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「一億総活躍社会の実現」を目指し、国を挙げて働き方改革が進められている中で、医療業界においても、医師の過重労働や過労死は深刻化しており、医師の残業問題を改善させるための議論が進行している。今回は、医師の労働環境を考える上で知っておきたい労働基準法のポイントを解説する。
「一億総活躍社会の実現」を目指し、国を挙げて働き方改革が進められている中で、医療業界においても、医師の過重労働や過労死は深刻化しており、医師の残業問題を改善させるための議論が進行している。今回は、医師の労働環境を考える上で知っておきたい労働基準法のポイントを解説する。
医師の自己犠牲によって成り立ってきたとも言われる医療業界。
現場医師の勤務実態を把握するために厚生労働省の研究班が2016年4月に取りまとめた「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」では、病院の常勤医の場合、男性医師だと41%、女性医師だと28%が週60時間以上労働しているという結果が明らかになっている(ここで言う勤務時間は、診療時間、診療外時間、当直の待機時間の合計)。一般に月間残業時間が80時間を超えると「過労死ライン」に達すると言われることから、単純計算で週60時間働けばこの水準に達することを踏まえると、事態の深刻さは分かる。
こうした実情を踏まえ、医療従事者の新しい働き方の検討を行うために2016年10月に発足した厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」でも、若手医師を中心に週60時間以上勤務している実情は問題視。同検討会の報告書では「今こそ、医療の生み出す価値を再定義し、それぞれの医療従事者がどのように学び、働き、人生設計していくか、という観点から、現状を真摯に見つめなおす必要がある」と訴えている。
2017年8月2日、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」資料より抜粋
医師を問わず、残業問題を考える上で外せないのが、「36協定(さぶろく協定)」だ。
36協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定。法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働く場合に必要となり、労働基準監督署に36協定締結の届け出をせずに時間外労働をさせた場合、事業者には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されることになっている。
しかし、医療業界を問わず、36協定を結ばずに労働者に法定労働時間を超える勤務を課している事案や、時間外労働への割増賃金が支払われていない事案などが社会問題化。加えて、労働基準法には、時間外労働の上限時間までは明記されていないため、「36協定さえ結べば事業者は無制限に残業を課すことができるのではないか」との指摘も存在した。
現状は「時間外労働の限度時間は月45時間かつ年360時間」という厚生労働省大臣告示にのっとり、労働基準監督署が指導しているが、罰則などによる強制力がない上、特別の事情があれば年6回まではこの基準を超えることもできる。こうした現状に対し、2019年度の労働基準法改正では「月45時間かつ年360時間」という大臣告示を格上げして罰則付きの法律にするという方針で検討が行われている。
厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」(2017年8月)資料より抜粋
医師も労働者である以上、法定労働時間を超えて働く場合には、病院側と36協定を締結する必要がある。
2017年8月2日に開かれた「医師の働き方改革に関する検討会」では、実際に医療機関で結ばれている36協定の実例として、以下のような内容を紹介。いずれの医療機関も、通常時は大臣告示に則り時間外労働時間の上限を「月45時間、かつ年360時間」としているものの、感染症の大流行や救急患者の急増などが起こった際には、「月150~200時間、年990~1470時間」程度にまで労働時間を延長できる、といった内容になっている。
厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」(2017年8月)資料より抜粋
先述の通り、2019年度の労働基準法改正では時間外労働の上限時間が法的に定められる見通しとなっている一方、医師については、職業上の特殊性を考慮した上で時間外労働上限基準を議論すべきとされ、改正法の適用を5年遅らせることとなっている。
特に議論の焦点となっているのが、医師法19条が規定する「応召義務」との兼ね合いだ。医師法では、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定。ここで言う「正当な自由」とは、「医師の不在または病気など、事実上診療が不可能な場合」(昭和30年8月12日付医収第755号長野県衛生部長あて厚生省医務局医務課長回答)で、医業報酬の不払いや診療時間外であっても、患者の診療を拒むことはできないという通知も過去に出されている(昭和24年9月10日付医発第752号厚生省医務局長通知)。「働き方改革実行計画」では以下のように定め、医療界の参加の下、医師に対して働き方改革をどのように適用させるべきか議論を行うこととしている。
医師については、時間外労働規制の対象とするが、医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要である。 具体的には、改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用することとし、医療界の参加の下で検討の場を設け、質の 高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し、2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策 等について検討し、結論を得る。