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寄稿記事 わたしの女医ライフ【第9回】

「仕事」or「家庭」? 研修中に結婚したからこその悩み―わたしの女医ライフ

2018年11月14日(正木稔子)

 わたしにとって、研修医と主婦の両立は難しかった。

 当時は、医師2年目。耳鼻咽喉科の初期研修医として少しずつできることが増え、スムーズに動けるようになってきたなと思っていた。そんな中迎えた、麻酔科のローテート。早朝出勤が苦手なわたしは、学生の頃に麻酔科の道を諦めていた。そして、たった3カ月でさえ、患者さんに全身麻酔をかけて管理することは重責を感じるものだった。手技の不安だけでなく、急に上司が変わったために人間関係をいちから作り直さなければならず、誰に相談するのがベストなのかを知るまでにも時間がかかった。そんな状況に大きなストレスを抱え、顎関節症にまでなる始末だった。

 その頃、同時並行で進んでいたのは結婚の話だった。麻酔科ローテート中は勤務時間が短く、結婚準備にはもってこいだと思っていた。しかし思いのほか仕事の精神的ストレスが大きく、結果的に結婚準備に逃げていた気がする。

 結婚の準備は、それはそれで大変だった。両家へのご挨拶、結納の日程や場所を決めていろいろなところに連絡したり、実際に赴いたり。多くの方が関わってくるので、そう思い通りにはいかず、物事はスムーズに決まらなかった。そういったことも負担になってくると、仕事と結婚準備の両方でわたしのストレスは逃げ場を失っていた。

「医師」と「妻」、2つの肩書きでの葛藤

 新婚生活は仕事を覚えたい盛りの頃だった。「将来、仕事はほどほどでいい」と思っていた一方で「いま仕事を覚えないと使い物にならない、将来つぶしが効かなくなる」と思っていた。しかし、小さな頭のキャパシティーをはるかに超える情報量の仕事。「医師」という引き出しに、毎日多くのストックを詰め込む作業の連続だったが、病院を出た途端に医者モードの電源を切れるほど器用ではなかった。帰宅後、体はクタクタだが、頭は手技やオペ、患者さんのことを考えていた。

 一方プライベートに戻ると、「妻」という肩書きに、わたしは一人でプレッシャーを感じていた。「妻なんだから料理しなきゃ!掃除も洗濯もしてあげて、ちゃんとした妻だと思われたい」と思っていたのだ。だから、二足のわらじを履いて毎日必死に頑張っていた。仕事中は仕事のことで心も体もいっぱいいっぱい。たまに早く帰れる日には、帰り道に今晩の料理を考え、買い物をして帰る。家に着いたら料理だけでなく、2人分の綿埃が気になって掃除もしたくなるし、溜まった洗濯もしたくなる。そうしながらも、頭の中はやっぱり仕事のことがよぎる。

 しかしわたしの当直は月8回。当直以外の日々も帰りが遅く、家事をこなすのは物理的に不可能だった。先輩にも「やりすぎよ」と言われたし、仕事と家事の両立を求められていたわけではなかった。勝手にプレッシャーを感じて、焦って空回りしていたのはわたし一人だった。間もなく、できない自分にイライラし始め、その矛先は仕事にも家庭にも向かった。

優先順位は「人生のステージ」から見えてくる

 医師という仕事柄、どうしても完璧主義になってしまう。それは多くの人にも心当たりがあるのではないだろうか。わたしは勝手に責任を背負いこみ、一人でいっぱいいっぱいになる傾向があるなと自覚している。今振り返ってみると何を焦っていたのだろうかと滑稽に思えるほどだ。16年目のいま、医者モードのオフは簡単にできる。それは技術が身についていて、詰め込んだ経験の引き出しを簡単に開け閉めできるからだ。新しいことを学んだとしても、今までの延長線上でしかない。

 基礎を築くのに多くの時間を費やさなければならない医師は、いわゆる「人生のステージ」をのぼるのに時間がかかる。逆に言うと見通しが立てやすいと言うことだ。卒後2年目で結婚しなければ良かったとはまったく思っていない。ただ医師としての基礎を築く時期には、仕事に比重を置いた方が良かったと思うし、それをパートナーにしっかり相談すべきだったと思う。基礎ができてしまえば、家庭など別のことに比重を置くことができる時期がいつかやって来るのだから。自分が今いるステージで優先すべきことは何なのか、客観的に見る必要があったと思う。

 聖書に「誰も二人の主人に仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛するか、一方に親しんで他方を軽んじるか、どちらかである。」とあるように、まさしくわたしは「二兎を追う者は一兎をも得ず」だった。そもそも両方同じ温度感でやれるわけがないのだ。比重をどちらに置くのか、プライオリティーはどちらなのか。今もたくさんのことを同時並行でやっているが、いまだにその判断は難しい時がある。長期的視点と短期的視点で見比べながら、今優先すべきことは何かを賢く選択していきたいと、こうして連載記事を書きながら改めて自分に言い聞かせている。

正木先生のプロフィール写真

正木稔子(まさき・としこ)
1979年生まれ。福岡県北九州市出身。
福岡大学医学部を卒業後、日本大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科に入局。主に癌治療を行う。その後クリニックに勤務し、西洋医学に漢方薬を取り入れたスタイルで診療をしている。
現在は診療業務と並行してDoctors’ Styleの代表を務め、医学生とドクターを対象に、全国で交流会を開催したり、病を抱えた方々の声を届けている。また、ドクターや医学生に向けた漢方の講演なども行っている。
それ以外にも、国内外で活躍する音楽一座HEAVENESEの専属医を務めているほか、「食と心と健康」と題して一般の方向けにセミナーを開催し、医療だけに頼るのではなく普段の生活の中からできることを提案している。