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感謝、クレーム…やる気を左右した裏話―医師のモチベーションアンケート(中編)


2020年9月7日(エムスリーキャリア編集部)
記事KV

 前向きに仕事をするために必要なモチベーション。誰でもふとしたことで上がったり下がったりするものです。医師608名が回答したアンケート(※)から、モチベーションが最も上がる/下がる瞬間と、具体的なエピソードをご紹介します。
(※)2020年8月15~23日、m3.com会員の医師を対象にエムスリーキャリアが実施


喜びが自身のモチベーションに


まず、モチベーションが最も上がる瞬間は次のような結果になりました。

グラフ1

表1:仕事へのモチベーションが最も上がる瞬間(20~70代の医師608名が回答)

上位は「誰かに感謝された時」が26.3%、「自分のやりたい仕事に取り組めている時」が19.7%でした。 寄せられたエピソードを読むと、自分の好きなことや興味のあることが、結果的に誰かの役に立ち、感謝されるという好循環が生まれているケースも散見されました。モチベーションが最も上がった時のエピソードを、アンケートから一部抜粋してご紹介します。

  1. 他科の医師や、医師以外の医療スタッフから評価された時。(30代女性、放射線科)

  2. 医局内で愚にもつかないと評価されていた研究が、海外の論文でエビデンスレベル1bの評価をつけられたこと。(40代男性、皮膚科)

  3. 私のそれまで気づかなかった能力や知識を上司や同じ分野の先輩医師に見出された時。全てを諦め、やぶれかぶれだったときに、将来の展望を示してくれた。(40代女性、科目不詳)

  4. 整形外科医として後期研修中の時、上司たちを経由して、痛み止めだけ処方されていた患者が掌蹠膿疱症であると疑い、皮膚科の医師にコンサルトしたところ、「よく見つけてくれました」と返信をいただいたときは、整形外科医になって間もなかったため嬉しかったです。また、回復期病院勤務中、転倒による骨折に伴う脊髄損傷の患者さんが急性期より送られてきて、バルーン挿入、寝たきり状態でしたが、手術適応ありと考え、セカンドオピニオンを勧めたところ、紹介先の先生がそのまま手術も引き受けてくださり、術後リハビリをしたところ、車いす移乗自立、排便はトイレで可能となり、尿意も戻った症例がありました。本当に運が良かっただけだとは思いますが、患者さんもご家族もとても喜んでくださり、医師になってよかったと思いました。(40代女性、整形外科)

  5. 大病院で余命数か月というがん患者の紹介を受け、看取りを兼ねた診療に携わることになった。数十種類の投薬を持参され、食思も乏しく酸素吸入し衰弱していた。本人と家族と相談の上、投薬の再考(最小限の投薬にとどめる)と漢方治療を行った。それが功を奏したのか以後6年間、酸素が不要になり、独歩でデイサービスを利用しつつ、奥様と自宅で生活された。2人のお孫さんにも会え、喜んでおられた。大病院の言いなりではなく自分にもできることがあると再確認した。(50代男性、内科)

  6. 病状の受け入れが困難だった患者家族に対し、全職種で対応して受け入れできるようになった結果、最終的には穏やかな看取りができた時。(50代女性、内科)

  7. 患者さんが良くなった時。16歳だった患者さんが結婚し、出産してその子どもが健康に育っているのがとても嬉しく感激しました。(50代女性、心療内科)

  8. 他科連携と地域連携が上手くいき、重症の患者さんが会社に復帰できた時。(50代女性、精神科)

  9. 内視鏡治療実績が認められて、年収が120万上がったことがあります。(50代男性、消化器科)

  10. 何も勧めたことはなかったが、子どもが「僕の仕事に対する姿勢から、同じ職業に就くことを決めたんだ」と打ち明けてくれた時。(60代男性、外科)

  11. 自分の方針で難度の高い手術を乗り切った時。(60代男性、外科)

  12. 誰もが究明は困難だと考えていた、若い女性の命を救った時。実はありえないようなことも起こりうまくいった。自分はセレンディピティに富む幸せな男だと思い、次の困難な症例でも頑張ろうと思っている。(60代男性、脳神経外科)

  13. 既存のやり方を自分なりに理解し改善してゆくことができる時。(60代男性、代謝内科)

  14. 6か月にわたって担当病棟の満室が続き、死者も出ず、治療がうまくいった時期。(70代以上男性、神経科)

  15. 研修医の後期研修指導後に「大学で教えてもらえなかった、本に書いてないような、明日から役に立つ指導をありがとうございます」との、手紙をもらった時です。(70代以上男性、外科)

  16. 患者さん、家族に「先生に出会えて良かった」と言われたとき。(70代以上男性、内科)

やる気を下げるのは、意に反するクレームや評価


モチベーションが最も下がる瞬間も聞いたところ、最上位が「患者や家族からクレームがあった時」で20.7%、次は「不当な評価を受けた時」で19.9%でした。「ミス・失敗をした時」が9.5%とやや少ないことを踏まえると、周囲からの反応が医師のモチベーションを左右するようです。

