アフリカ、エリトリア。
日本人が二人しか居住しておらず、日本大使館もない国。
遠く離れたこの国を仕事で訪れる日がくるとは、夢にも思わなかった。
わたしが「音楽外交使節団HEAVENESE(へヴニーズ)」という音楽一座の専属医になったのは数年前のことだ。2017年以降、HEAVENESEの海外遠征には同行している。台湾、ドバイ、エチオピア、そして今回のエリトリア。慣れない土地でも彼らが全力で演奏を果たせるよう、陰ながら支えるのがわたしの役割。もし現地でメンバーが体調を崩した時は症状を和らげ、パフォーマンスできる状態にする。普段の診療では病気を治すことが目的になるが、専属医としての仕事の目的は第一に、ミュージシャンにステージに立ってもらうこと。病気を根治することではない。
最初にわたしがミュージシャンのサポートをしたいと考えたのは大学5年生の時。臨床実習で病院を回りながら、「わたしは一体何科の医師になるのだろう?」と考えていた時のことだ。24歳で医師になり、80~90歳くらいまで働くとなると、ただの仕事というのでは飽きてしまうのではないか。趣味と仕事が関連していた方が続くし、楽しいだろうと考えた。音楽が大好きだったわたしは、プロの支えになりたいと「音声外来」を探し上京することにしたのだった。
その後、縁あってHEAVNESEの専属医を務めさせてもらっている。海外遠征では喉の管理を越え、あらゆる病気を想定した総合的な管理が必要だ。特にアフリカでは、コレラ、腸チフス、マラリア、住血吸虫、高山病など大学時代に座学で習っただけで臨床では診たことのない疾患が多く、勉強し直した。罹患しないようにするために、みなの食事にも気を配る。蚊にも刺されないように虫よけスプレーなど準備を徹底。風邪をひいて高熱でも出たら大変だから未病の時点で対処するように目を見張る。病院にいて患者さんを待っているのとは、視点がまったく違っていて面白い。そして何より、彼らがステージに立つ姿を舞台袖で見ていると、深い喜びが湧き上がってくる。わたしはこのために医師になったんだなと思うほどだ。