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寄稿記事 わたしの女医ライフ【第11回】

離婚トラブルが教えてくれた苦難の乗り越え方―わたしの女医ライフ

2019年3月6日(正木稔子)

  離婚の話が浮上して混乱していた時、友人から『選ばれて幸せになる7つの法則』という本を渡された。それまでも恋愛・結婚系の本を読み漁っていたが、書かれている内容をどう生かせばいいのかがわからず、なんとなくしっくりこないということを繰り返していた。ところが、友人から紹介された本には、夫とのすれ違いの会話がそのまま書いてあり、「やってはいけない」ことをやっている自分がいた。その時、「だからうまくいかないのかぁ!」と納得でき、光が差した気がした。本を通して自分の言動を客観的に振り返り、現実から目を離したことで冷静さを取り戻せた部分が大きい。主観的な感情に従って生きているとは怖いものだ。その後著者の元を訪れてカウンセリングを受け、自分の気持ちの整理がつき、暴走することなく事を進めていくことができた。

困難に直面した時、答えはどこにある?

 人生の困難に直面した時、その答えは医師の社会、医療の世界にはない。結婚生活で大いにもめている最中、医師である夫に精神科へ連れて行かれたことが一度だけある。彼も困り果てて出した手段だったのだろう。担当の先生に事情を話したら「病気じゃないからご主人と話し合ってください」と言われた。その通りだ。まともな先生で本当に良かった。

 わたしが普段患者さんの話を聞いていても、医師は人生の困難に答えをくれると勘違いしている人が多い。医師でさえ勘違いしているのだから、一般の方はもっとそう思うはずだ。もちろん、哲学など医学以外の勉強をされている先生は答えをくれる方もいるだろう。ただ、多くの医師は答えを持ち合わせていない。

 わたしが精神科に連れて行かれた時、医師は病気を扱うだけで、人生の困難に直面している人には何も答えられないことを、身をもって経験した。だからこそ、これからは自分自身が人生の指針を得て、患者さんにもそれを還元したいと思った。そもそも「医療の技術」と「医師の人間性」は別物だ。そして、この二つは両立すべき事柄でもある。わたしは病気を良くするだけではなく、人生で迷っている患者さんの役に立てるような、そんな医師になりたいと目標を立てた。

離婚という挫折で得たもの

 離婚の経験を、わたしは本当の意味での「人生の失敗」だとは思っていない。いや、一般論で言えばもちろん失敗だ。「失敗じゃないわよぉ」と言われることが多々あるが、失敗は失敗だ。離婚なんて経験しない方がいいし、無用な傷を負うことはない。後に続く後輩たちには同じ失敗をしないでほしいと切に願っている。

 失敗だと思っていないのは、開き直りではない。失敗というより挫折といった方がいいのかもしれない。わたしは医師になるまで浪人も留年もなく進学してきて、大きな挫折を味わったことがなかった。だから、医師4年目での離婚は、一度傷つき修復することで強くなる筋トレのように、わたしの心が強くしなやかになるためのレッスンだったに違いない。この人生の挫折をきっかけにわたしが学んだことは計り知れない。決して褒められるような出来事ではないにせよ、その経験が多くの方の役に立っているのは、こうして連載をさせてもらっている事実からわかる。

 「乗り越えられない試練は与えられない。むしろ乗り越えられるように脱出の道が必ず備わっている」というのが、世界のベストセラー、聖書の教えだ。わたしがこの人生の挫折で得た指針。牧師さんはよくメッセージでこう言う。「大丈夫、どんなに先の見えない困難も必ず乗り越えられる。そしてそれは糧になって将来誰かの役に立ち、傷は勲章に変わる」と。ただし、勲章に変わるかどうかは自分の考え方・取り組み方次第でもある。勲章に変わらないと、挫折し損だ。私も患者さんによくこんな話をしている。

 誰しも、時々大きな困難がやってくる。人間関係、仕事のトラブル、家族の問題、キャリアの変更、プライベート、あらゆる場面で「もうダメかも、解決しないかも、投げ出していいかな、逃げようかな」という気持ちにさいなまれることは往々にしてあるだろう。わたしも困難の最中は、なぜこんなことが降りかかっているか、これがどうプラスに転じるのか、何の意味があるのかと理解することができず、本当に心が折れそうになる。

 そんな時に思い出すのは離婚のこと。あれほど大変な中でも的確な助け手が現れたことは、わたしの胸にしっかりと刻まれている。今も問題の渦中に放り込まれてマイナス思考に支配された時、「いや、必ず良くなる。いつか勲章に変わる」と信じて取り組むことにしている。

正木先生のプロフィール写真

正木稔子(まさき・としこ)
1979年生まれ。福岡県北九州市出身。
福岡大学医学部を卒業後、日本大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科に入局。主に癌治療を行う。その後クリニックに勤務し、西洋医学に漢方薬を取り入れたスタイルで診療をしている。
現在は診療業務と並行してDoctors’ Styleの代表を務め、医学生とドクターを対象に、全国で交流会を開催したり、病を抱えた方々の声を届けている。また、ドクターや医学生に向けた漢方の講演なども行っている。
それ以外にも、国内外で活躍する音楽一座HEAVENESEの専属医を務めているほか、「食と心と健康」と題して一般の方向けにセミナーを開催し、医療だけに頼るのではなく普段の生活の中からできることを提案している。