衆衛生医師としての資質の向上を図れること。4つめは、東京都がいち早く受動喫煙防止条例を策定したように、国に先駆けたチャレンジができること。そして最後の5つめが、都民1,400万人の命と健康を守る、とてもやりがいのある仕事であることです」(成田友代先生)
国際イベントでの計画立案も、地域住民一人ひとりへの対応も
入職8年目の安岡圭子先生は、産婦人科医として経験を積むなかで、母子感染や妊娠中の栄養・健康管理についてじっくり研究したいという想いが募り、大学院に進学。そこで、WHO憲章における健康の定義や医師法第一条と改めて向き合い、「公衆衛生は、医師として働く上で基盤となるものだ」と、公衆衛生医師を目指すようになったそうです。
そんな安岡先生にとって特に印象深い仕事の一つが、東京2020オリンピック・バラリンピック協議大会(以下、東京2020大会)の感染症対策です。
「2018年に、冬季・平昌オリンピックの視察を行い、そこでIOC(国際オリンピック委員会)やアメリカのCDC(疾病予防管理センター)、韓国のCDCの関係者と議論を重ね、平昌オリンピックや過去のオリンピックでの課題について意見交換し、東京2020大会での感染症対策につなげるということに関わらせていただきました。
さらにその後赴任した世田谷保健所では、区内施設がアメリカの選手団のキャンプ地になっていましたので、感染症対策課長として実際に感染症対策を進めていく調整を行いました。COVID-19流行下、多くの方々が一堂に会する国際的な大会での感染症対策を、計画立案と実装の両面で経験できたことは、非常に勉強になりましたし、大変思い出深いです」(安岡圭子先生)
このように世界の公衆衛生の専門家と関わることもある一方で、地域住民の一人ひとりと真摯に向き合う場面もあります。保健所で母子保健を担当した際は、臨床と違ったアプローチができるようなような機会もあったそうです。
「病院では、『お困りごとはありませんか?』などと、患者さんお一人おひとりとゆっくりコミュニケーションを取ることはなかなか難しいものです。時には、ご家族との関係に問題があるなど、難しい背景をお持ちの方もいましたが、一臨床医としてはなかなか踏み込むことはできませんでした。母子保健の担当課長になったときには、保健所を頼りにして来てくださった方のお話を伺い、行政として何が必要かを考えることができました。臨床とは違った学びがあったと感じています」(安岡圭子先生)
「根本的な解決策は病気にさせないこと」と公衆衛生医師に
安岡先生のように臨床医や研究者として経験を積んでから入職する医師もいれば、初期臨床研修直後に入職する医師もいます。4年目の堀元海先生もその一人です。
「研修医時代は糖尿病・代謝内科医を目指していました。ただ、糖尿病は運動療法や食事療法が第一にも関わらず、食事や運動などの生活習慣を変えられない方が多く、もどかしく思っていました。しかも糖尿病の患者数はどんどん増えています。根本的な解決策は、糖尿病にさせないことではないかと思うようになり、予防医療に関わりたいと考え、公衆衛生医師の道を選びました」(堀元海先生)
現在は墨田区保健所の保健予防課で感染症対策業務に携わっている堀先生。保健所の主要業務の一つである感染症業務とはどのような仕事なのでしょうか。
「発生届が必要な感染症が出た際、医療機関から送られて来る発生届の受取先が、私の所属する保健予防課です。発生届を受け取ると、たとえばCOVID-19であれば、感染場所を特定して、濃厚接触者を同定し、症状が出れば検査を行うなど、その疾患に応じた必要な対処を行います。また、医療機関や保育園などでCOVID-19や胃腸炎などの集団感染が起きたときには、保健師さんと一緒に現地に赴き、感染拡大防止のための指導を行います」(堀元海先生)
診療科、経験年数にかかわらず、一人ひとりが輝けるように
現在、東京都で働く公衆衛生医師は約100人。臨床の経験年数も診療科もさまざまです。成田先生は、「どの診療科の方でも、初期臨床研修直後の方でも、無理なく働けるように研修体制を充実させています」と語ります。
「入職時は基本的に『課長代理級』になるのですが、課長代理級公衆衛生医師を対象に、公務員の心得から感染症対策を行う上で必要な技術、COVID-19のようなその時々の健康課題などをテーマに、専門研修を毎月実施しています。また、各職場に複数の公衆衛生医師が配置されていますので、上司の助言を受けながら仕事を進めることができるのも大きな特徴です。
さらに、公衆衛生の専門医制度(社会医学系専門医制度「TOKYOプログラム」)もあり、課長代理級公衆衛生医師専門研修のなかで単位が取れるなど、働きながら専門医資格が取得できるようになっています」(成田友代先生)
堀先生は、毎月の課長代理級公衆衛生医師専門研修のほか、タイ・マヒドン大学での2週間の海外派遣研修や結核研究所での医師向けの研修にも参加し、公衆衛生医師としての視野を広げています。
「私のように初期臨床研修修了直後に入職すると、周りは年上の方がほとんどになります。ですが、毎月の研修で年次の近い同僚と顔を合わせて情報交換もできるので、安心につながるかなと思います。また、タイのマヒドン大学では、蚊を媒介にした感染症や寄生虫感染症など、日本ではほぼ遭遇しない感染症について学び、そうした感染症がもし日本で流行ったらどうすればいいのかを考えるきっかけにもなりました」(堀元海先生)
公衆衛生に興味を持った時がタイミング
初期臨床研修の直後でも、臨床経験を積んでからでも、公衆衛生に興味を持った時がタイミング――。そう話す安岡先生は、どちらにもメリットがあると説明します。
「公衆衛生医師の業務では、地域の医療機関の先生方とのやり取り、調整は欠かせませんので、臨床の流れを知っていることや、チーム医療で培った調整力は大きな糧になります。一方、初期臨床研修直後に入職すると、管理職に昇任する前に課長代理級として実務をじっくりと経験することができるメリットがあります」(安岡圭子先生)
また、東京都では、都内や関東圏に限らず、九州、北海道といった遠方から入職する人も珍しくありません。そうした人が安心して生活できるよう、住宅の借り上げ制度も設けています。加えて、学会参加等の学術活動にかかる費用を負担する支援制度も始まります。
「公衆衛生医師という仕事に少しでもご興味をお持ちでしたら、業務説明会や保健所見学会、オンラインでの説明会を開催しておりますので、ぜひご参加ください。個別の相談も随時承っておりますので、お気軽にお声かけいただければと思います。都民1,400万人の命と健康を守り、社会全体の健康にかかわる公衆衛生医師という仕事はとてもやりがいのある仕事です。将来の選択肢としてぜひご検討ください」(成田友代先生)
公衆衛生医師の仕事は、臨床のように目の前の患者さんが良くなって退院していくといったわかりやすい変化が短期間で得られるわけではありません。ですが、COVID-19のときのように、目の前の健康課題に対して職種を超えて多くの専門家や関係機関とも協働しながら必要な策を講じ、平穏な日々を取り戻す、そして、1,400万人もの都民の健康という基盤を支える、大きな仕事です。少しでもピンときた方は、まずは業務説明会や保健所見学会に参加してみてはいかがでしょうか。
※掲載されている医師の所属は2024年3月時点のものです。
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