グラフ1

表2:仕事へのモチベーションが最も下がる瞬間(20~70代の医師608名が回答)

寄せられたエピソードの中には、自分一人の力だけではどうしようもないことを責められたり、自分では正しいと思っていた仕事が相手にとっては裏目に出てしまったりした時を挙げる回答が見られました。モチベーションが最も下がる瞬間のエピソードは、以下の通りです。

  1. 神以外どうしようもない事に対して責められた時。(30代女性、内分泌内科)

  2. 性格の悪い上司の対応に苦労していた時に、それがパワハラであったと知った時。(30代女性、内科)

  3. 患者さんに対する診療方針が病院と異なった時。転職につながりました。(40代男性、精神科)

  4. 他のスタッフが起こした医療事故の責任を負わされて、親類の死に目に会いに行かせてもらえなかったこと。(40代男性、循環器科)

  5. 上司の患者が困っているので診療しても、上司から感謝されない。自分が主治医の場合の患者に対し、自分が主体的に診療しても、上司が医学的に古びた治療方法に変更している場合もあること。(40代男性、外科)

  6. 2日連続で深夜までの業務に携わることになった時。(40代男性、糖尿病科)

  7. 医療法人の理事長だった時、オーナーに運転資金を持ち逃げされ、半年以上無休で働かされた時。(40代男性、整形外科)

  8. 救急看護スタッフ育成のために講義や直接指導をしても毎年そのスタッフを異動させられた。その陰で看護部長が「救急は誰でも出来るからと人数がいれば誰でもいい」と言っているのを聞いた時。(40代男性、救急医学科)

  9. 緊急手術で待機中なのを知っているにも関わらず、直属の先輩に呼ばれずに手術が終了していた時。(40代男性、消化器外科)

  10. 提案した臨床研究のテーマを即断で却下された時。(40代男性、皮膚科)

  11. 一生懸命努力した医療行為が上手くいかず、患者から不満が出た時は落ち込みます。また多忙を極めた際にねぎらいや給料が変わらない時は怒りを感じることもたまにありました。(40代男性、泌尿器科)

  12. 血液疾患の患者の母親が、担当医をはじめ医療スタッフにいつも大声で不満をぶつけていた。無菌室のため入室するとしばらく罵声に耐えねばならず、気が付いたら食事がのどを通らず体重が大幅に減り、心身ともに消耗してしまった。同僚は遠巻きに見ているのみ。当時は周りに助けを求めることができず(してはいけないと思っていた)、最終的に担当を変えてもらった。(40代女性、小児循環器科)

  13. 何度説明しても理解しようとしない、できないご家族との面談の後。(50代男性、内科)

  14. 正当な事を説明したのに、理不尽な謝罪を要求され、なんと裁判にまで進んだ事があります。もちろん勝訴しましたが、全く時間の無駄でした。(50代男性、消化器科)

  15. 大先輩の失敗(EST後大出血!)を、尻拭いしなければならなくなった時。その後、感謝やねぎらいの言葉や態度は一切なしって・・・信じられます?(50代男性、消化器科)

  16. 学会参加は、全国学会は年に1回、地方学会は年2回までと制限された時です。(50代男性、外科)

  17. 患者が減少し収益が減って赤字になった時。他科も含めて医師が退職して後任が確保できない時。(60代男性、内科)

  18. 患者さんために一生懸命しても周囲のスタッフからクレームがあった時。(60代男性、内科)

  19. 上司が、学会や研究会に毎週のように出かけて、週末にほとんど休みがとれず、あげくに、あることで馬鹿よばわりされた時がありました。(60代男性、内科))

  20. 病院の目標がなかなか達成できない。特に新型コロナの影響でますます目標を達成できなくなった。(60代男性、呼吸器内科)

  21. 初めての一人医長として外勤病院に勤務した時、死産を経験したこと。(60代男性、産婦人科)

  22. 外科医から検査部長に異動するよう言われた時。患者とのコミュニケーションが無くなることが一番応えました。(60代男性、科目不詳)

モチベーション低下で過半数が意識すること


さらに、モチベーションが下がった時、転職を意識したことがあるかどうかを聞いたところ、「ある」(かなりある、少しある)と答えた人は51.8%で、半数以上が転職を考えるきっかけになると答えました。一方、「ない」(あまりない、まったくない)と答えた人も32.4%を占めています。転職がモチベーション低下の解決策になるとは一概に言えませんが、選択肢のひとつとして考えられているようです。

グラフ1

表3:モチベーションが下がった時、転職を意識したことがあるか(20~70代の医師608名が回答)

先生が共感したエピソードはありましたでしょうか。後編では、2019年と2020年の比較や、モチベーションを維持・向上させる方法について紹介します。

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