——次に、冒頭でも触れられていた「新専門医制度」について教えてください。新専門医制度は、医療業界のトレンドや、医師のキャリアチェンジの傾向にどんな影響を及ぼしましたか?
先生方はよくご存じの通り、2018年から新専門医制度がはじまり、これまでよりもさらに専門医資格を取得するためのハードルが上がりました。とくに、外科系では事実上、大学医局に所属していなければ取得が難しい、という状況が生まれています。では大学医局が強さを取り戻すのか、というと、必ずしもそうではありません。
——と、言いますと?
やはり大学病院における医師の仕事は、市中病院と比べてもハードであることが知られています。しかも給与にも差がある。将来へ向けて明確なビジョンがあり、絶対に専門医を取るんだ、という方は大学に残りますが、必ずしもそうではないことは皆様ご存知の通りです。
医学生の中には、「こういう医師になりたい」という明確なビジョンを持たず、成績が良かったから…というような理由で医学部を選択される方もいらっしゃいます。何となく医師になった、と言うだけでは、大学病院のハードな業務に耐えるのは難しいのではないでしょうか。
「こんなに要件が厳しく時間もかかるのなら、専門医資格はいらない。専門医資格にはこだわらない」と言う方も以前に比べて増加しているようです。専門医資格が必要なければ、大学以外の勤務先を自由に選ぶことができますよね。
——しかも、世の中は「働き方改革」に大きく舵を切り、長時間労働をやめて、プライベートを充実させよう、という流れができていますよね。医療の現場でも「働き方改革」は浸透しているのでしょうか?
はい、一般と比べて働き方改革がなかなか進まない医療現場ではありますが、先生方が長時間労働の是正やプライベートの充実を望まれるのも、当たり前のことだと思います
数年前までは、「医師の転職」というと、40~50代以上の、中堅以降の男性が多かったように思います。ある程度、医局で研鑽を積んで、専門医資格も取得して、お礼奉公をして。そこからいろんな事情があって転職に至るというのが一般的でした。それが、ここ数年で若い先生方の転職希望がぐっと増えたなという印象があります。
例えば、医局では積めない経験をしたい、といったようなスキルアップの転職もあれば、QOLを重視したいという方も。また、専門医を取得したタイミングで大学医局を出ることを検討しているという方もいらっしゃいます。最近では訪問診療や自由診療、産業医など、多様な働き方を考えている先生も多い、という印象を受けます。
かつてと比べて、フリーランスの医師や起業をされる医師など、若いうちから色々な働き方をする医師の存在が目に見えるようになって「医局に所属しない」と言うことについての心理的なハードルが下がっているのかもしれません。
——人見さんご自身は、専門医資格について、どのようにお考えになりますか?
転職における市場価値や、ご開業の際のブランディングなどの意味で考えるのであれば、取得しておいて損はないと個人的に思います。新専門医制度では、民間病院で取得できる専門医資格は限られますから、専門医を取得したい若手医師は大学医局に入り研鑽を積む、というケースが増えてくることは予想されます。
ただし、先ほども申し上げましたように、専門医を取得するためのハードルは上がっています。「なんとなく専門医が欲しいな」というお気持ちだけでは、難しいかもしれません。また、仕事だけではなく、プライベートな時間の確保、結婚や子育てなどのライフイベントを考えると、必ずしも一直線に専門医資格を取得することが正解だ、とは言い切れない部分があるでしょう。
自分がどんな医師になりたいのか、将来にわたってどんな医療をしていきたいのか、という核の部分、“ビジョン”をしっかり考えていただくことが先決かと思います。(Vol.2に続く)
【提供:m3.com Doctors LIFESTYLE】