わたしは今、非常勤で3軒のクリニックを掛け持ちし、医療系の専門学校で非常勤講師もしている。いわゆるフリーランスという立場で働いているが、ここに至るまでは迷いと葛藤の連続だった。
そもそもの発端は、医師4年目の夏におとずれた医局員との離婚だった。このまま医局に居続けることはできないと思い、そのまま退局して地元の福岡に帰るか、東京の他大学に入局し直すかを考えた。しかし離婚の際に助けてくださった先輩方との関係は何物にも代えがたく、今から別の医局に行って人間関係を作り直す気にはなれなかった。ただ、医師として生きていくための専門性は今のうちに身に着けなければと思い、6年目の夏に専門医資格を取ったら退局することに決めた。振り返ると、大学医局に在籍した6年間は医師としての今のわたしの基礎になる、とても大切な時期だったと思う。ただ、勤務そのものは毎日全力だったため「医局を辞めたら楽になる」とも思っていた。
退局してからどこに勤務するか、離婚後からずっと考えていた。その頃は終末期医療に興味を持ち、病院見学にも行ってみたがピンと来ず、いくら探してもなかなか決まらない。そんな時、毎週行っている教会でのボランティア活動にふと目が留まった。教会は医師としてではなく、一人の女性としてわたしに接してくれる、安心できる場所だ。「勇気のいる決断だけど、ボランティア活動をしてみるのもいいかもしれない。それに、これまで本当によく走ってきたんだもの。少しゆっくり過ごしてみてもいいんじゃない?」と自分を慰める思いもあり、一旦仕事を辞めてみようと決意した。しかし仕事の話はどんどん来るもので、医師は「仕事を断る」のが大変なのだと痛感した。よくよく吟味し、仕事に翻弄されない範囲であればと、週2日だけの勤務と、他の日はボランティアをすることにした。