頭頸部がんの終末期医療を行っていたTさんが、自ら点滴を抜いてしまうことが多くなった。「飲食ができないと脱水になってしまうので点滴をさせてもらいたい」と説明するが、頑として聞き入れてくれない。「どうして?」と問うと、ホワイトボードに理由を書いてくれた。
頭頸部がんの終末期には、気管切開をしている方が多い。つまり話せないということだ。コミュニケーションを取るためには、筆談もしくは身ぶり手ぶり。字を書くのと、話すのでは断然スピードが違う。だから、ほとんどの方が慌てて字が乱雑になる。わたしは患者さんを慌てさせないようにベッドサイドに座り込むのが常だった。その一方で、日々発生するとてつもない量の仕事を片付けたい気持ちも湧き上がってくるもので、そうした思いと格闘するのは簡単ではなかった。