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寄稿記事 わたしの女医ライフ【第17回】

技術・知識では割り切れない患者さん対応、どうしてますか?―わたしの女医ライフ

2020年3月9日(正木稔子)

 わたしは居場所を探していた。物理的な場所というより、心の置き所だ。居場所というのは往々にしてそうなのかもしれない。人間には帰属欲求というものがある。

どうすれば、悲しみに寄り添えるのか?

 医師になって患者さんを看取ったとき、専門職としての無力感と死の衝撃に襲われた。一生懸命手を尽くしたのに、亡くなる患者さんがいる。人は死を迎える。当たり前のことなのだが、医学部教育では死というものが隠されていたように思える。

 医療の現場では、患者さんの死は仕事の一部であり、その度に立ち止まっていては次の仕事がかさんでくる。悲しんでいる暇はない。臨終に立ち会う者として、どのように振る舞うのがご家族にとって良いのか、病で苦しんでいる方にどう寄り添ったらいいのか。教えてくれる人がいなくて、心の奥底にしまっておくしかなかった。医師でない友人に、こんな話をしても理解してもらえない。世の中とのあまりのギャップに閉口した。やり場のない感情が、澱のように積もっていった。

 でも、一体それでいいのだろうか。人として、また病の人と接する医師として、悲しみに寄り添うことすらできない現実。いったいどこに行ったら、弱っている者に寄り添う手立てを語り合うことが出来るのだろう。

診療科や年代の壁なく語り合い、見えたもの

 先日、わたしが代表を務めるDoctors’ Styleで症例検討というイベントを行った。

 医療として技術を提供すること自体、良いとも悪いとも判断のつかない事例がある。命にかかわる病気なら、有無を言わさず医療者の判断に従っていただくことが多い。しかし、実際にはそうではない事例の方がよっぽど多い。例えば、いじめに遭っている、離婚間際でストレスを抱えている、騒音問題で困っている、でも心療内科や精神科に行くほどではない、という症例は日常診療でたくさん目にする。

 患者さんの背景をヒアリングして感情を慮りながら選択肢を提示し、その方にとってベストな対応を一緒に決めていく──。そうしたプロセスはとても尊いが、時間を要するので不可能なことも多々ある。一例一例振り返り、深く考察する機会は臨床現場ではほぼないに等しい。また、正解がないから自分一人で考えても思考が進まず、流してしまうことが多い。

 今回のイベントでは、そういう“答えのない”症例の患者背景についてみんなで想像し、意見を出してみることにしたのだ。参加者は卒後1~29年目(精神科・整形外科・耳鼻咽喉科・研修医)の医師と、1~6年の医学生、合計11名だった。1症例に対して3時間。「きっとこんな気持ちだろう」「こんな問題を抱えているのではないか」など、思いつく限り患者さんの気持ちや背景を想像し語り合った。自分以外の視点が入ることで、いろんな角度からその患者さんについて想像することができる。中には、「社会ではこのような救済法がある」と、医療以外の分野からのアプローチもあった。

 驚いたのは、どの意見にも思いやりの感情があふれていたことだ。誰一人、茶化したり投げやりになったりする参加者はいなかった。たまたまそのような人が集まっただけかもしれないが、いずれにせよ、その場にいた全員が患者さんに寄り添える心を持った医師たちだったのだ。

 三時間後には、全員、自信を持って「自分ならこんな判断をする」という結論を出すことができた。診療科や年代の壁なく1つの症例について語り合える機会はとても貴重で夢のようなひとときだったと思う。

「正解」のない医療に向き合う医師たちに居場所を

 わたしはDoctors’ Style創立当初からこれがやりたかった。こういう話ができる人はどこにいるのだろうとずっと探していた。しかしここに、こんなにたくさんいた。

 「泣くものと共に泣き、喜ぶものと共に喜ぶ」

 そんな医療を実践するには、仲間が必要だ。日々の診療に忙殺される中、それでも妥協せず病人に寄り添う医師。その心を発動させるかどうかが一番の問題だが、同じ思いを持つ仲間がいることは大きな心の支えになる。Doctors’ Styleはそんな医師たちのベースキャンプであり、居場所になりたいと思っている。

 もちろん、技術は医師にとって最も大事で疎かにしてはいけない。でも、病の人に寄り添う心を同じくらい大切にし、技術と両立させられたらいいのではないか。地位や金や名誉ではなく、本来の医療のあるべき姿を、彼らの中に見た気がした。

正木先生のプロフィール写真

正木稔子(まさき・としこ)
1979年生まれ。福岡県北九州市出身。
福岡大学医学部を卒業後、日本大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科に入局。主に癌治療を行う。その後クリニックに勤務し、西洋医学に漢方薬を取り入れたスタイルで診療をしている。
現在は診療業務と並行してDoctors’ Styleの代表を務め、医学生とドクターを対象に、全国で交流会を開催したり、病を抱えた方々の声を届けている。また、ドクターや医学生に向けた漢方の講演なども行っている。
それ以外にも、国内外で活躍する音楽一座HEAVENESEの専属医を務めているほか、「食と心と健康」と題して一般の方向けにセミナーを開催し、医療だけに頼るのではなく普段の生活の中からできることを提案している。