頑張れ小規模病院
ここで前回に引き続き、アンチテーゼの好きなひねくれ者の私は研修病院選びに小規模病院を推してみたい。皆が皆、大病院がイイと思い込んでいるもんだから、 敢えての小規模病院推し だ。
小規模病院での研修のメリットに「小回りの良さ」というのがある。若い医師を育てたい!そのために努力したいと思っている病院があっても、組織が大きいと、 ちょっとした変更をするのに数ヶ月から年単位の時間 がかかってしまうこともしばしばだ。
とある講演会で大病院の研修医が「救急外来で肺炎や尿路感染症の診断と抗生剤の選択のためにグラム染色をすることが、どうも教育的効果が高いらしい」と耳にした。その講演では、講師が若いころ率先して研修医たちの署名を集め病院長に提出し、救急外来にグラム染色室を作ってもらったのだそうだ。よーし!自分の病院でも救急外来にグラム染色のスペースを作ってもらうために署名を集めるぞ!と早速署名を集めて病院長に提出した。
病院長は「いまどき熱心な研修医だ。なんとかしましょう」と動き出してくれた。ところがところがだ、それから1年たっても2年たっても救急外来にグラム染色のためのスペースはできなかった。その研修医はすでに卒業し別の病院に巣立ってしまっている。誰のことかはここでは書かないが、推して知るべし。
病院長の苦悩
この病院長にやる気がなかったわけでは決してないことを付け加えておく。それどころか病院長は確実に動いていた。救急室の図面を取り寄せ、どの位置に作るのがベストか業者とも検討していた。グラム染色に必要なのは水場であるため、廃液ルートの確保やら換気の問題などいろいろとクリアする問題にも立ち向かっていた。
病院運営会議でも提案していたが、他の指導医たちからは「検査部に検体をもっていてやればいいのではないか」「わざわざ救急外来にお金を使ってまで作る必要があるのか」などと理解がまるで得られない。病院長が“よっしゃ!やろうか”と思っても、会議で通らなければ実行はされないのだ。まことに残念な話だが、これは実話だ。
小回りの効く小規模病院
当然、病院の規模が小さいほどその障壁は薄く少ない。初期研修のためのルールやプログラムはまだまだ発展途上段階だ。日本において、その地域においてベストといえるものを作り上げていかねばならない中にあって、変化させるべきものは、ある程度の手順を乗り越えてスピーデイに変えていかなければ変化もウネリも起こらない。そのためのスピード感においては小規模病院に軍配が上がると言わざるを得ない事例が多々ある。
とある田舎の小規模病院では、救急部長が研修センター長を兼任していた。初期研修2年間という限られた期間の中で、都会の病院に負けないぐらい彼らを効率よく成長させるためにはどうしたらよいかと、研修医を引き連れて全国の有名病院に研修の実態調査に行っているというのだ。そしてそこで得たノウハウをもとに次々に救急外来研修に変革を起させて、その病院で行われていた研修とは全く違った新しいスタイルを作り出している。今後に期待したいではないか。「小規模病院=研修はイマイチ」では絶対にないことを知っておこう。